今週のおすすめ映画『香港の流れ者たち』第58回金馬奨最優秀脚本賞受賞(11部門ノミネート)。世界から注目を集める、香港映画の新しい潮流は、現代の香港の人々を描く。

2023年12月14日
全体に公開

2023年12月15日(金)週公開の注目作品は、『香港の流れ者たち』第58回(2021年)金馬奨最優秀脚本賞受賞(11部門ノミネート)、第40回(2022年)金像獎10部門ノミネート、2021年アジアンフィルムアワード助演男優賞、助演女優賞ノミネートと、2021年-2022年の香港映画の中でも注目を集めた、新世代の香港映画監督、ジュン・リー監督の長編監督2作目が全国公開。
※サムネイル画像も、『香港の流れ者たち』の一場面より

『香港の流れ者たち』

(C)mm2 Studios Hong Kong

この作品の、ジュン・リー監督は、長編デビュー作となった前作『トレイシー』(日本未配給)が、第31回(2018年)東京国際映画祭アジアの未来部門で上映。本作品が2作目の長編作品となる。

この作品は、現在の香港映画界において、新人の登竜門的な存在となりつつある映画製作会社「MM2」の新人監督企画コンペ「mm2 Emerging Directors Program」の第1弾として選定・製作された作品。この作品の次、第2弾で選定された作品が、すでに日本配給・公開されたラン・サム監督『星くずの片隅で(原題:窄路微塵)である。さらに、ネイト・キー監督『7月に帰る(原題:七月返歸)が香港映画祭2023で限定上映されたばかりで、日本配給が待たれる。

また、MM2製作作品は、他にのむコレ6で上映されたチウ・シンハン監督『ワンセカンドチャンピオン(原題:一秒拳王)や今年の第36回(2023年)東京国際映画祭ワールドフォーカス部門で上映されたニック・チェク監督『年少日記(日本配給未定)がある注目の製作会社のひとつ。

(C)mm2 Studios Hong Kong
あらすじ
刑務所を出たファイは雑多で陰鬱な街・深水埗(シャムスイポー)へ戻り、ラムじいが出所祝いくれたクスリをさっそくキメる。かつてのホームレス仲間たちとふたたび高架下で暮らしはじめるが、事前通告なしにやってきた食物環境衛生署によって、ファイたちは家も身分証明書も何もかも失ってしまう。 新人ソーシャルワーカーのホーは彼らのために裁判を起こし、政府に賠償と謝罪を求める。ホーはベトナム難民であるラムじいの家族探しを手伝い、ファイの健康を心配し通院を勧め、彼らをできる限りサポートしていく。ファイはハーモニカを吹く失語症の青年に出会い、「モク」という名前を与え心を通わせていく。建設中のマンションに忍び込み、まばゆい光の海が広がる夜の深水埗の街を見下ろし、ファイはモクに静かに語りかける。

「深水埗は貧乏人が住む町だ。高級マンションを建てて、貧乏人はどこへ行く? 」

【公式サイトより転載】

この作品で描かれているのは、香港の街の片隅で生活する現代の香港を生きる人々

私たちにとって、香港映画というと、ジャッキー・チェンやサモ・ハン・キンポーが活躍したアクション映画のイメージが強いかもしれないが、隆盛を誇った時代が終わり、現代の香港映画界は、転換期を迎えている。豊富な製作費で製作される大型エンターテイメント作品は、中国大陸へ移り、一方で、香港映画は、香港政府の助成やMM2の支援で、新鋭の監督たちが頭角を現し始め、新しい視点、独自の作家性を持って描かれる作品が増えている。

それらの作品の多くは、現代の香港の人々の生活にフォーカスされている。この作品のほかにも、たとえば、今年、第18回(2023年)大阪アジアン映画祭で上映された、ラウ・コックルイ監督『白日青春』(2024年1月26日日本公開予定)は、名優アンソニー・ウォンがタクシードライバーを演じ、移民の少年との関係を描く作品となっている。他にも、新世代香港映画特集2023で上映されていた、ノリス・ウォン監督『私のプリンス・エドワード』(原題:金都)やアモス・ウィー監督『縁路はるばる』(原題:Far Far Away)なども、作品のテーマやトーンは異なりますが、同様に現代の香港を投影した社会性をともなう作品となっている

(C)mm2 Studios Hong Kong

編集部が、この作品で印象に残っているのが、家族の消息を探すラムじいを演じるツェ―・クワンホウ。ベトナム戦争後、移民として香港にやってきて、妻と息子はノルウェーに再定住している老人で、ホームレス仲間の最年長として慕われている姿を演じているのだが、この作品のなかで、印象に残る演技を、エピソードを残している。さすがの、圧巻の演技力で、作品に厚みを加えている。

この作品を観ることで、最新の香港映画の潮流はどのように流れているのか、何が描かれているのかを感じ、また、新たな香港映画を注目して欲しい。

作品情報
監督:ジュン・リー
出演:フランシス・ン、ツェー・クワンホウ、ロレッタ・リー、セシリア・チョイ、チュー・パクホン、ベイビー・ボウ、ウィル・オー
2021/香港/112 分/原題:濁水漂流/英題:Drifting
公式サイト:https://hknagaremono.wixsite.com/official
2023年12月16日(土曜)よりユーロスペースほか全国ロードショー

  【執筆者:藤井幹也】 
映画情報「Life with movies」 の運営を担当。 年間400本以上の作品を映画館で鑑賞しつつ、国内で開催される映画祭(東京国際映画祭、大阪アジアン映画祭、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭、フランス映画祭、イタリア映画祭等)へ参加している。作品配給側の視点ではなく、作品鑑賞側・観客側の視点を持ちつつ、客観性と多様性を持つ映画情報を届けるべく、と日々活動中。活動エリアは、京都を中心に、関西地域ですが、映画祭へ参加のため全国各地を飛び回る日々。
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