2年で社長は4人目。フューチャーベンチャーキャピタルの今

2023年12月6日
全体に公開

東証スタンダード市場に上場する京都のVC、フューチャーベンチャーキャピタル(FVC)が再び新体制となりました。

2022年6月の株主総会で社長が松本直人氏から個人投資家の金武偉氏に電撃交代されたことが記憶に新しいのではないでしょうか。

しかし、翌年6月の株主総会でまたしても経営陣の総退陣案が可決されたことで、再び社長が交代しました。

そして、11月30日に再び社長が交代したため、2年で社長が4人目となりました。今、FVCはどうなっているのでしょうか。

☕️coffee break

FVCは1998年に中小企業等有限責任組合法が施行されたことを受けて会社設立され、日本で初めて投資事業有限責任組合(LPS)を設立した独立系ベンチャーキャピタルです。

ベンチャーキャピタルは独立系とCVC(事業会社)に大別できますが、FVCは特定の地方銀行や信用金庫と地方創生を目的としたファンドを共同設立して、そのファンドの運用をメインにしていることが特徴です。

独立系VCは投資先の株式売却で大きなリターンを狙いますが、FVCは複数のファンドを運用することでストック収入(管理報酬)をメインにしながら、フロー収入として成果報酬(株式売却益の分配)も狙うモデルです。

2022年5月時点では地方創生ファンドを37本、CVCファンド9本、総額234億円を運用していました。

2022年5月30日「中期ビジョンと成長戦略」資料より

しかし、FVCの株主であった個人投資家の金武偉氏は、「VCであるにも関わらず、投資リターンではなく、ファンド運用から得る管理報酬がメインになっている」と指摘しました。

それゆえ、地方金融機関とのネットワークをもとにさらなる業績向上を目指すべく、経営陣全員の刷新を求め、自身を代表取締役社長とする株主提案を行ったのです。

FVC株主の約80%は個人投資家が中心だったこともあり、金氏がオンラインや手紙で株主提案の賛成者を集め続けた結果、株主総会で過半数が経営陣の総退陣に賛成したんです。

参考:【超異例】物言う株主、上場企業の経営陣「総入れ替え」に成功

しかし、翌年6月の株主提案で筆頭株主のDSG1社が、金氏を中心とする経営陣は有言実行をしておらず、株価が低迷していること、合理的な意思決定を行っていないことなどを指摘。再び、経営陣全員の刷新を求める株主提案が行われたのです。

すると、再び株主提案が可決され、DSG1の執行役員である伊藤 洋一氏が代表取締役に、DSG1の代表取締役である澤田 大輔氏が代表取締役会長に就任することになりました。

そして、伊藤 洋一氏が病気で長期療養をすることになり、11月30日付けで澤田 大輔氏が代表取締役社長に就任し、2年で4人目の社長交代となったのです。

🍪もっとくわしく

この4人の社長交代の過程で、中期経営計画の変更が3回行われました。

松本氏体制での中期経営計画(2022年6月まで)

2022年5月30日「中期ビジョンと成長戦略」資料より

地域金融機関とのファンド設立・運用規模の拡大、財務的リターンと社会的リターンの両立を目指す「インパクト投資ファンド」の設立・評価の取り入れ、他社ファンドのバックオフィス支援業務を拡大すること。

それら3事業を強化するM&AやJV(合弁会社)に3年で12億円を出資する計画を掲げていました。

金氏体制での中期経営計画(2022年6月〜2023年6月)

2022年9月発表の新・中期ビジョンと成長戦略より

FVCの強みである地域金融機関とのネットワークを活用して、地方で後継者不足に悩むサーキュラーエコノミー(廃棄物の発生を最小限化する経済システム)分野でのM&Aを掲げたことが大きな変化です。

特に仮想発電所・水素ステーションなどの次世代エネルギー、リサイクル・ゴミ、バイオケミカル分野を中心にM&Aを模索していました。

伊藤氏・澤田氏体制での中期経営計画(2023年11月発表)

新中期経営計画(フューチャービジョン 2027)より

松本氏、金氏体制での計画を引き継ぎ、既存の投資事業を拡大しながらも新規事業にも取り組みます。

1. 直接投資:IPOコンサルティング会社・証券会社からの紹介をもとに既存ファンドと利益相反にならないスタートアップにバランスシートから直接投資

2. M&A:地域で安定的な経営成績の企業、後継者不足に悩んでいる企業、VC事業もしくは投資先の成長に貢献する事業を展開する企業の子会社化

サーキュラーエコノミー分野でのM&Aは契約締結が間近まで進んでいたものの、株主総会で経営陣が交代する可能性が生じたため、M&A候補企業側から破談を持ちかけられたようです。

これを受け、新経営体制ではサーキュラーエコノミー分野でのM&A事業は中止し、既存のファンド事業の拡大を中心に据えた経営計画を構築したのです。

2023年3月期は売上高5.6億円、経常利益2.1億円、ファンド運用総額は222億円
→2027年3月期には売上高30億円、経常黒字、ファンド総額300億円の達成を目指しています。

新経営陣のもと、FVCはさらなる成長をできるのか、そして地方から有望なスタートアップを輩出することができるのかに注目です。

サムネイル画像:DALL·E 3での画像生成

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