日本勢唯一!「GITAI」が米DARPAの月面プロジェクトに参加へ

2023年12月10日
全体に公開

米国防総省の研究開発部門である国防高等研究計画局「DARPA(ダーパ)」は、月面経済構築に向けた10カ年プロジェクト、『10-Year Lunar Architecture (LunA-10) Capability Study』に参加する民間企業14社を発表しました

SpaceX、Blue Originなど名だたる宇宙ビジネス企業と並んで、日本勢で唯一、宇宙ロボットを開発するGITAI(ギタイ)が選ばれました。

米国政府が推進する野心的なプロジェクトの概要と、GITAIが選定された背景に迫ります。

☕️coffee break

「LunA-10」は、DARPAが今後10年の月探査において、平和利用のために最適な科学研究と商業開発が行われるようビジョンと道筋を描くべく発表されたプロジェクトです。

2023年4月にNASAが発表した人類を月から火星へ送り込むための長期探査アプローチ「アーキテクチャ・コンセプト」と連携・補完しながら、技術と経済性の両方を追求しながら、10年以内に自給自足した月面経済システムを構築することを目的としています。

月面経済の基盤となるのは、交通/モビリティ、エネルギー、通信の3分野。これら3分野とテクノロジーを組み合わせて、統合開発をすることで、建設・鉱業・医療・科学分野なども発展すると考えられています(参考:2021年のPwC調査レポート)。

そのために、2024年4月にプロジェクト実行に向けた80%の成果物を発表

6月までに最終報告書を完成

2035年までに商業利用できるサービスを創出する構想を描いています。

今回は第一弾プロジェクトとして、7ヵ月間10カ年計画を推進するための能力調査に協力する企業が大手〜スタートアップまで14社との契約が発表されました

各社の役割は公表されていないものの、6つの分野を重点的に調査研究を実施します。

1.通信・位置情報

2.建設・ロボティクス

3.月面市場の分析

4.資源採掘・利用

5.エネルギー

6.移動・モビリティ・物流

🍪もっとくわしく

今回、日本勢で唯一選定された「GITAI」は2016年に日本で創業されたスタートアップです。

しかし、本格的な事業拡大に向けて、2023年11月に親会社(本社)を、GITAI JapanからGITAI USAに移しました。同時に中ノ瀬CEOと上月CTOは米国での合法的永住資格を取得したことを発表しています。

同社が取り組んでいるのは、宇宙での作業コストを現在の100分の1にまで削減することです。

宇宙飛行士が国際宇宙ステーション(ISS)で1年間活動するには約400億円の費用がかかります。

GITAIはロボットアームと月面ローバー(月探査の無人ロボット)を開発することで、宇宙飛行士の作業を代替し、作業コストを100分の1にまで下げることに取り組んでいるというわけです。

現時点で、GITAIの宇宙ロボット稼働によるコストは1時間あたり13万ドル。すでにこの分野ではリーディングカンパニーの1社となっていますが、構想の実現に向けてさらなる加速を狙います。

「LunA-10参加に関するGITAI 中ノ瀬CEOの投稿(日本語は英語に続く)」

その他に選定された13社をみていきましょう。

1.Blue Origin(ブルーオリジン)

👉Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏が設立したロケット開発のスタートアップ。再利用可能で垂直に離着陸するロケットと月着陸船を開発しており、有人宇宙飛行のコストを劇的に安くすることを目指しています。

2.CisLunar Industries(シスルナー・インダストリーズ)

👉2017年に設立されたシードスタートアップ。宇宙空間で宇宙ゴミの金属物質をリサイクルして、金属棒や金属板などを製造すべく、開発に取り組んでいます。

3.Crescent Space Services(クレッセント・スペース・サービス)

👉航空機製造大手のロッキード・マーチンが2023年に子会社として設立。月ー地球間の通信・ナビゲーションネットワーク構築に向け、25年に最初の衛星を打ち上げる予定です。

4.Fibertek(ファイバーテック)

👉1983年に設立されたレーザー・電気光学企業。すでにNASAや国防総省・米陸軍などに軍事・航空宇宙向けのレーザー通信システムを提供しています。

5.Firefly Aerospace(ファイアフライ・エアロスペース)

👉2017年には破産申請をするも再起を図ってきました。中・小型宇宙ロケット→軌道輸送車両→月着陸船までワンストップの宇宙移動システムを開発しています。

11月にはシリーズCで約440億円の調達を発表しました。

6.Helios Project(ヘリオス・プロジェクト)

👉2018年に設立されたイスラエルのスタートアップ。地球低軌道や月面で宇宙船エンジンの推進剤(燃料)を供給することで、宇宙飛行コストを大幅に削減する技術を開発しています。

7.Honeybee Robotics(ハニービー・ロボティクス)

👉1983年に設立されたロボットSIer企業で現在はBlue Originの子会社(2022年に買収)。設立3年目にNASAの契約を獲得して以来、宇宙・火星探査のための宇宙船やロボット探査機も開発しています。

8.ICON Technology(アイコン・テクノロジー)

👉テキサス州オースティンで3Dプリンターで100軒以上の家を建て、一躍社名が知れ渡ったスタートアップ。月面で居住可能な住宅の開発にも取り組んでいます。

9.Nokia of America(ノキア・オブ・アメリカ)

👉フィンランドの通信機器大手Nokiaの米国法人。月面初の携帯電話ネットワークの展開を目指しています。

10.Northrop Grumman(ノースロップ・グラマン)

👉1994年にNorthropがGrummanを買収して誕生した世界4位の軍需メーカー。衛星から商用宇宙ステーション、宇宙太陽光発電、宇宙望遠鏡まで幅広く開発しています。

11. Redwire Corporation(レッドワイヤー・コーポレーション)

👉2020年に宇宙分野を中心に投資をするPEファンドAE Industrial Partnersによって設立され、21年にニューヨーク証券取引所にSPAC上場しました。宇宙空間での太陽光発電から3Dプリンティング、バイオテックまで、買収による多角化戦略をとっていることが特徴です。

12. Sierra Space(シエラ・スペース)

👉垂直統合型のアプローチで市場開拓とシェア確立を目指しています。滑走路から自力で離陸して大気圏に突入する宇宙船、宇宙での居住空間開発や、医薬品・材料開発など技術応用、民間宇宙飛行士訓練プログラムまで取り組んでいます。

13.SpaceX(スペースX)

👉イーロン・マスク氏率いるSpaceXのロケットは、2023年上半期に米国から打ち上げられたロケットの88%、世界全体の64%を占めており、事実上独占状態。今年の売上高は90億ドル見込みで、24年には150億ドル前後に達すると見られています。

今回のプロジェクトは米国政府が主導しているため、選出された14社全てが米国法人です。

中ノ瀬CEOの投稿にもあるように本社を米国に移すと共に自身も米国永住権を取得することで、プロジェクトに参加することができたのです。

経営陣がそれほどの覚悟を持って取り組む、GITAIの動向には注目です。

サムネイル画像:DALL·E 3での画像生成

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