終戦の日を前に考える、核兵器と侵略戦争/国際的な合意が破られることの意味
みなさま、こんにちは。
3連休初日の今日は8月11日。日本はまもなく78回目の終戦の日を迎えます。
この時期、日本では戦争や核兵器について考える機会が増えるように思います。様々な式典で平和の誓いが語られ、メディアでも戦争について取り上げる記事や番組が増えます。
個人的に、ことしの夏は特に核兵器について考えさせられる機会が多いなと思っています。
ウクライナが攻撃されたのは核を放棄したから?
最近、とても気になる記事がありました。日本育ちでウクライナ在住のボグダンさんという男性が朝日新聞のインタビューに応じていたものです。
以前、NewsPicksにも登場していただいたボグダンさんは、丁寧な日本語で率直にウクライナの様子を語ってくださる、とても心優しい方です。
このインタビューでは祖父に対して「核兵器を放棄したから侵略を招いたのではないか」という疑問をぶつけたエピソードなどが紹介されています。
核兵器の放棄というのが念頭に置いているのは「ブダペスト覚書」という合意です。
ソ連が崩壊した時、ウクライナには米ロに続いて世界で3番めに多い数の核兵器が置かれていました。
アメリカやイギリスは核の拡散を懸念し、ウクライナなど旧ソ連の国々に核兵器を手放すよう求めました。
この時、当時のウクライナ大統領は核の放棄にかなり抵抗したとされています。当時、ソ連崩壊によって弱っていたロシアはいつか必ず復活し、軍事的脅威となることが分かっていたからです。
そこでウクライナが求めたのは日米同盟のようにアメリカなどがウクライナの軍事的な安全を保障することでしたが、実現せず。
かわりに、アメリカとイギリスとロシアの3カ国がウクライナの政治的な独立と領土一体性を保障するという合意で決着しました。
これが、ざっくりとしたウクライナが核兵器を廃棄した背景です。
守られなかった約束
しかし、ブダペスト覚書から20年にあたる2014年。ロシアはウクライナ領のクリミア半島を一方的に併合し、ブダペスト覚書を破りました。
そして御存知の通り、2022年2月24日にはウクライナに全面侵攻し、侵略戦争は今も続いています。
「核兵器を放棄したら、20年後にロシアが攻めてきた」というのがウクライナ側から見た景色で、1994年当時の懸念は現実になってしまったように思えます。
しかし一点難しいのは、1994年当時にウクライナにあった核兵器はあくまでロシア軍が指揮系統を継いでいたことです。つまり、ウクライナに核弾頭があるからといって、ウクライナが自由に発射したりすることは不可能でした。
危なっかしい兵器を維持するコストや敵に狙われるリスクが増え、使えない兵器になるということです。
(詳しくは上記の朝日新聞のコメント欄に鈴木一人先生がコメントしています)
おそらく94年にブダペスト合意を結ばず、ウクライナがソ連製の核弾頭を国内に残していたとしても今回の侵攻を防ぐのに役立ったかは微妙なところです。
もちろん、心情的にはボグダンさんのメッセージにはとても意味があると思っています。
ルールに、意味はあるのか
ではなぜ、ウクライナは侵略されたのか。より直接的な理由は国際合意をが守らなかったからではないかと思っています。
おさらいですがブダペスト覚書は「ウクライナの独立を核保有3カ国みんなで保障する」という枠組みでした。
これを破って戦争に打って出たロシアはもちろん、論外です。言うまでもなく最も強く非難されるべきはロシアで、彼らが正しい選択をすればこんな悲惨な戦争は起きませんでした。
しかし同時に、署名国の一員だったアメリカやイギリスも、ウクライナの領土一体性を自らの手で守る行動は取りませんでした。
バイデンは早々に「戦争になっても米軍は派遣しない」と宣言し、当初はウクライナへの武器の支援にすら今ほど前向きではありませんでした。
もしも2014年のクリミア併合後にアメリカやイギリスがロシアに対してもっと強く反応していれば。
あるいは2022年にウクライナの独立をなんとしても守るという強いシグナルを示していたら、結果は変わっていた可能性があります。
アメリカもイギリスも、開戦1ヶ月が経ったくらいから兵器の支援などでウクライナを支えています。
もちろん、兵士を派遣できない中でやれる支援をやっているのは間違いないですが、彼らにはブダペスト覚書という国際的な合意を守れなかった背景があるのも事実なのです。
国際的な合意やルールが意味をなさず、核保有国が正面から攻めてくる。この試みが成功するなら法の支配は終わり、力の支配に移行することになります。
そうなれば、独自の核保有を考える国は当然出てきます。例えば韓国は歴史的に核武装論が根強く、世論調査では7割もの人が核武装に賛成しているとされます。
だからといってアメリカの同盟国である韓国が核武装の道を突き進むことは考えにくいですが、世界で核兵器の価値が劇的に向上しているのは事実です。
そして、これは唯一の被爆国である日本にとっては大きな意味を持ちます。
核兵器の価値が高まる中、核軍縮・核廃絶という日本の国是をどのように追求していくのか。日本も大きな挑戦に直面しています。
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