暑い夏には、赤でも白でもなくロゼ。“万能ワイン”の世界的ブームが日本にも必ず来る

2023年7月31日
全体に公開

都内のフレンチレストランで先週、4人でディナーをいただきました。1人はアメリカのNYから、もう1人は名古屋から。この2人が同じタイミングで東京に来るということで、場を設けました。

ここは「おまかせ1コース」で若い人たちにも人気のカジュアルなお店。私はレストラン選びでは、信用できる友人や知人にいつも相談するのですが、今回は“流行りのレストラン”のトレンドを見てみようと思って一般的な口コミから予約しました。

4人が席に揃うと、飲み物は「ワインペアリング」を勧められました。前菜からメイン料理、デザートまで、料理に合わせたグラスをこちらも「おまかせ」というわけです。

料理が進むなかで、タコの1皿に合わせて出された1杯は、サーモンピンク色のロゼ。美食で知られるスペイン・バスク地方のワインでした。

おまかせコース&ワインペアリングで、何気なく出されたロゼですが、実はこれ、ワイン業界や世界のレストランの流行に合わせたセレクトです。ソムリエの私は「やっぱりロゼを入れてきたかぁ」と思わず、心の中でうなりました。

Camille Chen/Unsplash

ロゼは花見用? 日本では3%のマイノリティ

日本のワイン消費全体でロゼの比率は3%にすぎません。まだまだメジャーとは言えず、手軽に買えるスーパーやコンビニだと置いてある店もわずかです。

「お花見用のワイン」「ロゼは甘口」「クオリティーが低いのでは?」......。

こうした声も聞こえます。赤や白よりも“格下”という誤解があるようです。

Kathy Chen/Unsplash

ただ、この10年ほどで、国内でもワインを扱うレストランを中心にロゼの人気が広がっています。

レストランに限らず、友達と一緒に過ごすホームパーティやBBQ、グランピング。さらには海や湖を眺めて1杯。暑い夏にピッタリなのが、ロゼです。今回の記事を読み進めて、「流行りのロゼもおさえている」というワイン通にぜひなってください。

AdobeStock

フランスでは、白ワインよりロゼが飲まれている

ロゼ人気はいま、世界に広がっています。なかでもワイン大国のフランスでは、飲まれるワインの3本に1本がロゼ。白ワインの消費量をすでに上回っています。

私はこれまで50回以上、フランスを訪問してきましたが、各地のスーパーでワイン売り場をのぞくと、白よりもロゼのほうが圧倒的に種類が多いのです。

Age Improves with wine

ではなぜ、ロゼワインが人気なのでしょうか?

理由の一つが、食の変化です。

フランスでも健康志向が広がり、ヘルシーで軽やかな味付けの料理が好まれるようになってきました。それに合わせて飲まれるワインの嗜好も変わってきたというわけです。

特に若い世代を中心に、軽やかでフルーティな味わいのロゼが受け入れられていることもあるようです。

赤と白の良さを兼ね備えた万能な1杯

人気を押し上げているもう一つの背景は、「何かと重宝するワイン」というロゼの位置付けです。

理解を深めるために、ロゼの造り方に注目しましょう。

ピンク色で知られるロゼワインですが、淡いピンクから、サーモンピンク、赤に近い色までさまざまです。色の違いは、造り方の違いによるところが大きいです。

「赤と白を混ぜているの?」と思う人も少なくないでしょうが、ここでは主に2つの造り方を解説しましょう。少し専門的になりますので、ここだけスキップしてもOKです。

①直接圧搾(あっさく)法:圧力を加えて密度を高めるのを圧搾といい、白ワインに近い醸造方法です。ただ、ロゼで使われるブドウは赤ワインに使われる黒ブドウです。絞った果汁がほんのりピンクに色づくため、ロゼワインになります。色は淡く、軽くてフルーティな味わいです。
②セニエ法:ロゼで最も広く使われる方法で、赤ワインに近い醸造方法です。赤ワインでは果汁に果皮をしばらく漬け込むことで、果皮から赤い色素やタンニン成分が抽出されます。セニエ法では、この漬け込み時間を短くして、ピンク色になった時点で果汁を引き抜きます。①の直接圧搾よりも色が濃く、味わいもしっかりとしています。

簡単にまとめると、①「白ワインの造り方で黒ブドウを使っている」、②「赤ワインの造り方で漬け込む時間を短くしている」ということになります。これによって、ほんのりピンク色が加わっています。

AdobeStock

白のフレッシュさと赤のボディを兼ね備えた味

こうして造られたロゼですが、どんな味わいになるでしょうか?

ソムリエ的に表現すると「白ワインにちょっと膨らみが出て、赤ワインよりは軽やか」という味わいになります。

一般的に、白ワインの特徴はフレッシュさ。一方、赤ワインはボディが魅力です。ボディとは、味や風味(コクや重厚感、密度、渋味、ふくよかさ)を表すときに使われます。

この点でロゼは、①や②の方法で造られたために、「白ワインのフレッシュさと、赤ワインのほどよいボディを兼ね備える」というわけです。

この“いいとこ取りの万能さ”は、お料理に合わせやすいだけでなく、「白と赤、どっちにする?」といった悩みも解決してくれます。フランスをはじめ世界中で「ロゼは重宝するワイン」として広く認知されているのも納得ですね。

和食であれば、ワインを合わせるのがちょっと難しそうなお醤油や臭みが出てしまう生物にも、ロゼは合わせやすいです。お料理にワインを合わせる時に「色を合わせる」と言うのですが、中華やアジア料理には特にロゼがお勧めなのです。

これから日本をはじめアジアでも、ますます人気が広がるでしょう。

Lavi Perchik/Unsplash

夏=ヴァカンス=ロゼワイン

そんなロゼですが、いまの季節に特におすすめします。ワインが生活の一部になっているフランス人にとって、ロゼは夏の象徴です。

フランスの夏は日没が21時すぎ。友人たちと集まって、夜も屋外で延々とおしゃべりが続きます。料理は野菜からシーフード、お肉料理までシンプルなもので、ここでロゼ1本あれば十分となります。

フランス人にとって「夏にロゼワインを飲む」こと自体が、ヴァカンスなのかもしれません。気分にぴったり合うロゼの気軽さが、その出番をより増やしています。

世界的に有名なロゼワインの産地は、南フランスのプロヴァンス地方です。丘陵地が多く、ブドウやオリーブ栽培も盛んですが、ワイン生産の9割がロゼワイン。まさに「プロヴァンスといえばロゼワイン」と言えます。

プロヴァンスは、リゾート地としても憧れの地です。俳優のブラット・ピットが別荘として所有し、ワイン造りをしている「Miraval」も、ここにあります。

Johny Goerend/Unsplash

夏の暑さに「すーっと染みこむ」1杯

余談ですが、私の趣味はスキューバダイビングです。

コロナ前は、夏休みに1週間ほど船に乗り込んで紅海などで潜っていました。

船上にいろいろなワインを持ち込んだのですが、世界から集まったダイビング仲間に一番人気だったのが、プロヴァンスのロゼです。

ダイビング後の身体と心にすーっと染みこみ、暑さや疲れを癒してくれました。自然とみなさんのグラスが空くのも早かったのが印象的です。

federica ariemma/Unsplash

皆さんも今年の夏は、世界のトレンド「ロゼワイン」を取り入れてみてはいかがでしょうか。

レストランで楽しむのもいいですが、ご自宅や海、プールなど屋外でも楽しめる見た目にも華やかなワインです。会話も弾んで、夏の思い出をきっと彩ってくれるでしょう。

文:古川康子(シニアソムリエ)

編集:野上英文(MIT Sloan Wine Club)

応援ありがとうございます!
いいねして著者を応援してみませんか



このトピックスについて
樋口 真章さん、他329人がフォローしています