老舗コスメをテクノロジーで大変革、時価総額3800億円スタートアップ
7月19日、イスラエルの美容テックスタートアップ「Oddity Tech(オディティ・テック)」が米Nasdaq市場に上場しました。
IPO市場が未だ回復途上の中、上場初日に35%株価が上昇。終値ベースの時価総額は27億ドル(約3800億円)と好スタートを切りました。
この会社、1972年創業の米コスメブランド、「IL MAKIAGE(イル・マキアージュ)」(資生堂の「マキアージュ」とは別です)をテクノロジーで変革して再成長させた、非常に面白いスタートアップです。
☕️coffee break
オディティは2013年に設立され、4つの事業を展開しています。大別すれば、プラットフォームと自社ブランド事業の2タイプあります。
・AI/機械学習モデル「PowerMatch (パワーマッチ)」「SpoiledBrain(スポイルドブレイン)」
・クリエイター主導のメディアプラットフォーム「Kenzza(ケンザ)」
・メイクアップブランド「IL MAKIAGE(イル・マキアージュ)」
・ヘアケア・スキンケアブランド「SpoiledChild(スポイルドチャイルド)」
2022年の通期決算は収益3億2450万ドル(前年比+45%)、営業利益2766万ドル(前年比+41%)、顧客の注文額も前年比約45%増、2023年3月末時点ではアクティブ顧客数(12カ月以内の購入者)は4000万人超えとなっています。
ファッション誌のWWDによると、オディティは2020年〜2022年にかけて世界的に最も急速に成長している美容プラットフォーム。2021年まではイル・マキアージュは米国で最も急速に成長した美容ブランドだったそう。
もう一つの自社ブランド、スポイルドチャイルドは2022年にリリースされたばかり。1年で売上4800万ドル(約67億円)を上げるロケットスタートを遂げたものの、売上高の大半はイル・マキアージュです。
主力事業のイル・マキアージュは、1972年にイスラエルのメイクアップアーティストが米ニューヨークで立ち上げたブランド。経緯は不明ですが、オディティが何らかの形で運営権を取得し、2018年にオンライン主導のブランドにリブランディングしてローンチしました。
🍪もっとくわしく
転機となったのは、2017年のこと。
LVMH系のPEファンド「L Catterton(エル・キャタルトン)」がオディティに出資し、株式35.8%を保有する主要株主となりました。
これにより、オディティはブランド運営に豊富な知見を持つL Cattertonとともにオフライン中心に販売されているイル・マキアージュの事業戦略・海外戦略を再構築することができたわけです。
オディティはイスラエル発ということもあり、イスラエル国防軍の特殊作戦部門技術部隊「Unit 81」のメンバーを中心に構成されるなど、社員の40%以上はエンジニアであることが特徴です。
この強みを生かして、データ サイエンス、機械学習、コンピュータービジョンに多額の投資を行い、ユーザーデータをもとにアルゴリズム・機械学習モデルの開発に注力して、新たなショッピング体験の提供に取り組んできました。
既存のコスメブランドが実店舗での卸売販売をメインに展開するのに対し、オディティでは、オンラインで消費者に直接届けます。さらに10億以上のデータをもとにパーソナライズすることに注力しています。
例えば、イル・マキアージュの自社ECサイトでファンデーションを購入したいと思った場合、クイズに答えていくと、700通りの肌色の組み合わせから、最適な商品を提案してくれます。
また、サイトにインフルエンサーの写真が掲載されているため、お気に入りに保存すると、最適な商品が探しやすくなったり、メイクアップ動画を見ながら、使われている商品をそのまま購入することも可能になっています。
これが実現できるのは、オディティが2019年に機械学習アルゴリズムを開発するNeoWizeを、2021年にコンピューター・ビジョン開発のVoyage81をそれぞれ買収したことが大きな要因になっています。
自分の顔写真をアップした場合には、AIが肌や髪の特徴、顔の血流を分析し、メラニンやヘモグロビンのマップを作成して、90% 以上の確率で適切な色を提案できるほどの技術まで磨き込むことができました。
これにより、大量の顔データが蓄積されるため、より迅速にブランド・商品開発につなげることができます。
さらに2023年5月にはバイオテック企業Revelaを買収したことで、分子レベルからこだわった化粧品を開発することが可能になるなど、テクノロジーで美容業界を変革するプレイヤーへと近づいたわけです。
🍪ちなみに
今回のオディティの上場、エル・キャタルトンにとっては、5000万ドル(約70億円)の投資が18倍の9億ドル(約1269億円)に大化けしたホームラン案件となりました。
すでに実現益も2億4000万ドルと、投資額の約5倍近いリターンを得ています。
それほどの案件だけに、今回のオディティの上場は、米国のIPO市場を回復させる大きな転換点になる可能性もあります。
サムネイル画像:Unsplash/Raphael Lovaski
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