カーボンフリー火力を紐解きます

2023年4月1日
全体に公開

新年度が始まり、日本では桜の季節を迎えているのではないでしょうか。今日は、ずっと書きたいと思っていたカーボンフリー火力についてついに取り上げたいと思います。火力発電と言えば、石炭やガス、石油を燃やして電力を作ることが一般的ですが、カーボンフリーということは、発電の燃料がこれらの化石燃料でなく、燃やしても温室効果ガスを排出しない、もしくは排出してしまった温室効果ガスを回収するということになります。前者の燃やしても二酸化炭素を排出しない燃料として、日本が注目しているアンモニアと水素、(前回の投稿では水素を取り上げましたので、)今回は特にアンモニアについて書きたいと思います。

0.アンモニアとは?

前回の水素と同じように3つの質問に沿って書きたいと思います。その前に、そもそもアンモニアとはなんでしょうか?

アンモニアと言えば、有毒ガスです!触ったら危険というイメージがあるアンモニアは化学記号で示すとNH3なので、前回の水素の投稿でも触れましたが、これは窒素と水素の化合物です。今は、農業用の肥料に8割が使われています(下図参照)。

出所:経済産業省 https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ammonia_01.html

1.どうやってつくられる?

上でも書きましたが、窒素1に対して水素3必要で、その化合物がアンモニアのNH3となります。結合させるプロセスがハーバーボッシュ法と呼ばれており(下図参照)、高温を必要とするプロセスとなります。つまり、水素が何で作られているか、化石燃料で作られていないか?という前回の投稿で気を付けるポイントもありますし、高温を必要とするので、その熱を生み出す燃料が化石燃料であるケースがほとんどなので、そこのチェックも必要です。

出所:経済産業省、https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ammonia_01.html

そのため、アンモニア製造は産業界の二酸化炭素排出量の5%を占める、多排出産業なのです。

出所:IEA, https://www.iea.org/reports/ammonia-technology-roadmap/executive-summary

2.どこからきたのか?

現状、アンモニア製造は肥料用途がほとんどですので、国内での製造が約8割を占めています。

出所:経済産業省、https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ammonia_01.html

今後、他の用途に使うことを前提として日本は覚書や協議などを他国の企業と始めています。

3.何に使うのか?

今は農業の肥料用が大半ですが、日本が注目している一つは、火力発電所に使ってカーボンニュートラルを実現することです。下図にあるように、一気にアンモニアを発電所で燃やすのではなく、少しずつ段階を経てアンモニア専焼に持っていく計画です。2030年までにはアンモニアを20%の割合で石炭と混ぜて燃やし、2040年までには50%、そして2050年までには100%という具合です。

出所:国土交通省、https://www.mlit.go.jp/kowan/content/001418023.pdf

4.排出量は?

排出量は大きく3つの要素にわけられます。

①アンモニアがどうやってつくられているのか。化石燃料なのか(グレーアンモニア)、化石燃料だけれど排出された二酸化炭素を回収貯蔵しているのか(ブルーアンモニア)、それとも再生可能エネルギーから作られているのか(グリーンアンモニア)。

出所:https://www.transitionzero.org/insights/advanced-coal-in-japan-japanese

②アンモニアの混焼割合。3で述べたように20%混焼なのか、50%混焼なのか、それとも100%混焼なのか。

この①と②の要素を組み合わせて、二酸化炭素の排出量を比較したのが下図です。日本ではアンモニアを石炭火力発電所に混ぜて使用する予定です。結論から言うと、グリーンアンモニアでさえも、50%混焼してもガス火力発電所よりも排出量が高いということです。つまり、二酸化炭素排出量を減らすには、50%よりも高い混焼率が必要ということです。

出所:BNEF, https://assets.bbhub.io/professional/sites/24/BNEF-Japans-Costly-Ammonia-Coal-Co-Firing-Strategy_FINAL_JAPANESE.pdf

③そもそも窒素化合物なので、燃焼させて酸素と結合すると、温室効果ガスである亜酸化窒素を排出します。亜酸化窒素は二酸化炭素よりも273倍温暖化を引き起こすポテンシャルが高いのです(下図参照)。

出所:BNEF, 米国環境保護庁、https://assets.bbhub.io/professional/sites/24/BNEF-Japans-Costly-Ammonia-Coal-Co-Firing-Strategy_FINAL_JAPANESE.pdf

電力中央研究所によると、燃焼率が40%以上であれば、亜酸化窒素排出量の割合が小さくなるということのようです。

したがって、50%以上の混焼率が必要ですが、日本のアンモニア燃料ロードマップでは、2040年以降にそれが達成される見込みなので、それまではこのアンモニア混焼技術を導入すると排出量はガス火力よりも高く、さらに二酸化炭素よりも温暖化を加速する亜酸化窒素が排出されてしまいます。

5.コストは?電気代に響かない?

今の技術動向のままではコストは高くなるでしょう。グリーンアンモニアが最も排出量が低いので、それをベースに考えると、混焼すればするほどコストはかさむ調査結果です。これはアンモニア自体が燃料として高いことを意味しています。その結果、洋上風力発電の方が安くなる調査結果です(下図参照)。

出所:BNEF, https://assets.bbhub.io/professional/sites/24/BNEF-Japans-Costly-Ammonia-Coal-Co-Firing-Strategy_FINAL_JAPANESE.pdf

6.まとめ

カーボンフリー火力は日本のカーボンニュートラル戦略の柱に位置付けられています。アンモニア混焼は上記で見てきたように、排出量削減の確実性が低く、コストも高くついてしまう可能性があります。これが、うまく機能するためには、混焼率100%を早期に達成させると共に、コスト削減をしていかなければなりません。そのためには、技術発展のための資金、パートナーシップ、そしてアンモニアの供給拡大のためのサプライチェーンの構築と、需要拡大が必要です。どれをとっても日本だけでは達成できませんので、他国との協力が必要です。今のところ、アンモニア混焼の国家戦略を持っているのは、日本と韓国のみです。他国は、電力の脱炭素には再生可能エネルギーの方が確実で、コストが安く、自国でのエネルギー自給率を高めることができる(他国に頼らずに良い)ため、そちらに力を注いでいます。

孤立する日本のカーボンフリー火力の今後の行方に注目するとともに、日本も早期に再生可能エネルギーでのエネルギー自給率を高め、エネルギー安全保障を強化する政策に大きく舵を切ることを願っています。

長文最後まで読んでいただきありがとうございました。コメント欄にぜひ感想や次のテーマのリクエストなどいただけたら嬉しいです。よろしくお願いいたします!

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