SNSは人々の健康にどのような影響をもたらすのか

2022年11月18日
全体に公開

もはやソーシャルメディアを使わない人はほとんどいないという時代。ソーシャルメディアは、多かれ少なかれ、人々の健康にも影響を及ぼし続けているはずです。

ポジティブな側面に目を向ければ、ソーシャルメディアは、人々の交流を容易にしましたし、情報交換を活発にしました。私のように、遠くニューヨークに住んでいても、日本にいる友人が身近に感じられるようになりました。

その一方で、負の側面もあるでしょう。面と向かってならとても発せられなかったような誹謗中傷が容易に発信されるようになり、心を傷つける人が増えてしまったかもしれません。あるいは、ソーシャルメディアで発信される情報は、注目を集めやすいものに偏り、それが平凡な自分と比較されてネガティブなセルフイメージにつながるなどの側面もあるかもしれません。

一体、ソーシャルメディアは、人々の身体や心の健康にどのような影響を与えてきたのでしょうか。

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今日ご紹介する研究は、その一部を明らかにしようとした研究で、2017年に公開されたものです(1)。

対象となったのは、Facebookの利用者。中でも、Facebookのデータを大学の研究者が取得することに同意した人です。この時点で、対象者が少し偏りはじめることがお分かりいただけると思います。Facebookの情報が人に見られても良い人だけが選ばれるので、「国民全体」を反映しにくいものになりそうです。

こういった視点は、新聞や雑誌に掲載されるアンケート調査の結果を見る上でも大切なところです。それらのアンケート調査でも同様に、対象者は偏った集団であることが多いからです。

これらの対象者から、2013年、2014年、2015年のタイミングで、フェイスブックでLikeを押した回数、シェアされたリンクのクリック回数や「友達」の数が測定されています。また、オンラインアンケートにより、身体的健康や心理的健康、人生に対する満足度などが集計されています。また、それらと同時に、友人とどれだけ対面で会ったかなどといったオフラインの社会生活についてもデータが集計されています。

ここにも注意の必要な点があります。こうしたアンケート調査では、思い出しの際に、偏りが生じる傾向にあるということです。

少しこの研究とは離れた例になりますが、例えば、人工甘味料摂取と大腸がんとの関連をアンケート調査で証明しようと、大腸がんを患った人と、大腸がんのない人をそれぞれ集めたとします。そして、それらの方にアンケートを行って、人工甘味料の摂取状況を聞いていきます。

すると、大腸がんを患った人の方が、人工甘味料が原因だったのかもしれないとより必死に思い出し、自分ごとになりにくい大腸がんのない人は過少申告するといった偏りが生じえます。この場合、真実としては何の関連性がないとしても、こうした偏りによって「人工甘味料と大腸がんの間に関連性が示された」とミスリードな結果が導かれる可能性があります。このように、アンケート調査は偏りと常に隣り合わせなのです。このような偏りを「バイアス」と呼んでいます。

さて、話を研究結果に戻します。この研究では実際どのような結果が導かれたのでしょうか。

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結果を見てみると、FacebookのLikeを押した回数やリンクのクリック回数が増えれば増えるほど、身体的健康や心理的健康のスコアが低下するというネガティブな関連性が見られました。逆に、オフラインでの友人との交流は、増えれば増えるほどそれらのスコアが増加するというポジティブな関連性が見られました。

「いや、Facebookの利用が増えれば増えるほどオフラインの交流が減るからこそ、健康に影響が出たのでは」という疑問も生じますが、このオフラインの交流の度合いを加味して評価しても、同様のネガティブな関連が見られました。

「いやいや、これは逆の時間関係で、心理的な健康が害されたからこそFacebookの利用が増えたのではないか」という疑問も生じますが、この疑問もこの研究ではクリアしようとしています。例えば、2013年のfacebookの利用データと2014年の健康スコアの関連が評価され、時間的にfacebookの利用後に健康スコアにどのような影響があるかという関連を見て、同様の関連が見られたのです。

また、Likeを押す回数が多い順に3グループに分類し、多いグループほど健康スコアが低くなるという関連も評価されています。これは、「量反応関係」と言われるものです。

こうした量反応関係や時間関係というのは、「関連性」から「因果関係」の証明に近づけるための根拠になりうるものです。もちろん、これだけで因果関係を証明できるわけではなく、さらに他の研究でも繰り返し確認できるか、バイアスや偶然の可能性はないか、関連性自体は十分強いものか、などを多角的に評価する必要があります。

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以上のような結果から、FacebookのLikeの回数やリンクのクリック数は、身体的、心理的な健康との間に何らかの関連性がある可能性が示唆されます。これはもちろん、Facebookの利用時間までを反映したものではないので、ソーシャルメディアの利用全般との関連までは言及できません。また、他のプラットフォームにも言及はできません。

そもそも、「ソーシャルメディアの利用」自体が多様であり、それを正確に評価する研究を行うことは難しいタスクです。しかしながら、ソーシャルメディアが生活に浸透する今、こうした研究の重要性が増していることも間違いありません。

私たち医療者も、もっともっと目を向けなければならないテーマなのだと感じています。

参考文献

1         Shakya HB, Christakis NA. Association of Facebook Use With Compromised Well-Being: A Longitudinal Study. Am J Epidemiol 2017; 185: 203–11.

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