なぜ私は「コードを書かない」と決めた(決められた)のか
トレジャーデータCEOの太田一樹です。
昨年11月、共同創業者である古橋貞之が、MIT Technology Reviewにて、Innovators Under 35に選出されました(リンク)。
トレジャーデータに多大な貢献を果たしてきた古橋が「世界で活躍する35歳未満のイノベーター」として高く評価されたことを、心から誇りに思っています。今回は古橋のこと、そして彼のような世界的にも優れたエンジニアを擁するスタートアップの創業期に、私がCTOとして果たした役割について触れたいと思います。
グローバルテック企業で採用される古橋貞行のOSS
古橋と出会ったのは、私がCTOを務めていたプリファード・インフラストラクチャー(PFI)でのこと。IPA未踏ユース事業にてスーパークリエータに認定され、10代の頃からすでに多くのプロダクト開発実績を出していた古橋は当時筑波大学の大学院生。インターンとしてPFIで働いていました。
彼が開発したオープンソースソフトウェア(OSS)で代表的なプロダクトは、ログコレクタ「Fluentd(フルエントディー)」。多種多様なデータソースから膨大なログデータを高速で収集し、ストレージに転送する「Fluentd」は、現在Amazon Web ServicesやMicrosoftといった主要クラウドサービスやゲーム開発で採用されています。
同様に広く活用されているバイナリシリアライズ形式「MessagePack(メッセージパック)」や並列ETL「Embulk(エンバルク)」、そして分散ワークフローエンジン「Digdag(ディグダグ)」といったOSSも彼の手によるものです。
MIT Technology Review Innovators Under 35では、このように評価されています。
古橋の功績は、こうしたソフトウェアを開発しただけでなく、オープンソースとして公開し、広く使えるようにしたことにある。古橋が手掛けたソフトウェアは世界中から数億回以上もダウンロードされ、大規模データを扱う基盤として普及している。
トレジャーデータのサービスを形作っているのはオープンソースの思想です。トレジャーデータ創業以前から、古橋、芳川、そして私と、共通してオープンソースの世界に携わってきました。創業時からトレジャーデータのシステムを構築してきたエンジニアの多くも、オープンソースコミュニティのメンバー。
オープンソースは、トレジャーデータのDNAなのです。
コードは書かない
PFIでCTOをしていたときの私は、自分でなんでもやりすぎてしまう傾向がありました。プロダクトのコードを書き、サポート対応をして、営業もすればマーケティングも担当していました。これが大きな反省点で、自分自身がボトルネックになってしまっていた。
「自分はコードを書かない」。トレジャーデータのプロジェクトを立ち上げようとしたときには、最初にそう決めることが重要でした。
では、まだ見ぬトレジャーデータのプロダクトのコードを誰が書くのか?
そう考えて真っ先に思い浮かぶのが古橋でした。私もコードを書くことは好きでしたし、得意ではあったと思います。けれども古橋は完全に圧倒的で、完全に別格でした。彼がいてくれれば、私がコードを書く必要はないなと思わせてくれる存在でした。
2011年に彼を誘いました。現在トレジャーデータが提供する「Treasure Data CDP(Customer Data Platform)」の中核となる分散データベース「PlazmaDB」のほとんどを、古橋が一手に開発しています。
トレジャーデータのCTOとして注力した3つのこと
読者の方の中には、それだけの技術者がいて、太田はCTOとしてなにをしていたの?と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。
第1回目のトピックスで(間が空いてしまいましたが…)、CTOには3つのパターンがあると書きました。アーキテクチャや技術的決定を行うタイプ、エンジニアの組織を作ることができるタイプ、そして「何でもやる」起業家タイプ。
私は1回目の連載時に、自分は3番めの「なんでもやる」タイプだと書きました。今思えば「起業家タイプ」というか、正しくは「起業した人間」、つまり「創業者」ですので、当然といえば当然ですね。
芳川、古橋、そして私の3人の共同創業者がトレジャーデータにはいます。私たちには役割分担があります。特にエンジニア出身の私と古橋は、私が「なにを作るのか」、古橋が「どう作るのか」。明確です。芳川は「どう売るのか」と、トレジャーデータの会社自体、人事や法務、会計といった業務組織の構築です。
CTOとしてスタートアップをどうグロースさせるか。私が注力したのは、自社のプロダクトをマーケットのどの位置に置くべきかを決めること。お客様への技術的なサポートと、時にはお客様のところに直接伺って、なにが求められているのか、本当の課題はなにかを抽出すること。そして投資家にピッチしてファンドレイズし、その資金でエンジニアを採用し、チームを拡張することでした。結果として、3人の役割分担は少なからず成功したと言えるのではないかと思います。
今回の終わりに、Innovators Under 35の受賞にあたり古橋が行ったプレゼンテーションから、彼の言葉を引用させてください。
私はソフトウェア開発においてスケーラビリティを重視しています。それは、エコシステムこそがイノベーションの源泉だと考えているからです。分散技術はまだまだ発展途上ですが、投資のリターンが見込める分野でもあります。これからも分散技術を発展させ、人類普遍の技術にすべく、研究開発を進めていきたいと思っています。
GAFAのような巨大企業だけがデータを独占するのではなく、私たちのようなスタートアップでもデータを活用できるはずだという思いから、トレジャーデータは歩み始めました。いまや私たちのCDPは100ペタバイトを超える顧客データを扱っています。
これからもさらに多くの企業に私たちのサービスを使っていただけるよう、企業経営も研究開発も進めていきます。
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次回は、最近メディアで紹介いただいた記事などに触れながら、CEOとしていま考えていることをお話しできればと思います。
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