歴史が動きはじめた日

2021年11月29日
全体に公開

トレジャーデータの太田一樹です。

2011年3月11日に何をしていたか? 私たちにとって、否応なしに記憶に紐づいてしまった日付です。「私たち」というのは、日本人はもちろん、その時に日本にいた人たちにとっても。

その手が震えるのは

その日私と芳川はシリコンバレーにいました。日本との時差は17時間ありますから、現地時間は3月10日です。芳川の運転する車で、サンドヒル・ロードを進んでいました。芳川の手が、緊張と興奮で震えていたのを覚えています。いわゆる「武者震い」だったのでしょう。

その時には気づいていなかったけれど、おそらくその日が、トレジャーデータの歴史が動きはじめていくきっかけでした。

「今からビル・タイに話してきなさい」

左側下から2番目が黒崎さん/右側下から2番めがBill Tai/右下一番下が筆者

少し時間を戻して朝7時。ピッチをしていました。相手はIT-Farm Corporationの黒崎守峰さん。黒崎さんは2000年からベンチャーキャピタリストとしての活動をスタートされ、私が把握している限りシリコンバレーで初めて日本人が起業して成功したIP Infusionにも投資を行っていました。シリコンバレーで挑戦しようとしている私たちにとって、IP Infusionを創業した吉川欣也さんと石黒邦宏さんは、野球でいうと野茂英雄さんみたいな方々だったのです。

Hadoop on the Cloudという、それまで見向きもされなかったコンセプトに黒崎さんは反応しました。そして「ちょっとビル・タイ(Bill Tai)に電話してみるか」と。先日会話したときに、ビルがHadoopに注目していると話していたからと連絡すると「たまたまその日に空いている時間があるようだ、今から行って話してくると良い」。

「優れた技術だからといって・・・」

ビル・タイ。2011年当時から著名なベンチャーキャピタリスト。テクノロジーに精通し、次の時代を創るスタートアップの目利きが秀でており、Zoom Video CommunicationsやCanva、Wishなどに投資し、成功を収めた人物です。黒崎さんとは、IP Infusionに共に投資をした関係でした。

芳川は「あのビル・タイにピッチするの?」。それくらいのビッグネームなんだと説明してくれるのを聞きながら、サンドヒル・ロードにある、彼のオフィスに向かいました。

ビル・タイは頷きながら、それまで一蹴されていた私たちの、トレジャーデータのコンセプトを聞いてくれました。そして宿題をくれた。優れた技術だからといって、それが売れるとは限らない。だから、Go-To-Marketについての戦略をしっかり立ててきなさいというポジティブなレスポンスでした。

これは色んな所で話しているのですが、当時私は、自分のピッチの部分はできても英語がほとんど話せず、聞き取れないという状態でした。だから、ビルとのミーティングが終わって、建物から出てきたときに芳川がやけに嬉しそうだった理由がすぐわからなかった。「芳川さん、これはどうだったんですかね?」「聞いてなかったのかよ!良い返事だよ!」みたいな会話でようやく…喜びの瞬間自体は彼と共有できなかったわけです。

3月11日、そして初めての投資

ともあれ1月から3月のその日まで、おそらく7〜8回は太平洋を往復し、ピッチしては断られてきたなかで、初めて受け入れられた経験でした。それもあのビル・タイから! 興奮して芳川の家に帰り、奥さんも一緒に食べ放題の火鍋レストランに行ってお祝いしました。とにかく嬉しくて、めちゃくちゃ食べて。帰宅してテレビをつけたら、日本の地震の様子が映し出されていました。

それが、私たちの2011年3月11日でした。喜びが一瞬で消え、テレビに釘付けになりながら、冷静になっていく自分を感じました。私たちは何を為すべきか。シリコンバレーにいる私たちにできること、それは自分たちがやるべきことをやるより他はない。

芳川と私は、ビルのくれた宿題を徹底的に考え抜き、3人目の創業者である古橋貞之も加わって、再びビルへのピッチへ。彼は厳しくも笑顔で、その場でタームシートを用意してくれました。

初めて受けた投資。そこから、ビルの紹介で次々と投資が決まっていきました。Dan Scheninman (Zoomの最初の投資家), Jerry Yang (Yahoo!共同創業者), James Lindenbaum (Heroku共同創業者), Piotr Szulczewski (Wish共同創業者), Yukihiro Matsumoto (Ruby発明者)など一流の投資家・起業家がエンジェル投資家としてトレジャーデータを助けてくれることになりました。流れが変わり、トレジャーデータの歴史が動きはじめるのを感じながら、私たちは準備を進めていきました。

シリコンバレーにて、Jenkins発明者の川口さん、Ruby発明者のまつもとさんとディナー

次回は、古橋貞之との出会いや、3人の創業者の役割分担などについて触れたいと思います。

また、この度古橋がMIT Technology Reviewにて、Innovators Under 35に選出されました。心から誇りに思います。

共に歩んできた年月を振り返ってみても、彼がトレジャーデータに果たした役割は計り知れないほど大きいです。ぜひご一読いただければと思います。

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