稲盛和夫さんを偲ぶ~JAL再建時の回想

2022年8月30日
全体に公開

本日、大変偉大な経営者が旅立たれました。

JAL再建のプロセスにおいて、稲盛さんには大変にお世話になりました。私の中での稲盛さんの思い出を少しご紹介させてください。

稲盛さんがJALにいらしたのは2010年の2月でしたが、トップシークレット下で再建プロセスに関わっていた一部のメンバーの私たちのところには風の便りで2009年の秋頃から稲盛さんがJALの立て直しに来てれるかもしれない、という噂を耳にしていました。

当時の僕はまだ稲盛さんの経営哲学についてはあまり存じておらず、その話を聞いてから稲盛さんの経営に関する本を片っ端から読み漁りました。確かに世界的に有名な経営哲学であり、それぞれ筋の通った話ではあるものの、果たしてこの巨象JALでどんな風に実装されるのかという点には大変興味がありました。

アメーバ経営xJALについてはそれだけでも非常に長くなるのでまた別の機会にして、ここでは稲盛さんに関する僕の想いで話を一つご紹介したいと思います。

稲盛さんがいらした2010年2月時点で、JALは既に更生計画を提出し、待ったなしの状態で走っていました。僕たちも昨年から纏めていた再建計画の最終化に向けて追い込んでいたところです。そして2月末頃に、漸く実行プランに落とし込みました。僕が最終的な稲盛さん向けのプレゼン資料を作成し、記憶が正しければ2月末に稲盛さんにご提示したと思います。その際に僕たちは一つ大きな心配を持っていました。

僕たちの計画は、膨らみすぎた固定費を圧縮して筋肉質な経営体制になるために、機体リストラ、それに伴う人員体制の大幅な変更も不可欠であるという計画でした。実際にそれ以外に残された道は、会社の清算しかなかったと思っています。

一方で、稲盛さんは色々なところで社員の雇用は絶対に守る、リストラはしない、と仰っていました。このプランを持っていった時に、稲盛さんにどんなお叱りを受けるのだろうかと心配をしながらも、僕たちもこれしか生き延びる方法はないという信念があったので、計画を変えることなく、そのまま稲盛さんにご提示をしました。

すると、稲盛さんは穏やかにこうおっしゃいました。

「これしか方法はないとあなたたちは人生をかけ言い切れますか?」

僕たちも信念をもってこれまで考え抜いてきた策であったので

「はい、これをやらないとJALは生き残れないと考えています。これ以外に方法はありません」

と答えました。すると、稲盛さんは穏やかに

「じゃあ、これで行きましょう。全力で責任を持ってやり切ってください」

と仰られたのです。あまりにあっさりと了承を頂いたので僕たちは拍子抜けしました。

一方で、更生法を抜けた後の役員会で、役員がふわっとした回答をしたり、部下に答えを求めたりすると、稲盛さんは烈火のごとくお叱りになりました。役員たるもの、細部にまで責任を持て、ということです。

こうした稲盛さんのご指導から、仕事に対しては一挙手一投足に至るまで、考え抜いて、こだわって行動せよという稲盛さんの仕事哲学を学びました。

僕たちのJAL再生プランがすんなり通ったのは、おそらくもう後がない状態で僕たちが全精力をかけて細部まで考え抜いていたからかもしれません。

また、航空アライアンスについても稲盛さんの哲学が全面に出て、大どんでん返しがありました。稲盛さんがいらっしゃる直前までは99%デルタ航空とのスカイチームへの移行が確定していました。僕は直接は関わっていなかったので、担当した人からの話ですが、以下のようなやり取りがあったそうです。

稲盛さんになぜスカイに移動することが意味があるのか、その重要性を担当者から説明した後すぐ、稲盛さんから「世話になった人を簡単に裏切るのか。人として正しいのか」といったコメントがあったそうです。そしてそのままこれまでのワンワールド残留が確定しました。たしかにその後のJALの発展や、僕自身が顧客と使うにあたり、ワンワールドで良かったと思っています。

そんな経営プロフェッショナルの稲盛さんですが、現場目線にも大変なこだわりを持っていらっしゃいました。伊丹=羽田のフライトに乗っては、必ず何らかの現場目線でのご指摘を頂いて、当時客室本部にいた我々は一つ一つ改善していった記憶があります。現場の皆さんからの稲盛さんへの信頼は高かったと思います。もちろん機内のみならず、空港のサービスに対してもお客さま目線でたくさんのご意見を頂きました。

今回のこの短い文章では書ききれませんが、稲盛さんの背中からはたくさんのことを学ばせて頂きました。いみじくも僕のこのTOPIXの連載において、記念すべき第一稿 に稲盛さんの大切にされていた言葉をご紹介していました。

以下、その記事からの切り取りです。

https://newspicks.com/topics/sony-daisuke-suzuki/posts/0

僕の人生にも大きな影響を与えて頂いた方でした。

心より、ご冥福をお祈り申し上げます。

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