「共感を引き出すプレゼンテーション」をつくる3つの工夫

2024年1月14日
全体に公開

先日、女性に特化したクリエイター人材の発掘・育成プログラム「未踏的女子発掘プロジェクトGRIT」で、後輩起業家たちに「プレゼン/ピッチのつくり方」に関して伝える機会をいただきました。普段、どのようにプレゼンテーションをつくり、本番ではどのように伝えているか。ひと通りお話した後、ひとりの参加者の方からこんな質問をもらいました。

「自分たちが解消したいと考えている『社会課題』に対して、理解や共感が得られないとき、どのように考えていますか」

同じような質問を、これまで後輩起業家から繰り返し聞かれてきました。課題を真剣に考えているからこそ、その重要性が伝わらないと悔しいし、正直苛立ちますよね。

そんなとき、私は「伝え方の問題」として真摯に受け止める必要があると考えています。大学時代に指導教授から言われた「プレゼンターは聴衆の奴隷」を肝に銘じ、「聞き手がわからないとしたら、それは100%、伝え手の責任である」と考えるようにしています。

では、どうすれば伝わるようになるのか。「共感を引き出すプレゼンテーション」をつくるために日頃、私がやっている工夫を3つご紹介します。取引先へのプレゼンはもちろん、上司や同僚に「やりたいこと」を理解してほしいときにも役立つ工夫があると思いますのでぜひ、最後までお読みください。

(1)“自分ごと”になる「リアル感」を演出

プレゼンやピッチ、あるいは日々の交渉の場面で、どのようなテーマを伝えるとしても、どうやって聞き手の方たちに”自分ごと”として捉えてもらえるかは、とても重要です。とりわけソーシャルビジネスに取り組んでいる企業・個人が取り上げる「課題」は、「すごくわかる!」と聴衆の方々に強く共感してもらえることもあれば、まったくピンと来ないということもあります。介護を始めとした社会課題は、普段接点がないと、どうしても遠い世界の話と捉えられがちです。そのため、自分たちの熱い思いと聴衆の方々との間に、温度差が生じやすいのです。

大勢の人に「わかる!」と思ってもらえるかどうかは、そこにリアル感を持たせられるかどうかにかかっています。

例えば、私たちabaの場合を例に挙げると、あるプレゼンテーションの冒頭で、まずこんな質問をしました。

「親におむつ交換をしてもらった人、いらっしゃいますか?」

過去のプレゼンに使用したスライドより抜粋

会場の方はほとんどが手を挙げてくれました。続けてこう質問します。

「親のおむつを交換した人は?」

過去のプレゼンに使用したスライドより抜粋

多くの人は意表を突かれたような表情をされて、ザワザワしていました。なぜ、こんな質問をしたかというと「多くの人は『介護』と聞いても、イメージが浮かばない」が、その理由です。これまでそんなこと考えたこともなかったけれど、思いがけない質問をされたことで、つい考えてしまう状況を作ろうとしたのです。

このとき、伝える情報は「1スライド・1メッセージ」に絞ります。一度にあまりにもたくさんの情報を手渡しても、聴衆の方が受け取れる情報量を超えてしまうためです。伝えたいことを厳選するとともに、写真の選び方や図表のデザインなど細部に至るまで、伝えたいメッセージを体現するよう、情報を整理します。

(2)可能な限り、事前リサーチする

聴衆の事前調査を可能な限り、行いたいと考えています。

例えば、私が先日、スタートアップ京都国際賞(優勝)とオーディエンス賞をいただいた「IVS2023 LAUNCHPAD KYOTO」では、事前に審査員の方たちのプロフィールや投資先、関心領域について事前リサーチしています。

IVSの場合、審査員の方々はほとんどが投資家の方で、一部に起業家がいらっしゃるような状況でした。

実は2022年に、abaは自社で「Helppad」を大幅改良するため、資金調達ラウンドを回るにあたって、「投資家」について徹底的に考え直しています。それまでは、自分たちが目指していることを伝えるのに必死で、まったく投資家の方々の視点に立てていませんでした。

相手を理解するためにまず、投資家の方は日頃、一体どのような生活を送っているのだろうかと想像を巡らせました。おそらく何十件という投資先の進捗を日々追いかけながら、出資者から預かった資金を運用するために新しい投資先を常に探し、さまざまな場に足を運び、一日中ミーティングをしている。その分刻みのスケジュールを想像したときに、自分は「一銘柄に過ぎない」と感じました。

私たちにとっては、かけがえのない事業であり、絶対に解決したい社会課題であっても、相手にとってはそうではありません。競合は200も300もいるはずです。そうなると、ものづくりでの社会課題解決や日本復刻をうたう前に、伝えるべきことがあるはず。

そう気付いてからひたすら、市場規模の大きさや、abaが開発した「Helppad」シリーズがいかに、排泄ケアの課題を解決するか、それがトレンドであるSDGsやESG投資、インパクトスタートアップの流れとどう響き合うのか、その結果、ビジネスがどれだけ広がるのか。つまり、投資家にとってどれほど、”うまみ”があるのかを伝えることに集中するようになりました。

また、投資はそうは言っても「最後は起業家への賭け」とういう要因も根強いため、起業家自身の人間性やストーリ―ラインを感じてもらえるように話すといったことも意識しています。

UnsplashのJohn Schnobrichが撮影した写真     

(3)第三者からフィードバックを受ける

プレゼンやピッチは「一人でこもって作らない」が大切です。

私はスライドができあがったら、まずはZoomでレコーディングしながら、ひとりでしゃべり、録画をYouTubeに「限定公開」でアップします。そして知り合いにリンクを送って見てもらい、コメントをもらいます。そのフィードバックをもとに、スライドや話す内容を直し、本番まで磨き上げます。

例えば、先日のIVS登壇時には約15人、株主含めいろいろな立場でabaに関わってくださってる方々に動画を見てもらっています。そして、もらったコメントをすべて修正に反映しました。それだけ多くの方に見てもらうと、本当にさまざまなコメントをもらいます。そのフィードバックから、セリフのありかた、スライドの見せ方、ストーリーラインの展開といったものをすべて反映し、修正しています。

今は幸いなことに、ITが凄まじく発展したおかげで、こうしたフィードバックを受けるのも容易になっています。誰でも簡単にプレゼン/ピッチの録画ができるし、その録画も簡単に共有できる。全員に1on1の時間をもらわなくとも、テキストベースでのフィードバックを受け取れるし、このやり方であれば、見てもらう相手の負荷も少ないのでおすすめです。

UnsplashのAndrew Neelが撮影した写真     

こうした工夫をしてみても、やはり「よくわからない」という反応が返ってきた場合は、「場面設定がわからないのか」「登場人物がわからないのか」「課題がわからないのか」など、相手が言う「わからない」について詳しくヒアリングし、要素分解してひとつずつ対応していきます。

中には、相手が「わかる気がない」ということもあるかもしれません。その場合は諦めるという選択をせざるを得ないこともありますが、多くの場合は、こちらの工夫次第で「伝わる」という瞬間が訪れます。

「プレゼンターは聴衆の奴隷」であり、「聞き手がわからないとしたら、それは100%、伝え手の責任である」。腹をくくって、このスタンスを貫くことで、その先にたくさんの仲間との出会いが待っています。仲間と出会うことは、社会と繋がること。つまり社会を変えることそのものです。

ぜひ一緒により良いプレゼンを作り上げるために頑張りましょう!

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