ゼロからわかる アップル初のゴーグル型VR「Vision Pro」 VRとAR、MRは何が違う?

2023年6月7日
全体に公開

アメリカでのMBA留学から1年がたち、卒業以来、東海岸のボストンに1日近くかけて、やって来ました。

渡航の目的はReunion(同窓会)への参加。卒業の翌年のほか、5年ごとに招待状がきて、4日間にわたる特別イベントや教授らによる特別講義に無料で参加できる仕組みです。

開催が難しかったコロナ禍を抜けて、会場を埋め尽くす人が来ていました。最も古株で招待状を受け取ったのは、1953年(昭和28年)の卒業生。なかには家族に車椅子を押してもらいながら、フォーマルなジャケット姿で参加する高齢の卒業生の姿も見かけました。

©️Hidefumi Nogami

期間中には、たくさん食べて飲んでお腹がパンパンになったので、気休めにと、同級生のメキシコ人と朝の川沿いをジョギングしました。

今回の滞在は短いですが、海外で長く滞在するときは体調や体重の管理が課題になりますね。コロナ禍の出張では外に出ることもままならず、悩んだ私は以前、メタ製のVRヘッドセットを買いました。

ホテルで一人、仮想空間に入ってエクササイズをするのですが、汗まみれになってヘッドセットを外すと「いったい何でこんなことやってるんや」と現実世界に戻ったものです。

ティム・クックCEO「空間PCの新しい世界」

iPhoneなどを手がける米国のアップルは、現実の風景と仮想現実を重ね合わせて映し出すMR(複合現実)のゴーグル型端末を初めて発表しました。アップルにとっては、8年前にスマートウオッチであるアップルウオッチを発売して以来の主要な新製品となります。

新製品「Vision Pro」はスキーやスノボ用のゴーグルに似ており、装着すると視界の中にスクリーンが浮いたように現れます。コントローラーを使わずに、目や手の動き、声だけで操作できるよう設計されています。

ユーザーは、iPhoneやiPadで慣れ親しんだアプリを操作できるほか、映画やゲームに没入して楽しんだり、ビデオ通話で他のユーザーと現実に会っているような感覚でつながったりできるといいます。また、アップル初の3Dカメラも搭載されました。

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カリフォルニア州の本社で現地の5日に発表したアップルのティム・クックCEOは、「今日は、コンピューティングの新しい時代の始まりを告げる日」と宣言します。

そして、「MacがパーソナルPCを、iPhoneがモバイルPCの新たな世界を切り拓いたように、Apple Vision Proは空間コンピューティングの新たな出会いとなる。単なる新製品の域を超え、仕事のやり方や、エンターテインメントの楽しみ方を変える」と語りました。

発表のニュース自体には触れた人も多いと思いますので、今回は発表のキーワードであるMRと、黎明期にある市場の見通しという2点をみていきましょう。

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立ち位置とベクトルをみよう

アップルがVision Proに搭載するMRとは何でしょうか?

似たようなキーワードでVRやARもあって混同しがちです。改めて整理しますと、これらは3つとも、ITを活用して「現実の世界」と「仮想の世界」を融合させる技術です。

VRとARの違いを理解するには、まず現実と仮想と、どちらの世界が主な舞台かを念頭に置くことです。そして、人間が仮想世界の外に出向いていくのか、それとも外の仮想世界が現実世界にやってくるのか、そのベクトル(矢印)をイメージしましょう。

1: VR(仮想現実)は現実→仮想の疑似体験

最初にVRです。Virtual Realityの略で、仮想現実と訳されています。

VRの主な舞台は仮想の世界で、そこに人間が入って疑似体験をします。例えばVRゴーグルをつけて360°海の中という仮想の世界で、右を向けば右の景色としてウミガメが、左を向けば左の景色としてマンタが泳いでいるのが見えるというのが、Virtual Reality=VRです。

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2: AR(拡張現実)は仮想→現実に重ねる

次に、ARは、Augmented(オーグメンティド、拡張された)Realityの略で、拡張現実と訳されます。今度は逆に主な舞台が現実世界で、仮想の世界が、こちらにやってくる感覚です。

例えばスマホアプリのカメラで、人間の顔に犬や猫の耳、鼻、舌が重なって、笑ったり横を向いたりすると、動きに合わせて表情が変わる......。ポケモンGOで、街の景色にスマホカメラをかざせば、モンスターのキャラが画面上に現れる。こうしたCGや3D映像を現実に重ねて、さも現実に現れたような体験ができるのがARです。

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3: MR(複合現実)は現実⇔仮想を融合

最後に今回、アップルが新製品に搭載するMRです。Mixed Realityの略語で、「複合現実」と訳されています。

VRやARは現実と仮想のどちらかが主体ですが、MRはそれらをMixed。仮想と現実の世界がいっそう密接に融合されて、現実味を持たせる技術です。

映し出した仮想の映像を複数の人間が囲んで、360度眺めることができたり、情報にタッチしたりもできます。

Apple

Vision Proの発表文では、MRについて「ディスプレイの境界線から解放する」「無限のキャンパス」といった言葉が使われましたが、利用範囲は個人の趣味や楽しみにとどまらず、ビジネスでの活用が期待されています。

例えば、製造業の現場で、紙の手順書を確認しながらの整備作業だと手がふさがれますが、MRで表示させることで手順書をみながら両手を使って作業ができ、業務が効率化されます。航空業界では飛行や整備のトレーニング用に、医療分野では手術のシミュレーションで活用が始まっており、アップルの発表会でも、こうした業務用の活用例が実演されました。

Apple

湿った市場を活性化させられるか

開発に7年余りをかけたVision Pro。価格は3499ドル(約49万円)とライバル商品よりもかなり高く設定されました。流行り物をいち早く手にする「アーリーアダプター」とアプリなどの開発にあたるデベロッパー以外にも広がるのか、注目されています。

市場調査会社カウンターポイント・リサーチによりますと、VRヘッドセットの市場は現在、Facebookを手がけるメタが81%のシェアを持っています。一方、アメリカの調査会社IDCによりますと、昨年のVR端末などの世界の出荷台数は前の年より2割減少しました。

コロナ禍で一時は注目が高まったVRやARですが、いまはAIのほうが投資家も一般ユーザーも話題にしています。

「すでに確立された市場に参入して、市場を様変わりさせる」というのがアップルの伝統的やり方とされますが、Vision Proが湿った市場を活性化されるか、注目されています。

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アップルの株価は5日に最高値付近に上昇しましたが、Vision Proの発表後に下落に転じました。市場では、期待より不安がやや上回っている、状況のようです。

私は今回のMRヘッドセット、ほしいです。

将来、新たなパンデミックが起きても、自分の足腰が弱くなっても、フライトチケットを台無しにしても、海や時間を越えてReunionに参加して仲間と再会できるなら、とても楽しいと思うからです。

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News Connect(ニュースコネクト)あなたと経済をつなぐ5分間。水曜の担当パーソナリティです。

【6月7日】アップルが初のゴーグル型「Vision Pro」発表。49万円、MRの進化は?
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▼参考ニュース:

アップル、MRヘッドセット「Vision Pro」を発表-3499ドル(ブルームバーグ)

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-06-05/RVSM09DWX2PS01?srnd=cojp-v2

複合現実端末「Vision Pro」発表、新製品に賭けるアップルの野心とリスク(CNN)

https://www.cnn.co.jp/tech/35204808.html

Apple Debuts Its Next Big Product, a Virtual Reality Headset(NYT)

https://www.nytimes.com/2023/06/05/technology/apple-headset-virtual-reality-wwdc.html

Introducing Apple Vision Pro: Apple’s first spatial computer(Apple)

https://www.apple.com/newsroom/2023/06/introducing-apple-vision-pro/

At Apple, Rare Dissent Over a New Product: Interactive Goggles(NYT)

https://www.nytimes.com/2023/03/26/technology/apple-augmented-reality-dissent.html

VRやARとどこが違う? MR(複合現実)の仕組みと代表例『Microsoft HoloLens』を解説(KDDI)

https://time-space.kddi.com/ict-keywords/kaisetsu/20170316/

▼野上英文著『朝日新聞記者がMITのMBAで仕上げた 戦略的ビジネス文章術』(BOW BOOKS)

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