政府が策定した所得倍増プランがダメなわけ

2022年11月24日
全体に公開

政府の所得倍増プランが分かったという記事が日経新聞に出ていますね。以前より断片的にニュースは出ていましたが、ダメだなこりゃという感想しかありません。

NISA、5年で3400万口座に倍増へ 政府の所得倍増プラン
日経新聞、2022年11月24日

日本経済の成長力を底上げするための施策ということで、NISAを拡充するのも、確定拠出型年金を拡充するのも、金融教育を拡充するのもバカげています。

以前投稿しましたが、日本株は過去30年間マイナスのパフォーマンスでした。米国株は同期間に10倍以上になっています。

日本人が株に投資しないのは、リスク回避的な国民性や金融教育が行き届いていないからではなく、単純に過去日本株は儲からない投資対象だったから投資してこなかったからです。

また、上場会社で働いている人々は肌で感じていると思いますが、自分の会社の社長さんが株価を上げることを考えて経営していましたか?そう思えないなら自分でも株は買えないですよね?

政府が言っている所得倍増プランを実行するとどうなるでしょうか。

■NISAを拡充するとどうなるか?
⇒30年間株価が上がっていない日本株ではなく30年間で10倍以上になっている米国株を皆買うだけです

■確定拠出型年金の拡充するとどうなるか?
⇒日本株と日本の債券で運用してても運用利回りが確保できない事実上破綻している年金制度を、個人に押し付けるだけです。
⇒誰が運用しようが、日本株の株価が上がらなければ個人が確定拠出型年金で運用しようにも運用益を確保できません。
⇒だったら運用結果に関係なく定年後毎年一定の給付がもらえる確定給付型年金の方が個人にとってはお得です。

■金融教育を拡充するとどうなるか?
⇒金融リタラシーが高まれば高まるほど、日本企業の経営陣は株主のことを考えて経営していないことがよくわかり、実際株価は過去30年間上がっていないことも皆理解し、より加速的に米国株に皆投資するだけです。
⇒日本株は、過去30年間平均的にマイナスのパフォーマンスでした。日本株に分散投資をしても期待利回りはマイナスなのです。
⇒金融教育を拡充したら日本人が日本株に投資する人が増えるということはありえません。

個人が米国株や米国株投信をより買うことで、個人所得は拡大するかもしれませんが、2000兆円の個人金融資産が日本企業の成長投資に回ることはないでしょう。そもそも日本企業は内部留保をため込み続けており、新たな資金もいらないですし。

以下のスライドは金融庁が今年の5月にスチュワードシップコード及びコーポレートガバナンスコードのフォローアップ会議という有識者会議のために用意した資料からとったスライドです。

出典:金融庁作成資料

「(政府が推し進めている)コーポレートガバナンス改革は、中長期的な企業価値の向上に向けて、経営陣の果敢なリスクテイクを支えることを狙いとしてきたが、日本企業の成長投資(設備投資、研究開発・知財投資、人的投資等)は、コーポレートガバナンス・コード策定以降、小幅な伸びに留まっている」
と金融庁自ら言っています。

出典:金融庁作成資料

これだけ言っているのに内部留保も積み上がり続けていると落胆している様子がうかがえます。

「株主還元の水準を見てみると、日本企業の配当や自社株買いは、米国や英国と比べても、必ずしも過大とは言えない。」
とも言っています。

出典:金融庁作成資料

昨年12月に立憲民主党の落合貴之衆議院議員が「自社株買いをきっぱりと見直し、もしくは禁止まで踏み込むべきだ」と提言し、岸田首相もガイドラインを考えたいなど発言したのも記憶にあるところです。落合議員は「自社株買いや配当のインセンティブの方がどんどん強くなり、従業員に還元しなくてもいい、設備投資より株主還元の方が重要だ」という傾向は個人消費と企業競争力に悪影響を及ぼすと懸念を示したとのことです。国民民主党の前原誠司衆議院員も「配当金などで株主に過度の資金が流出している」と国会で発言しています。しかし、金融庁自ら、落合議員や前原議員が指摘していたような、株主還元が行き過ぎて設備投資や従業員の賃金にお金が回されていないということは起こっておらず、むしろ株主還元も過小だし、設備投資や研究開発、人的投資も全て日本企業は過小にしか投資していないことが問題だと指摘しているわけです。

自社株買いは悪なのか 岸田首相「規制発言」に疑心暗鬼
日経新聞、2021年12月17日

自社株買い規制求めた立憲民主・落合氏、株主偏重主義からの脱却必要
Bloomberg、2022年1月17日

「株主資本主義」を転換 子ども予算倍増目指す―岸田首相・衆院予算委
時事通信、2022年01月25日

スチュワードシップコード及びコーポレートガバナンスコードのフォローアップ会議の委員の方々に対して、金融庁は「ご議論いただきたい事項」として次を掲げている。どうやったら日本企業が成長投資にお金を回すようになるのか考えてほしいとお願いしているわけです。

「コーポレートガバナンス改革を通じて、企業に持続的な成長に資する投資(設備投資、研究開発・知財投資、人的投資等)を促してきたが、米国と比較すると、それらの投資は小幅な伸びに留まっており、内部留保が特に現預金として積み上がる結果となっている。」

出典:金融庁作成資料

日本企業が成長投資にお金を回さないことは構造的に大きな問題があると言わざるを得ません。米国型経営はダメだ、という意見もよく耳にしますが、一方で日本型経営をこのまま続けていてはダメであるということも確かです。日本企業経営陣には大胆に変革し、リスクテイクし、いかにして成長していけるかを必死に考えてほしいと願っています。また、日本企業経営陣がそのような姿勢に変わるような制度改革、意識改革を日本全体で仕組みとして作っていくことも必要と思います。

小手先の施策を考える前に、まず日本企業に株価を上げるような経営するようにさせることが最も大事です。

以前の投稿で書きましたが、株価を上げることを考えて経営しろってそれは悪徳株主を儲けさせるだけだとマスゴミも政治家も言いがちですが、間違いです。日本企業の株価が上がって得をするのは、儲けるのは、所得が増えるのは、日本人です。株価を上げる経営を日本企業がすれば、制度なんてたいしてなくたって日本人の個人の方々も日本企業に投資するようになるかと思います。  

逆に株価を上げることを追求しない、株主軽視・株式価値軽視の現在の多くの日本企業に投資することを日本国民に強く推奨する政策が岸田政権の所得倍増プランだとすると、単純に日本国民は運用損を出し、所得倍増どころか減らすことになってしまうでしょう。

岸田首相は、株主資本主義からの転換が必要で、株主資本主義だから賃金が上がらないんだと言ってますよね。だから分配の仕方を変えるんだと。でも株主を成敗して、株価を上げないようにし、株主還元もさせないようにすると、回りまわって損するのは一般国民ですよね。日銀だけでも50兆円ぐらい日本株を保有しており、GPIFも50兆円ぐらい日本株を保有しています。株主が儲からないようにすべきだと言う一方で、日本国民にはそうして儲からないようにした日本株に、NISAを拡大するから投資しろと自己矛盾したことを言っていることに気づいていないのでしょうか。

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