株式は安全資産?

2022年2月21日
全体に公開

新NewsPicks Topics「グローバル金融羅針盤」の第一回目の投稿になります。これからグローバルな金融の様々な動きを、日本への含意という視点を持ちながら書いていこうと思います。また、読まれたら「いいね」に加えて、コメントやSNSでの共有などいただけるとありがたいです。

日本と海外の株式市場の状況

2021年は、日経平均株価が9月に実に31年ぶりに3万円を超え、年末終値も28,792円の高値となりました。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB301C10Q1A231C2000000/
日経平均、年間で5%上昇 年末終値32年ぶり高値(2021年12月30日)

https://www.yomiuri.co.jp/economy/20210914-OYT1T50115/
日経平均、一時バブル崩壊後の最高値更新…投資家心理が急激に改善(2021/09/14)

バブル期の高値に迫る株価に戻ってきているというと、日本が世界No.1と言われた時代に日本が戻ったかのような錯覚を感じるかもしれませんが、同期間にアメリカのS&P500は13.5倍になっており、世界の主要企業で構成されるMSCIワールド指数も5.7倍になっています。この30年間で飛躍的に差がついてしまっているというのが実際のところです。

日本では、上場会社の経営陣であっても、なんで株価なんて気にしなければいけないんだと考える風潮が未だにあるかと思います。企業は株主だけのものではなく、色々なステークホルダーのものであるのだから、株式価値向上を重視するという欧米流の考え方はそぐわない、ステークホルダー主義が日本流なんだ、といった論調が昔からあると思います(株式価値向上を真剣に考える機運が日本企業の経営陣においてなかなか高まらないのは、日本の構造的要因もあると思います。また足元欧米で出ているステークホルダー資本主義などについてもいずれ別の機会に書きたいと思います)。

しかし、なんだかんだいっても日本も資本主義の国であり、資本主義においては、資金は成長のあるところに流れ、その企業の成長が更に加速することを忘れてはいけません。過去30年間で株価が13.5倍になったアメリカと、未だバブル期の株価に戻ってもいない日本で、この30年間で成長投資に振り向けられるお金にどれだけの差があったことかと考えると恐ろしいものがあります。

株価は企業の実力を反映するものでもあり、様々な産業における日本企業のグローバルシェアなども過去30年間で低下していることから、日本を代表する企業で構成される日経平均株価が低迷しているというのは、日本全体の国力自体が過去30年間で大きく差がついてしまったということでもある、というのは皆さんの感覚とも合致するのではないでしょうか。

株式は安全資産?

日本では株式はリスクの高い資産であるという認識が定着していると思いますが、アメリカではむしろ株式は安全資産であると捉えられています。アメリカ人がそう考えるのは当然で、過去30年間で13.5倍にもなっているのですから。一方、日本では過去30年間全体でいうと株式はマイナスですので、これまた株式はリスクが高いと考えられるのも当然の結果です。

「アメリカ人は個人資産の運用に占める株式の割合が高い。日本人は預金比率が高すぎ、株式比率が異常に低いから株式の比率を高めるべきである」との主張をよく耳にするかと思います。日本人の個人資産に占める預金比率が高い理由として、日本人にはリスク回避的な国民性があり、アメリカ人にはリスク選好的な国民性があるんだ、とリスク選好度に国民性の違いがあるという主張や、金融教育が日本では行き届いていないため、日本人は資産運用について無知だからという主張も耳にします。そういった主張は明らかに間違いで、同じ株でも日本株とアメリカ株の過去のパフォーマンスを見ると、日本株はリスクが高く(ハイリスク・マイナスリターン)、アメリカ株はリスクが低い資産(ローリスク・ハイリターン)であったということにすぎないことは一目瞭然かと思います。

金融教育が行き届いたならば、平均的には儲からない資産(日本株)に投資する人は増えなくなるかと思います。実際、日本人も日本株には投資していませんが、海外株への投資は急速に増えています。以下の記事によると昨年1年間での海外株投信への純流入額は約8兆円でした。一方、日本株投信への純流入額はわずか357億円と驚愕するぐらい少ない結果に終わっています。ある意味皮肉なことですが、日本において金融教育は適切に行き届き始めているとも言えるのではないでしょうか。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB174I90X11C21A2000000/
海外株投信7兆円純増 個人マネー、日本株選ばず(2021年12月29日)

日本人が日本株に投資しないのは、リスクを取らない国民性があったり、金融教育が行き届いていないのではなく、日本企業が過去30年間もの長期にわたり株価を上げてこなかったため投資していないだけです。

日本では株式投資はギャンブルであると言われたり、一昔前は証券会社の営業マンは株屋などと蔑まれたりしていました。多くの個人投資家が証券会社の人に勧めらえるままに株を買って損を被り、株は儲からないものという認識が定着していっただろうことは想像に難くありません。

日本人が日本株に積極的に投資したいと思うようになるためには、日本企業は株価を上げなければいけません。なんで株主のことを重視して株価を一生懸命上げたりしなくてはいけないんだなんて発想を日本企業経営陣が持ちつづけている限り、日本人であっても日本株に投資するのはリスキーであるということになりますよね。

自分が働いている会社の社長が株価を上げることを重視していないと思うと自分の会社の株に投資しませんよね?日本株への投資が増えず、海外株に個人資産も振り向ける動きが顕著となっているのは、多くの日本人が日本企業は株価を上げることを考えていない一方、アメリカの会社の経営陣はきちんと株価を上げてくれていると思っている証左だと思います。

アメリカでは、大学の基金や年金組合など、一般的には安定安全運用志向の強いアセットオーナーも株式やオルタナティブ資産の比率が高く、債券などの比率は低く抑えられています。

例えばハーバード大学の運用資産のアロケーションを見てみると、株式とオルタナティブ資産が88%を占め、債券はわずか4%、残り8%が現金他です。株式とオルタナティブ資産の内訳のうち上場株式は14%で、一般的には上場株式よりもリスクが高いとされるプライベート・エクイティ(未上場株投資)とヘッジファンドへの投資が67%も占めていることが分かります。株式がリスクの高い資産だなど全く思われていないことが良くわかるかと思います(余談ですが、ハーバードは昨年34%という驚異的な運用リターンを叩き出し(ハーバードの決算期末は6月ですので2020年7月から2021年6月の1年間と、最もコロナアップサイドがあったタイミングではありますが)、運用資産は532億ドル(6.1兆円)になっています)。

出典:Harvard Management Company, 2021 Annual Report

アメリカのアイビー・リーグの大学やMIT、スタンフォードなど有名大学はどこも株式とオルタナティブ資産の合計比率が運用資産のアロケーションの過半を超えていると言われています。

企業に就職すると従業員が入る401K(確定拠出年金)などでも、自動的に年齢が若い間は株式の比率が8割を超えるアロケーションをし、年齢が高まるにつれて少しづつ株式のアロケーションを減らすプランなどが人気です。

アメリカでは株式は最も安全な資産であり、何かに投資をするのであれば株に投資しておけば安心であるという感覚が一般的であり、また実際に過去30年間その認識は正しかったということが、アメリカの金融業界の動きに大きな影響を与えていますので頭に置いておいてください。

同時に、日本株はアメリカ株のように上がり続けてきたわけではないので、アメリカで盛り上がっているトレンドをそのまま日本にも持ってこれるわけでもないし、日本で導入したとしてもうまく機能しないことも多々あることに留意が必要です。

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