【対談 #4】葬祭×メタバース。当たり前をどう変えていくのか 1/2

2023年8月2日
全体に公開

脳科学者であり、XRコンソーシアムとブレインテックコンソーシアムの代表理事を務める藤井直敬と、メタバースエバンジェリストの角田拓志による連載対談。第4回目は、冠婚葬祭事業大手のアルファクラブグループ子会社・abs株式会社(読み:エービーエス。以下、abs)のT氏をゲストに迎え、「葬祭×メタバース」について語ります。

今回はPart 1。冠婚葬祭業界ではメタバースを巡って今まさに何が起こっているのか。3人の対談をお楽しみください。

【対談 #1】なぜメタバースをやるのか?脳科学者に聞いてみたhttps://newspicks.com/topics/metanext/posts/47

【対談 #2】「日常的」で「実用的」なメタバースってどんなの?https://newspicks.com/topics/metanext/posts/58

【対談 #3】人がくるメタバース、一度きりで終わらないためにhttps://newspicks.com/topics/metanext/posts/64

葬儀のミニマム化は止まらない

藤井:今回は、ゲストにabs株式会社のTさんをお呼びいたしました。

T:アルファクラブ武蔵野株式会社の子会社・abs株式会社で、10年ほど仕事をしております。アルファクラブグループは互助会・冠婚・葬祭を主とした事業を展開しています。私はグループ横断で使用する葬祭の基幹システム開発や、その外販に携わっております。

藤井:よろしくお願いいたします。早速ですが、事業内容をより詳しくご説明いただけますか?

T:はい、よろしくお願いいたします。

コロナ渦以降、葬儀に人が集まれない事態が起こりました。そこで私たちは、「それでも最後のお別れはしたい」という要望に応えて、葬儀のライブ配信「アルファLIVE」や香典のクレジット決済など、葬儀を軸に時代に合わせたシステム開発をしてきました。

またコロナの影響によって、通夜と告別式に2日かけず、1日で全て終える1日葬、かつ参列者なしで身内の方だけでお別れをする家族葬が増えてきました。その分、葬儀の規模は小さくなるので、売り上げも単純にガクンと減ってしまいました。そこで収益を確保するため、メタバース含め幅広い分野で新規事業を展開しています。例えば、ハコスコさんのメタストアやカフェ事業、学校法人や農園などあらゆる事業を手がけています。

ただ軸としては、葬儀関連の売上が全体の8割を占めていますので、ここをもう少し盛り上げていきたい。10年、15年先の未来の葬儀を考えて、子どもたち世代につないでいくことに重きを置いています。

藤井:ありがとうございます。葬儀の未来はとても興味があるところなので、今日はたくさんお話伺えればと思います。コロナ前後で葬儀の形態が変わってきたとのことですが、ある程度落ち着いてきた今、元の状態に戻っているんでしょうか?

T:そこに関しては、元には戻らないです。

藤井:戻らない?

T:「もう小さな葬儀で十分だろう」という世間の動きは元には戻らないんですね。元に戻そうとしても、「そんな大きい葬儀は要らないよ」というのが世間の正直な声なんです。

藤井:そうなんですか。つまり、いわゆる葬儀の単価が下がっている状況になるわけですよね。

T:はい、その通りです。

藤井:それを補うために、新規事業をいろいろと試みている。加えて多様な新規オプションを検討し、売り上げの増加にも取り組まれている、と。

T:そうですね。現在は墓仕舞いの問題にも取り組んでいます。
2023年1月、アルファクラブ武蔵野はテクニカルブレイン株式会社が開発したネット霊園「風の霊」を譲受しました。

ネット霊園「風の霊」

「風の霊」には、葬儀の延長線上のオプション機能として使える「遺影埋葬」や「お墓参り」といった機能があります。「遺影埋葬」はメタバース空間に遺影写真を納める仕組みです。

藤井:納骨堂のような感じですかね。

T:その通りです。テクニカルブレインさんがどこで苦戦したかというと、お客様が「風の霊」で遺影埋葬はするけど、リアルにある骨壷をどうするかとの問題です。「お客様で、近くの寺院などにお持ち込みください」と伝えるしかなかったんですね。この課題を切り離されてしまうと、お客様はちょっと使いづらい。

そこで実は今、埼玉県の蕨市に納骨堂を建てようとしてます。7,000基ほど収骨できる建物です。その現実空間の納骨堂とネット霊園の「風の霊」、さらには遺影が存在するメタバース空間とのシナジーがかなり進むと考えています。故人さんに会いたい場合には、メタバース空間で会えますと説明できますから。遠方のお客様とか、移動が難しいご高齢のお客様でもご利用いただけます。

当たり前の概念をつくりかえる

藤井:お客様の声は事前に聞かれたりしているんですか?

T:まだヒアリングはしていないです。
アルファクラブは全国の葬儀社の中でもパイオニアだと自負していて、「うちが引っ張っていく」という意識が強いんですね。まだ流行っていなくても、私たちが先立って取り組むことによって、全国の葬儀社さんが真似をしてくれると思っている。正直、「メタバース」はまだ世界でも伸びていません。でも先に新しいことをどんどんやって「将来、やっててよかったよね」となるように、と考えています。

藤井:業界のリーダーとしての役割だと?

T:そう、役目ですね。私たちがやらないと、多分どこもやらないと思います。じゃあ、うちが引っ張るしかない。昔からそうですね。

藤井:確かに、僕らも仕事でいろいろな葬祭業者さんとお話しても、目の前でちゃんと仕事が回っている時に、なんで新しいことするんだっけみたいな話になっちゃう。お客様から求められている状態でもないから、どうなのかなという反応が結構あります。基本的に皆さん、コンサバティブですよね。

T:コロナが全盛期の頃に「アルファLIVE」というライブ配信を開始しました。葬儀にカメラを設置して、YouTubeでライブ配信をする仕組みなんですが、反発はすごかったです。

藤井:なんで反発するんですか?

T:全国の葬儀社さんからしたら、ライブ配信のせいで参列者が減っちゃうだろうと。規模の小さい葬儀を推進することになっちゃう。

藤井:現状がますます加速しちゃうだろうって話ですね。

T:そうです、そうです。でもコロナ関係なしに、足が悪い方だったり、遠方で最後のお別れができない方向けにも、ライブ配信は必要ですよね。将来的にも取り組んだ方が良いと続けてきましたね。

藤井:なるほど。小さいお葬式が主流になってきて、さらにコロナでその流れが加速してきた。それでも、葬儀の意味と価値は引き続き維持しなきゃいけない。どういう葬儀のあり方があるかを含めて未来をゼロから考えると、ライブ配信など新しい形がありうるよね、と。

T:そうですね。

藤井:社内の議論はどうなんですか? 新しいことをやる会社とはいえ、いろんな人がいると思うのですが。

T:新しい取り組みに対して、本当にうまくいくのかと考える人は社内にもいると思います。でも同時に、今の葬儀の概念を崩していかないと、生き残れないのではと感じている人もいると思いますね。

葬儀には、厳密なしきたりを重んじる側面があります。例えば葬儀の参列には、黒いスーツを着て黒いネクタイを付けるのが主流ですよね。でもうちの社長は「10年後、20年後はカジュアル葬儀でいいんじゃないか」と言っています。これまでの葬儀の概念を変えていこうと考えて、動いていく姿勢です。

“メタバース”をどうアウトプットするのか

藤井:最近だと、AI技術を使って人格をつくれるようになってきています。亡くなった後も会いに行けるみたいなことも、今後十分ありうると思うんですよね。

T:そうですね。2、3年ぐらい前に紅白歌合戦で、美空ひばりさんのホログラム出演があったじゃないですか。同じことをやろうとしています。演出として、故人さんを葬儀の場で蘇らせたいなと。

藤井:そういえばこの間、アルファクラブの会長がホログラムで蘇っていましたよね。

T:はい。ホログラム葬と呼んで、一般的に広めたいなと思っています。

私たちは葬儀の根幹として、「感動する儀式の提供」をテーマに掲げてるんですね。故人さん、ご家族に寄り添った葬儀をすることで感動してもらって、その後もアルファクラブを使ってもらえるようにと考えています。その「感動する儀式」をもう一段階アップしたいんです。

ただ、課題は声ですね。AIで声を再現しようとすると、つぎはぎの感じになっちゃったり。もちろん事前に録画すればいいのですが、「録画させてください」と言うと「早く死ねということか?」と考えてしまう方もいるんですよね。

まだ技術は追いついていない現状ではありますが、あと2、3年でホログラム葬は当たり前にはなるのではと考えています。

藤井:角田さんはどう思いますか? 面白すぎるよね、これ。

角田:Tさんのお話は、実は技術的にはすでに実現できていることではありますよね。あとはアプリケーションベースで、自分たちにできるサイズ感として手元に存在すれば、もうできちゃう。もし仮に今できないことがあっても、僕も2、3年でできてしまうと思います。

そこで考えるべきは、「技術的には、考えていることはもう全てできます」という状態になった時にどのようにアウトプットするのか、ですよね。

いわゆるナーチャリング、一般化していく過程。これはあらゆるものとメタバースを組み合わせる時に生じてくる。

既得権益的な反応は、それ自体が別に悪いわけではないと思うんです。昔、音楽業界はCDが売れなくなるから、出版業界は本が売れなくなるから、Amazonはやめてくれという空気がありました。でももう今は「本屋には本屋の良さが、レコードにはレコードの良さがある」といったすみ分け、あるいはシフトができている。むしろデータ販売やストリーミング販売で、昔より今の方が儲かっている。

そういったシフトが外部要因、テクノロジーの進化でどんどん起こっていく。その範囲が少し広いのが、メタバースかなと思います。

(左)藤井氏 (右)角田氏

葬儀に関しての価値観も、コロナもあって本当にどんどん多様化しているじゃないですか。今後5年、10年ぐらいで死生観の再興が起こりますよね。世界中でメタバース葬儀の事例も出てくるでしょうし、亡くなった方の再現もアウトプットが出ては「これは駄目だ」「いや素晴らしい」と議論が巻き起こるでしょう。今まさにその最中かと思いますね。

T:今まだ正解がない部分なので、とりあえずやりながら改善してつくるを繰り返していくしかないかなと思っています。

角田:どの形で出しても絶対に議論になりますからね(笑)でもその積み重ねですよね。

テクノロジーの進化で、葬儀そのものの価値観が揺らぎ始めている実態が見えてきました。それでも変わらない本質的な葬儀の意味、そしてメタバースと掛け合わせるからこそできることは何かー。Part 2へ続きます。

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