【対談 #1】なぜメタバースをやるのか?脳科学者に聞いてみた 1/3

2023年1月31日
全体に公開

「メタバースって何の略?の”次”を語る会」の新しいモデレーターに、脳科学者で、XR・メタバース事業、ブレインテック事業をやっているハコスコ代表取締役、かつXRコンソーシアム、ブレインテックコンソーシアムの代表理事もつとめている、過去の経歴まで並べだすと情報が大渋滞してしまう、藤井直敬さんをお呼びすることにしました。ご自身の経歴、考え方を踏まえた「なぜメタバースをやるのか」というお話しを先日させていただいたのですが、その内容が非常に面白かったので、せっかくなので対談記事というカタチで藤井さんをご紹介できればと思います。

第一回では、藤井さんのメタバース進出の経緯
第二回では、なぜメタバースをやるのか
第三回で、これから何をしていくのか
(長くなりすぎてしまったので)3回に分けて、藤井さんの紹介と代えさせていただければと思います。

「現実を再現するSR」からはじまった

角田:今回藤井さんにお声がけしたのは、メタバースの未来を考える時に、メタバースのことだけを考えても行き着く先は大したこと無いのではないのかと考えたんですよね。むしろ、メタバースは単なる入れ物に過ぎない。その中でどのような未来を目指すのかを考えた時に、ある意味哲学のようなものが必要じゃないかと考えたんです。そんな時「現実科学」という新しい領域に挑戦している藤井さんと知り合って、話してみたらめちゃくちゃ面白くて、これをみなさんにお伝えしたいと思ったからです。藤井さんはいろいろな事をやられていて、幅広い知識と経験をお持ちだと思いますが、まずはそのベースになる脳科学研究を始めたきっかけを教えてください。

藤井:僕はもともと眼科医をしていて、研究では当然眼科のテーマを与えられて、正直つまらないと思いながら実験を半年ほど続けていました。

僕自身もともと、志の低い大学院生だったんです。教授に「眼はつまらないので、脳に興味があります」って言ったら、同じ東北大学の神経科学の教授を紹介してもらって、そこから神経科学を始めました。やってみたらすごく面白くて。

4年が経って、留学について教授に相談したら、MIT(マサチューセッツ工科大学)のポジションを紹介してもらいました。もともと志の低い大学生だった僕ですけど、MITに行ったときはとても志が高かった。4年経って気持ちも大きくなって。「もう日本には帰ってこない!」くらいの気持ちでした。

結局6年半住んで知ったのですが、同じ研究者が同じ実力を持っていても、僕は言葉の問題で2割損しているから勝てないと思ったんです。なのでポジションを取るのも大変で、「損してるな」と思ったんですよね。

そんな時たまたま理化学研究所のオファーをもらったことをきっかけに帰国、その後運良く自分の研究室を理化学研究所で持つことができたので、社会性の研究を始めました。サルとサルの社会行動を研究していた中で、「これを人間でやるには?人の振る舞いを研究するにはどうしたら?」と思うようになって。

とはいえ同じ現実は再現できないんですよ。たとえば「おはよう」の挨拶ひとつでも、日によって気分や状況が少なからず違います。完全に同じ現実を繰り返さないと実験はできず、それがハードルになりました。

そこで「テクノロジーを使って現実を再現できないか?」と研究員と試行錯誤し、SRを制作しました。それがワイアードに紹介されて、多くの方が理研に見学に来てくれました。そんな中たまたまホリエモン(堀江貴文)も来てくれて。「このSRヘッドセットはカスタムで作ったから2,000万円くらいしました。でもこれスマホで作れちゃうんですよね。」という話をしたら、ホリエモンが「じゃあ、やればいいじゃん」と言ってくれました。そのとき僕は「やっていいんだ!」と背中を後押しされた気分になって、そうして始めたのが「ハコスコ」なんです。

いつかは「いっさい身体を動かさないメタバース」もできる

角田:サルの社会性の研究からXR研究に移ったんですね。面白い。一方で理化学研究所ではブレイン・マシン・インターフェイスの研究もされていたんですよね。たとえばSAOは、横になったままナーブギアをかぶって自由に動き回れます。実際の身体は動きませんが、頭で考えただけで動きますよね。このような「考えただけで実際身体を動かしたような気持ちになるメタバース」は今後できるんでしょうか?

藤井:いつかはできるんだろうと思っています。現状では「侵襲的な方法」と「非侵襲的な方法」があって、「侵襲的な方法」なら技術的な面が進めば、実現の可能性はあるのではないでしょうか。

一方の「非侵襲的な方法」だと、まだ実現は難しいと思っています。この方法で取れるデータのクオリティは低いので。身体や脳にフィードバックを与えられないため、そういう点では不向きです。だからこそ、脳のインプットとアウトプットの両方に、今までにない新しい原理が必要だと思います。

つまり非侵襲で「全く新しい原理で脳活動を記録して、さらに全く新しい原理で脳に情報を与える」ことが実現できれば、みんながもっと便利に使えるようなツールになると考えています。

人の意識がコンピューターにうつれば無限に生きられる?

角田:人の脳がデジタル化できたら、将来的にその人は、「メタバース空間で永遠に生きていく」ということも可能になるのでしょうか?

藤井:もし人の意識をコンピューター上にうつせたなら、電源が切られない限り、動き続けるでしょうね。角田さんはそういう世界に行きたいと思いますか?

角田:完全にSFのようですけど、僕はそういう考え方は好きですね。すごく興味がありますし、できるならやってみたいです。でも結局、僕の意識を主体的にもっているのは僕ですよね。その意識自体をアップロードするわけなので、どこかでコピーされるといったこともあるのでしょうか?

藤井:要するに自分の外側で、自分が生まれているということ。たとえばサーバーなどで動き始めた「角田2」「角田3」「角田4」…などが完成すれば、みんな違う経験をしますよね。そうするとそれぞれが分岐していくじゃないですか。だからときどき同期することで、角田さんが10人いたら10人分の経験を一人のものにできますし、一人10分異なることを勉強したら100分勉強したことと同じになるということです。

角田:めちゃくちゃすごい話で、もはや「経験とは?」といった次元です。ということは、1秒間に1000年生きた経験をすることも可能となりますね。

藤井:果たしてそんなに生きたいのか?という話にもなりますね。

話がSFチックだなと思われる方も多いと思いますが、次回、この話とメタバースが結合します。自己とバーチャルの認識をどのように捉えるのか。そのうえでなぜ”いま”、メタバースを推し進めるのか、をお伝えしていきます。

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