【対談 #3】人がくるメタバース、一度きりで終わらないために 3/3

2023年6月12日
全体に公開

脳科学者でXRコンソーシアム。ブレインテックコンソーシアムの代表理事の藤井直敬と、メタバースエバンジェリストの角田拓志による連載対談。

第三回目となる今回は、「めちゃ簡単、めちゃ沢山入れる」メタバース技術であるめちゃバースを手がけている株式会社ハシラス(以下、ハシラス)の代表取締役社長、安藤晃弘さんをゲストにお呼びして、3人でメタバースについて語っています(全3パート)。

Part1Part2では、「人が来るメタバース」の条件や、メタバースで新しいことを始める際の留意点などに関する議論が展開されました。そこから話題は、メタバースの「これから」に向かってゆきます。

メタバースにおける空間以外の価値

角田:僕は「空間」それ自体をメタバースの中心価値に据えて売り出すのは、かなり難しいことだと感じています。確かに、VRChatとかを見ているとたまに「本当にすごい空間」はあります。しかし、空間の見た目や機能など、誰もいない「箱」の状態に既に価値があるのだとする打ち出し方で人気を得るには、相当な技術・クリエイティブが必要です。

安藤:箱だけだと、1回は訪れてもらえるかもしれないけれど、何度も訪問してもらうとなると難しいですよね。

角田:やはりメタバースの価値の軸は「空間」より「人」にあるように思います。人が先にあって、その人に後付けで空間がつくられるくらいの方が、まだ人は来やすいし、話も生まれやすい。

どこかの団体さんが初めてメタバースで何かをやりますという時に、そのプロジェクトが「空間」的な価値だけを見ていると失敗する可能性が高いです。「人」「ゲーム」「イベント」など、何らかの箱としての空間以外の要素を価値として持っていないと厳しいと思います。

では、「人」的な要素とは何か。コミュニケーションの発生しやすいメタバースとは、継続的に訪問されるメタバースとはどのようなものか。そういった問いには、まだ答えが出ていません。いくつか成功した事例はあるけれど、その成功をどうしたら再現できるか。これはとても重要で、チャレンジングな問題です。

安藤:仰る通りですね。ところで、メタバース関連のプロジェクトの多くが「空間」にフォーカスしてしまう理由の一つには、「空間」的に良いものが直観的には成功しそうに見えてしまうという罠があると思います。

「こんなに素晴らしい空間をつくれば、きっと人は来ますよ」と言って美麗な絵を見せられたら、メタバースをやったことのない人が「確かに」と納得してしまうのは仕方ないことです。メタバース関連のプロジェクトを焼畑にしないためには、メタバースを提供する側にもリテラシーが求められるように思いますね。

角田:今はまだ箱をつくるだけでもビジネスになっていますが、これからのメタバース事業者は、「人」とか「盛り上がり」とか、「空間=箱を作ること」以上の何かを提供する必要が出てくるでしょう。

自分も今まで「空間だけをつくる」ということをしてきてしまったので、大いに反省しているところです。2年くらいやってみて、やはり空間だけがあっても大きな価値は生まれないということを痛感しました。今後は事業者も発注者も、みんなで緊張感を持ってメタバースの価値について考えていきたいですよね。

安藤:「メタバース、結局駄目じゃん」となるのは、いかにも惜しいですからね。

角田:それも日本だけが「駄目じゃん」となっている間に他のところでは大成功しました、という事態になったら本当に悲しいですからね。

「お国柄」が現れるメタバース

藤井:国外のメタバース事情について、皆さん何かご存知ですか?アメリカの話は時々聞きますが、例えば中国やヨーロッパはどうなっているんでしょう。

安藤:あまり詳しくは存じ上げないのですが、以前中国、韓国、日本の事業者が集まる機会があった時は、中国では国策としてデジタルヒューマン文脈が強く、「空間を作ろう」という方向の話はあまり前面に出てこなかった印象でした。

角田:デジタルヒューマンは現時点で既に結果を出しているところもあってすごいですよね。一方で韓国は、デバイス方面の話や、元々PCゲームとかネットカフェといった文化が根強いのでそれを活かした路線が活発なようです。「ZEPETO」もその一環として捉えられるかもしれませんね。

安藤:韓国の事例で言うと、サイネージ系もとても多かった印象です。中国ではデジタルヒューマン、韓国では「大きなサイネージ系の設備で没入空間を作る」、日本では「被って遊ぶキャラクターもののVR」など、一堂に介してみたけれど三者三様という感じでした。

角田:他方で欧米はやはり「洋ゲー」的な考え方の試みが多い印象ですよね。メタバースでも洋ゲーをやっているなと感じることが多いです。

実は、それぞれの国ごとにある「お国事情」が、テクノロジーの発展する方向を形作っている側面があって、それは面白いなと思います。有名なIPがあるとか、法律で特定の表現が規制されるとか、文化的に良しとされるものが違うとか。VRChatの中に出来つつある文化や規範も、独特なものが多いですし。

安藤:VRHMDをつけてメタバースに没入したまま一緒に寝る、といった事例はその最たるものですよね。最初にどんな価値観を持った人が集まったか、そこにどんなルールが敷かれたか、といった一つ一つの要素がその後の文化をつくっていくのは興味深いですね。

落ちこぼれとネイティブ?

藤井:安藤さんはユーザーとして、日常的にメタバースを使っていますか?

安藤:いいえ、そこまでではないです。自分が体感型展示が大好きということもあり、コンシューマー領域のVR・メタバースにはまだあまりコミットできていないのが現状です。勉強としていろいろなメタバースサービスを触ってはいるものの、中で何千時間も費やしています、というほどではありません。

藤井:2014年ぐらいからVRに携わっている同年代の仲間に「VRデバイス、日常的に使っている?」と聞いても、「いや、仕事のときしか被らない」ってみんな言うんです。ある意味、僕らは落ちこぼれなのかもしれない。角田さんは日常の暇な時間にメタバースにジョインして楽しんでいるというから、すごいなと思いました。

角田:僕なんかより、いまの小中学生、高校生、大学生の方がずっと長く、深く遊んでいますよ。それもそういった若者が日を追うごとに増えていっている感じもします。

藤井:そうですよね。だから僕ら「落ちこぼれ」がメタバースを作る側に回って本当にいいんだろうかという気持ちは正直あって。何かをつくるなら、「ネイティブ」の意見を積極的に取り入れていく必要があるんだろうなと思います。

安藤:知り合いの事業者さんの中には、メタバースの中で出会った人に仕事を頼んでいる人もいます。中で「ネイティブ」と出会って、そこから仕事が生まれるということも今後増えていくんだろうと思います。

メタバースの未来

藤井:もしかしたら10年後には、「メタバース」という言葉はもうなくなってるかもしれません。安藤さんは、いま僕らが「メタバース」と呼んでいるものの未来像について、何か希望や展望をお持ちですか?

安藤:第一に、ユーザーが自らの世界を自ら作り変えられること。ユーザーに創作できる余地がないと、メタバースは面白くなりません。これはメタバース事業にコミットしていて切実に感じることです。

これについては、三次元的な創作の難しさをいかに突破するかがポイントになると考えています。平面的な創作に関するツールは非常に充実している一方で、三次元空間におけるものや体験のクリエイティブを支援するツールはまだ充分とは言えません。「ユーザーが三次元空間で創作を自在にできる環境」が整ってきた時が転換点になるんだろうと思います。

第二に、高いプレゼンス(臨場感)を得られるようになること。メタバースの持つ三次元空間性をフラットディスプレイで視聴したところで、やはりそこで得られる価値は真に没入体験をした時の何分の一、何十分の一になってしまいますから。

この二つが両方揃った時、メタバースと現実の主従関係が逆転したり、爆発的な普及をしたりする転換点に至るのかなと思っています。弊社はいまのところ、ツールやサービス開発を中心に行う会社ではないので、自社でダイレクトに推し進めているわけではありませんが、そんな転換点が訪れるのを心待ちにしています。

藤井:なるほど。転換点の先の世界、非常に楽しみですね。それは間違いなく来る。

安藤:間違いなくきますね。

藤井:その世界では誰がメインプレイヤーになっているのでしょうね。全く想像がつきませんが、それでも、いやそれだからこそ非常に楽しみです。安藤さん、本日はありがとうございました。

安藤:楽しかったです、ありがとうございました!

角田:ありがとうございました!

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