【対談 #3】人がくるメタバース、一度きりで終わらないために 1/3

2023年4月11日
全体に公開

脳科学者でXRコンソーシアム。ブレインテックコンソーシアムの代表理事の藤井直敬と、メタバースエバンジェリストの角田拓志による連載対談。第三回目となる今回は、株式会社ハシラス(以下、ハシラス)の代表取締役社長である安藤晃弘さんをゲストにお呼びして、3人でメタバースについて語ります(全3パート)。

【対談 #1】なぜメタバースをやるのか?脳科学者に聞いてみた
https://newspicks.com/topics/metanext/posts/47

【対談 #2】「日常的」で「実用的」なメタバースってどんなの?
https://newspicks.com/topics/metanext/posts/58

リピートされるメタバース

藤井:今回は、株式会社ハシラス(以下、ハシラス)の代表取締役社長である安藤晃弘さんをゲストにお呼びしました。「メタツギ」対談の最初のゲストです。

株式会社ハシラス 代表取締役社長 安藤晃弘さん

安藤:光栄です、ありがとうございます。ハシラスでは、2021年の夏から「めちゃバース」の開発に取り組んでいます。

めちゃバースとは、「めちゃ簡単、めちゃ沢山入れる」メタバース技術です。専用アプリケーションのインストールを必要とせず、標準的なWebブラウザーから参加できるバーチャル空間を提供します。また最大数千名規模という、従来のメタバースサービスに比べて突出して大規模な人数が同じバーチャル空間に参加・交流できます。2021年11月にはXR Kaigi Online 2021のバーチャル会場として活用していただきました

めちゃバース https://hashilus.co.jp/products/mechaverse/

藤井:1年半ぐらい経って、お仕事はどのような感じで進んでいますか。

安藤:めちゃバースは、常時アクセスできるワールドがあって、そこに行けばいつも誰かがいる……といったソーシャルサービスとは異なる方向の事業です。いまは、メタバースで何かをやりたい人、例えばエンドユーザーがいる法人さんなどに対して、それに相応しい場所を提供するクライアントワークを行なっています。

毎月結構な割合で案件が入ってきています。まだこれまで弊社が取り組んできたアトラクション系のVRコンテンツ開発事業と並ぶほどではありませんが、一つの柱として成長しつつありますね。

藤井:メタバースのイベント系は焼畑というか、一度やって終わりというケースも多いですが、リピートされる事例は出てきていますか?

安藤:あります。3〜4回繰り返し使っていただいたこともありますし、そこには1000人近い規模のイベントも含まれています。一ヶ月くらいに渡って開催される発表会に活用されたことも。

藤井:角田さん、それってすごいと思いませんか?

角田:リピートが出るというのは、使用したカスタマーがめちゃバースに何らかの実利を感じたということですよね。

実利と言っても金銭的な側面に限らず、たとえば「参加者の満足度が高かった」とか「発表が伝わりやすかった」とか「リアルでやるよりも多くの人が来た」といったものも含みます。とにかく、初回として使ってみた時に「あれが良かった」と誰かが何かに実利を感じたからこそ、2回目3回目があるのかなと。

焼畑にならないために

角田:さっき藤井先生が「焼畑」と仰ったように、メタバース業界はいま極めて重要な時期にあると思います。一度メタバースを試してみたけど、あまり価値を感じられずにやめてしまう企業がどれくらいあるか。

「10社やって2社で良い結果が出た」くらいの打率ならまだ良いのですが、まずいのは「10社やって10社すべてで良い結果が出なかった」という事態です。これはその企業のビジネスが失敗したというだけでなく、業界全体の士気を下げることにもつながります。

安藤:もちろんめちゃバースも、リピートしていただけるケースばかりではありません。「話題になっているから取り敢えずお試し」として、一回実施しただけで終わってしまうというパターンはどこの業界でもよく見られる現象ですよね。

角田:試してみることそれ自体は悪いことではないと思うんですけどね。

めちゃバースを使いたいというお客様はいま、メタバースに何を期待されているんでしょう?ゴールを遠い未来に置いているのか、近い未来に置いているのか。実現可能性のレベル感といいますか。その期待に応えられるかどうかは、リピートしていただく上で非常に重要になると思います。

安藤:最初に思い浮かぶのは、最先端の技術にチャレンジしているという企業のブランディング的な価値でしょうか。これは、いまたまたまメタバースがバズワードになっているから生じているだけで、次なる「イケてるもの」が登場したら失われてしまう価値かもしれませんが。

角田:「ChatGPT」とか「ドローン」とか、次のバズワードが盛り上がったら、みんなメタバースをやめてそっちにいってしまうかもしれない?

安藤:そうです。ただ、それがメタバースに対する期待の100%だとは思っていません。あくまでもバズワードとしての盛り上がりは「座布団」です。

もう一つみなさんが期待されているのは、コロナ禍で対面で集まるのが難しい日常において、新しい集まり方を模索しようというチャレンジでしょうか。Zoomでは一緒にいる・集まっている感覚が得られにくい、という満たされなさから、空間化されたコミュニケーションを求める原動力になっているようにも思います。

コミュニケーションの空間化がもたらす価値

角田:コミュニケーションを空間化する価値は、「絶対にある」と断言できます。これは、「買い物とかAmazonでワンクリックで家に届く方が楽だし良いに決まってる」といったWeb2の頃のロジックとは全く異なるものです。

安藤:買い物だと今のECの方が絶対よくできていて、体験を空間化すると冗長になるだけだ、だから損だ、という話になりやすいですよね。

「効率」という軸だけで体験を評価してしまうと、別に空間はいらないのでは?という結論になってしまう。そうじゃなくて、「偶発性」や「ワクワク感」といった、ショッピングという体験が持つ根源的な価値は、空間によって生まれる可能性が大いにありますよね

角田:コンバージョンレートを筆頭に、何か数値化できる価値が注目されがちで、いますぐ数値で評価できないような価値は軽視されてしまう。こういう話は「あるある」ですよね。いまはまだ数値化できないものの中にもたくさんの価値が含まれているのに、数値だけをみてリピートされるかどうかが決まってしまったりする。

効率以外の価値に目を向け、数値化が難しくともきちんと評価していく姿勢は、いまのメタバースにおいて重要だと思います。

2/3へ続く。

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