【対談 #2】「日常的」で「実用的」なメタバースってどんなの?2/3
脳科学者でXRコンソーシアム。ブレインテックコンソーシアムの代表理事の藤井直敬と、メタバースエバンジェリストの角田拓志による連載対談。第二回目となる今回は、「日常的」「実用的」をキーワードに、メタバースについて語っています(全3パート)。本記事は、そのPart2です。
Part1である前記事は、メタバースでのコミュニケーションの日常化が行き着く先は、お互いの存在感を共有しながら好きなことをする「深夜のファミレス」のような場なのではないかという話で盛り上がりました。議論はそこから、「メタバースの中でモノを売り買いすること」へと繋がっていきます。
マーケティングツールとしてのメタバースの効用
藤井:前回、メタバースの日常的な利用のうち、プライベートではコミュニケーションが重要になるだろうという話をしました。それでは、仕事におけるメタバースの日常化はどうでしょうか?
僕は、メタバースはどこかで商行為と結びつかないと、本当の意味での日常化には至らないのだと思っています。ものを売ったり買ったりする行為は、僕たちの日常の中で大きな比重を占めていますからね。
けれどいまのメタバースはまだ、事業者が喜んで使うようなものにはなっていませんよね。アパレルブランドが、アバターに着せられる服を販売するような事例はすでにいくらかありますけど、ああいうのは商品を使う場所がメタバースになっただけで、本質的には現実でやっている商売と同じですし。
角田:確かにそうですね。ただ、例えばNFTなんかを駆使して商品に新しい価値を持たせた場合、それは既存の衣服とは違った新しい商品だと捉えてもいいような気がします。
メタバースにおける商売でいま注目されている問題は、メタバースを顧客の購買行動の変化に活用する方法でしょう。メタバースでは、華やかなワールドを作ったり、身体性の伴った接客やコミュニケーションで価値を出したりと、顧客とのコミュニケーションを通じてブランドイメージを高めることが可能になるはずなのですが、まだ誰もその正解を知りません。
藤井:「行動変容を促す」っていうのは、具体的にはどういうことですか?
角田:あらゆるマーケティングは、「消費者に何らかの行動変容を起こさせる」ことを目的に行います。もちろんそれにはいろいろなレベルがあって、例えば何かの商品に関するテレビCMを見た人が、すぐさま購入に走ることもあるだろうし、CMが鮮烈でフレーズや商品名を覚えてしまった人が、コンビニの棚で商品を見かけた時に何気なく手に取ってしまうといったこともあるでしょう。
キャンバスが三次元になり、インタラクションの幅も膨大に増えたメタバースでは、顧客から購買行動を引き出すための全く新しいアプローチが可能になると期待されています。
藤井:なるほど。マーケティングツールとしてのメタバースの効用は、いろいろな企業がいままさに探求をしているところですね。
自由過ぎで難しいメタバースでの広告
角田:ただ、メタバースで何かを広告する時、デザインできるパラメーターは本当に膨大です。これまでなら「バラの色は赤、黄色、青、どれがいいか」くらいに検討していた問題が、「色だけじゃなくて、形も提示するタイミングも何でも変えられます」というふうに発散してしまうわけです。
藤井:今後はその膨大なパラメーターを一人一人に合わせてチューニングした、究極のカスタマイズ広告が実現しそうですよね。みんなで同じ場所にいるのに一人一人個別に違ったものを見ている、なんて状況もつくれるわけだから。
角田:この自由度の高さは、「インターネットの次」としてのメタバースの魅力ですよね。
藤井:けれどさっき仰った通り、自由度の高さは難易度の高さでもありますよね。いまのところメタバースの中の広告って、「看板オブジェクトを立てる」くらいのことがほとんどですし。
しかも看板一つ建てるにしても、現実とは全然意味合いが違ってしまう。現実なら空間は全て地続きで、地形もほとんど決まっているようなものだから、人の導線をあらかじめ想定するのは比較的簡単ですけど、メタバースでの「空間」はそんなにシンプルじゃない。
「地点Aから地点Bまでの移動中にこの広告を見せよう」と考えたとしても、メタバースではひょっとすると、地点Aと地点Bはポータルで繋がっているからワープできます、だから「道中」なんてものはありません……なんてことも普通にあり得るわけで。
角田:その通りですね。もっと言えば、現在の2Dのインターネットにおいても、僕らは必ずしも「最適」なマーケティングができているとも限りません。コストをかけていろんなカスタマイズ広告を出したけど、実は何も考えずに直感だけでやった戦略の方がうまくいってしまった、なんてことも日常茶飯事です。そんな状況でさらに自由度が高いメタバースなんてものが出てきても、正直途方にくれてしまいますよね……(笑)。
藤井:最近では、何かを買う時にただボタンをポチッと押すだけじゃなくて、配信サービスを通じて販売者とコミュニケーションを行うライブコマースに価値が見出されていますよね。これはメタバースとも相性がいいように思います。別に新しいことではないけれど、メタバースでは購買コミュニケーション行動もエンタメの一つになるのかもしれません。
「何気ない日常の楽しさ」をどうつくるか
藤井:とはいえ、それらはハレとケでいうとエンタメはハレ側というか、瞬間的な爆発を生むような、特別な面白さを提供する体験です。逆に、日常的なケのメタバース利用において、購買行動をどんなふうに絡めていけるのかが気になります。
角田:仰る通りですね。スマホで言うところのLINEとかメッセンジャーに当たるような普段使いのキラーサービスが出てくると、また可能性が広がる感じがします。
藤井:盛り上がっているお祭りでも旅行でもない、日常的に何気なく行く買い物の楽しさをメタバースでどうやって再現するかは、ハコスコがやっているメタストアでも大きな課題です。買い物って、コミュニケーションの要素も多分に含まれていますから。
角田:買い物では、一緒に行く人やお店にいる店員さんとはもちろん、店に置いてある商品ともコミュニケーションが発生しますよね。例えば、買いもしない商品をつい手に取って眺めてしまうとか。レジで決済する以外のさまざまな体験が買い物には含まれていて、買い物の楽しさを形作っているんですよね。
Amazonでボタンを押したら翌日商品が届く、というのでも、欲しいものを得るという目的は達成できますけど、そこには多くの体験が抜け落ちている。買い物体験を構成しているさまざまな「変数」は、メタバースで介入する余地も価値も多分にあると思います。
今後いろんなメタバースでのサービスが登場する中で、2Dのインターネットの時代では見落とされていた体験や価値がたくさん見つかっていくはずですし、その中から普段使いするサービスも出てくるのではないかと期待しています。
3/3へ続く。
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