あの“大株主”がテンセント株を売った理由

2022年9月9日
全体に公開

「テンセント株を大株主売却か-1兆円超相当、決済システムに移管」(Bloomberg )

「こちらの記事がNewspicksでかなり注目を集めています。めっちゃサボってますけど、そろそろトピックスを更新してください」

と、Newspicksの中の人から連絡が来たので、ちょろっと解説したいと思います。

中国を代表するIT企業のテンセントですが、2000年代初頭のドットコムバブル崩壊で破綻の危機に追いやられました。それを救ったのが南アフリカのネット・メディア企業ナスパーズ。テンセントの筆頭株主となった同社は、その後テンセントの飛躍的成長によって大きな利益を得ます。このあたり、黎明期のアリババに出資するという大当たりが今の成功の礎になっているソフトバンク・孫正義とかぶるところがあります。

ですが、中国ITは2021年頃から長い低迷期に入っています。最初に引き金を引いたのは政府の規制でしたが、その後に中国の消費減速という要因も加わり、いつ冬が終わるのか、見通せないように。

テンセントの状況も芳しいものではありません。8月17日に発表された四半期報告(2022年4月~6月)の部門別売上は以下のとおり。

テンセント、2022年第2四半期報告より。

増値服務(付加価値サービス、ゲームの課金や有料コンテンツ販売手数料など)、網絡広告(ネット広告)、金融科技及企業服務(フィンテック・企業サービス)、其他(その他)に分類されています

付加価値サービスは0.5%減と微減でした。国際ゲーム市場がマイナス1%の107億元、中国ゲーム市場が1%減の318億元だったとのこと。未成年は週に3時間しかゲームができないという規制に加え、テンセント(と業界2位のネットイースには)新作モバイルゲーム発行許可がおりていないため、新たな稼ぎ手となる大作が投入できないなか、「王者栄耀」といったドル箱タイトルの売上が衰えているとのことです。

激しく落ち込んだのがネット広告で前年比18%減です。しかもポータルサイト「捜狐」をM&Aして増えた分を乗っけても18%減という始末。ネット広告売上の自由説明がかなり率直に今の中国とテンセントを説明しています。

テンセント、2022年第2四半期報告より。
ネット広告業務の2022年第2四半期の売上は前年同期比18%減の186億元となった。インターネットサービス、教育、金融分野の需要が明らかに低迷していることの反映である。広告業務は4月、5月のマイナスが大きかった。一部のマイナスは合併した捜狗の売上によって打ち消されている。ソーシャルメディア及びその他の広告売上は17%減の161億元。広告需要の低迷により、広告入札数が低迷、eCPMが下落した。媒体広告売上は25%減の25億元に。テンセントビデオとテンセントニュースの広告売上の減少に由来する。
テンセント、2022年第2四半期報告より。

規制によるIT企業の広告出稿低迷、オンライン教育の潰滅に続き、消費も不振でなかなか広告は厳しそう、と。(ちなみに中国企業の出稿が減れば、日本企業は安く広告を打つチャンスなのではないかと思って、いくつかの取材先に話を聞いてみたのですが、今のところそういう兆候は見られないのだとか。広告ジャンルの問題なのか、値下げ分は代理店が懐に入れて日本企業までおりてこないのか、よくわかっていませんが。詳しい方はぜひコメントで教えてください。)

あと、本業とはまた別の話なのですが、中国のIT企業規制では「資本の無秩序な拡張を抑止」を名目に、株の持ち合い、コングロマリット化解消を進める動きもあります。テンセントは2010年代半ばから、有力企業に出資しては10億人メッセージアプリのウィーチャットからがんがん送客して育ててキャピタルゲインという戦略をとっていましたが、これもちょっとダメなんじゃないのという雰囲気に。

というわけで株価は厳しい状況が続いています。

グーグルファイナンス、テンセントの株価推移より

こうなると、ソフトバンクがアリババ株の売却に走ったように、ナスパーズ(実際に持ってるのは子会社のプロサスですが)もテンセント株を売りたくなるのは納得という感じでしょうか。

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