シャオミ SU7 車の新時代到来の予感

2024年4月4日
全体に公開

トピックスオーナーの前田謙一郎です。

先週、中国のシャオミ(Xiaomi)がSU7の販売を開始し、世界中のメディアでも大きく取り上げられています。発売開始からなんと24時間で88,898台!ものオーダーがあったとのこと。

何となく漢字で読める、シャオミのXにポストされたオーダー数 画像:@Xiaomi

ポルシェのタイカンとテスラのモデル3を足して2で割ったような今風のデザイン、それらモデルからインスピレーションを受けた各種機能に目を奪われますが、スペックや特徴を見ると、かなり最先端な車であり、SU7は車の新時代を象徴するモデルです。

AIやロボティクスに進むテスラ、バッテリー技術や製造に強みを持つBYD、ITや家電業界から車に参入してきたシャオミ。そして更なる中国の車に対する熱気。加速する新しい潮流は自動車業界を次のステージに進める予感がします。今回はそんな視点で記事を纏めてみました。

自動車業界・エンドユーザー両方から大注目

実際に中国で発売開始となった先週3月28日にはそのショールームに多くの人が集まり、さながらモデル3がアメリカで発売された時以上の熱気でした。まさに、SU7は中国の人にとっては自国ブランドが送り出す最先端かつクールな車になるのでしょう。

3月28日の発売当日に集まった人たち 画像 Getty Images 

シャオミのSU7を見て思うのは、車という概念でなく家電やIT機器からの車作りという、従来とは全く逆の切り口を確立し、中国では主流になっていく可能性が高いことです。同様にグローバルで見ても最先端のテクノロジーやフォーカスすべき分野はBEVやHVのドライブトレインでなく、もはやUIやOS、自動運転、充電能力、バッテリーなどの分野に移っています。

また、もう一つ注目したいのは、シャオミだけでなく中国全体の車に対するパッションです。3月28日に行われたシャオミの雷軍CEO兼会長のパワフルな発表会のライブの模様は以下から見ることができます。

ライブイベントでの雷軍CEO 画像:Xiaomi youtube

会場では何とライバルであるはずのNIOのウィリアム・リー会長や小鵬汽車(シャオペンXpeng)何小鵬CEOもプレゼンを見守っています。雷軍CEOは元々、スティーブ・ジョブズに影響を受けていることもありますが、とてもプレゼンがうまい。特に後半の価格が発表される辺りからは、中国メーカーがテスラやポルシェに追いつき世界一になるんだ!という、会場を巻き込んでの中国全体の車業界に対する熱いパッションを感じます。

NIOのウィリアム・リー会長やXpengの何小鵬CEOも 画像:Xiaomi youtube

ちなみに、私のセミナーなどでよく話をしているのですが、中国の自動車に対する熱気は私がテスラ時代の出張で北京や上海に行った時に中国チームや同僚から感じたパッションとよく似ています。自身のキャリア向上だけでなく、国全体として車産業でトップに立つというような雰囲気と気概です。

シャオミのSU7については取り上げるべきテクノロジーや特徴が多くあり、一つの記事では纏めきれないので、特徴的な部分を簡単に紹介したいと思います。

SU7は新旧いいとこどりの今風デザイン

デザインについてはエクステリア全体はポルシェ・タイカン、そしてインテリアはテスラ・モデル3からインスピレーションを得ていることが分かります。実際にEVであってもタイカンはスポーツカー然とした流麗なデザインであり、外観からも走行性能が高そうに見えます。私も過去3年くらいはタイカンに乗っていたので、SU7を見た瞬間、タイカンをパクったな!と思ってしまいました笑

SU7のヒーローカラーのサイドビュー 画像:https://www.arenaev.com/
同系色のタイカン。フロントのエアテイクやボディーのシルエットが似ている 画像:Getty Images

インテリアについては、ユーザーインターフェースや自動運転技術のトップは紛れもなくテスラであり、ベンチマークし目指している将来の自動運転も視野に入れているということですから、このようなモデル3風デザインになるは当然でしょう。ただ、車の操作感を残すため、ハードボタンを残しているのはテスラと違うところです。ちなみにステアリング形状はタイカンそっくりです。

インテリアもモデルYや3に倣う 画像:https://carnewschina.com

この車を数年で完成させる脅威の開発力とスピード

以下のXでの動画を見て欲しいのですが、このレベルの車を3年程度で作ってしまう開発能力にはただ驚かされます(EV市場参入を宣言したのは2020年12月!)カード認証やスマホのワイヤレス充電、UIによるエアコンやシートヒーターの操作、カメラやアンビアントライトなどはモデル3的な機能や操作方法であり、ハンドルについた走行モードの切り替えやスポイラーはポルシェを彷彿させます。

このインテリアやデジタルの完成度はテック系自動車メーカーならではでしょう。気になる車の作りですが、量産は北京汽車集団(BAIC)傘下の企業が行うということで、ハードに関しても品質は担保できていると思われます。(BAICはメルセデス・ベンツと合弁会社を持ち北京でベンツも生産している)

また、中国の最重要バッテリー会社であるCATLXiaomiBAICとの合弁事業に参入し、バッテリーセル工場を作り、そこからSU7へのセルも供給しています。BAICはご存知の通り中国の国有企業であり、世界のバッテリーシェアNo.1のCATLと組むことによりトッププレーヤーがEV開発のために集まり、強力なスクラムを組んでいます。

CATLとシャオミの強力なパートナーシップ 画像: x.com@catl_official

今後が非常に楽しみであると同時に、業界をリードするテスラやBYDだけでなく、それ以上にまだBEVに参入できていない自動車メーカーには大変な脅威になるでしょう。

SU7は新時代テクノロジーのショーケース

年末のSU7の発表より雷軍CEOは「ポルシェやテスラに匹敵する夢の車」を作り、「世界トップ5の自動車メーカー」となることを公言しています。自動運転機能についても最先端を目指すと述べており、SU7はスマートキャビン、バッテリー、ギガキャスティング、自動運転技術などテクノロジーを満載しています。

Xiaomi Hyper OS

Hyper OSは「ヒト×クルマ×ホーム」のスマートエコシステムのために設計されたオペレーティングシステムであり、シャオミのスマホなどに搭載されています。

ちなみに、中国でのシャオミの家電分野でのシェアは高く、テレビやスマートスピーカー、ワイヤレスルーターまであらゆる機器を作っており、それらがシームレスに統合されています。ボイスコマンドひとつであらゆる機器を操作できるのも特徴です。

車はヒト×クルマ×ホームのエコシステムに 画像:Telescope望远镜

シャオミのスマホはApple Car PlayやAndroid Autoのような機能を制限されたミラーリングでなく、車内に持ち込むとそのまま、UIに表示されます。(下記の画像参照)また、そこから好きなアプリはドラッグ&ドロップで車のUI画面にも配置することができ、デジタルデバイスの統合はとても高度に進んでいます。スマホメーカーが作るとこうなるのか、、と驚くことばかりです。

車内に乗り込むとスマホ画面がそのままUIに映し出される 画像:Telescope望远镜

Xiaomi Pilot (シャオミ・パイロット)による自動運転機能

これはテスラのオートパイロット的なシャオミの自動運転機能になります。2つのグレードがあり、PROは画像ベースシステムを採用し、MAXではLIDARを使ったソリューションとなります。スマートカーのセントラルコンピュータとして使われるNVIDIA DRIVE Orinを採用していますね。

DRIVE Orinは2022年に発表されBYDやLucid Groupを顧客としています。今年に入ってからはZEEKRやXiaomiがNVIDIA DRIVE Orinを搭載した車を開発していることも発表されていました。シャオミパイロットのユーザーにるデモ動画がyoutubeなどで出始めていますが、どれくらいの精度のシステムなのかはもう少し様子を見る必要があるでしょう。

シャオミパイロット  画像:https://c.mi.com/global/

走行・加速性能

ポルシェ・タイカンを打ち負かすというだけあって走りのプロモーションにも余念はありません。以下の動画にあるように、加速性能や最高速度はピカイチです。ムービーの演出もうまいですね。

実際にベンチマークとするタイカンにも負けていないようです。タイカンはベースモデルから4輪駆動の4S、ターボ、ターボSとあるのですが、SU7 MAXはターボ並みの加速性能を誇っています。直線スピードではシャオミMAXはおそらく相当速いです。

もちろん、車は加速性能だけでなく、曲がる、止まる、そしてボディー剛性など車全体の性能が大切になってきますが、加速という部分においては従来のエンジンスポーツカーのアドバンテージは(エモーショナルなエンジン音を除いては)無くなってきたように思います。

また、ブーストモード、ドリフトモード、ローンチコントロールなども搭載しており、こんな面白そうな機能を見せられると自分でも運転してみたくなってきます。

ベンチマークするタイカンにも劣らない  画像:Xiaomi youtube

バッテリーテクノロジー

やはり、CATLとのパートナーシップを見せつけられるのがバッテリー。SU7に搭載されるのはCATL麒麟のLFPバッテリーで、航続距離、充電時間ともにエネルギー密度を世界最高水準にしたとのこと。中国の電費基準で700~810kmもの航続距離を備えて、SU7 MAXは15分の充電で510kmの走行距離を充電、SU7も15分で350kmを回復可能。

ちなみにCTB(Cell to Body)バッテリーとは、電池セルを直接車両のフレームに組み込み、スペースの無駄を大きく削減することでエネルギー密度を高める手法です。

もちろん、それら高性能バッテリーを支える独自の充電インフラもシャオミとして整備していくようで、液冷式ケーブルを使った600kW級の超急速充電ステーションを北京、上海、杭州から展開予定。この辺りがBYDやテスラと同じく、エネルギーソルーション全体の中でEVを捉えており抜かりがありません。

画像:https://www.xiaomiev.com/charge

脅威的な価格設定

以上のような最先端の特徴を持ちながら、日本円でベースモデルは約460万円、PROが約520万円、トップグレードのMAXが約640万円という破格な設定で、価格発表で会場は大いに盛り上がりました。最上級のMAXがここまで安いと逆に不安になるレベルです。(参考まで、日本でBYD Attoは450万から、モデル3は560万から、タイカンのターボは2280万〜)

中国の自動車に対する熱意が世界の自動車市場を牽引

ざっと紹介してきましたが、車に搭載されているテクノロジーは最先端かつ多岐に渡りながら低価格、さらにこの短期間で開発できたのは驚愕です。これまでスマホで培ってきたデジタル機能は従来メーカーでは追いつくのが難しいレベルであることは間違いないと思います。車自体の性能については未知数ですが、弱い部分は持ち前のスピード感で改善されていくことでしょう。

最後に雷軍CEOはSU7に対して製品が良かったら高評価、問題があったらぜひ教えてくれとも。ただ新しい車という製品を出しただけでなく、テスラやリビアンにも見られるコアなコミュニティー作りも進めていくことで成長を加速しようとしています。既にシャオミの他家電製品とサービスのエコシステムは出来ており、この辺りのマーケティングもうまく進めていけると思います。

中国の最先端テクノロジーに対する興味や熱意はすごい 画像:Getty Images

この記事を纏めながら、その搭載されるテクノロジーの高さに改めて驚くとともに、シャオミだけでなく画面から伝わってくる国全体の自動車産業に対する熱意やパッションに改めて圧倒されました。イーロンが中国メーカーを脅威に感じる理由もわかります。

テクノロジー進化や新しいプレーヤー、これまで以上に自動車業界は盛り上がっていくでしょう。それではまた次のトピックスでお会いしましょう!

TOP画像:https://www.youtube.com/@xiaomi

トピックスオーナー:前田謙一郎 
自動車業界アドバイザリー。テスラ・ポルシェなどの外資系自動車メーカーで執行役員等を経験後、2023年Undertones Consultingを設立。

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