公募投信による非上場株への投資について

2024年2月17日
全体に公開

(トップ画像出典:Getty Images)

公募投資信託に非上場株を組み入れて、日本のスタートアップにより多くのリスクマネーを供給する取り組みが報じられています。

非上場株投信、日本でも可能に 新興は資金調達しやすく
2024年2月14日、日本経済新聞

公募投信による非上場株投資

公募投資信託に非上場株を組み入れるというのは、普段はベンチャーキャピタルが運用する私募ファンドに出資できない個人投資家の小口のお金をベンチャーにも入れていくという意味で意義があると思います。

ベンチャー企業など非上場会社に投資する場合、そうした非上場株は売買が自由に行われませんし、基本的には最終的な上場やM&Aによる会社売却などのEXITイベントが起こるまで持ち続けることになります。

公募投信の特徴として、日々基準価格がついて、個人投資家は自由に毎日でもその基準価格で買ったり解約したりができることが挙げられます。

100%非上場株に投資する公募投信を作った場合、一人でも解約する個人投資家が出たならば、投資している非上場株を一部売却してキャッシュを作って解約に応じなければ本来いけないわけですが、それができません。

ですので、解約がどのぐらい来るかをある程度コンサバ目に見込んで、どのぐらいまでであれば解約請求が来ても耐えられるかを考えなければいけないわけですが、これが今回純資産総額の15%までは認めるということになったということですね。

逆に言うと残りの85%は流動性のあって市場でいつでも売買(換金)できる上場株に投資することで、解約請求リスクをマネージできるということかと思います。

公募投信の形の特徴として、投資家は出資するか解約するかの2択が与えられていて、自分が取得した出資持分を他の人に売却するという選択肢は与えられていません。ですので、上記のような解約請求に応じるためにはキャッシュを投信側で保有しておかなければいけず、あまりすぐに売れない資産には投資しにくいということにもつながるわけです。

また、公募投信では、投資家が持分を取得(出資)すると、お金が即時に投信に入ります。それゆえ、急激に出資が増えていっていくと(ファンドが急激に巨大化すると)その資金を消化(投資に回す)ことが追い付かないということもありえるわけで、投資ができずにキャッシュがたまったままですとキャッシュはリターンを生みませんのでファンドパフォーマンスは良くなりません。すぐに資金を投下できる上場株に本来向いているスキームと言えます。100%非上場株に投資する公募投信を作ると、間違いなく100%の資金をすぐに消化しきることはできませんし、本来VCは何年かにかけて投資対象を見つけて順次投資していくことが望ましいところ、1年目に全部投資するプレッシャーがあるとぱっと目の前にでてきた投資案件に飛びつくことになりかねないことも危惧されます。こうした側面からも、公募投信で非上場株の比率が多すぎることはよくないということも言えると思います。

上場VCファンド・PEファンド

欧米ですと投信の形ではなく、VCファンド、PEファンド共に上場しているものがあります。ファンドそのものを上場させ、ファンド持分を市場で自由に売買することができるようにするという仕組みがすでにあります。

非上場株にも一部投資している公募投信に投資するというと、一部は非上場株に投資しているとはいえ、それは15%だけで、残り85%は上場株に投資している投信を買うことになります。85%が上場株に投資している投信というと、その投信のリスクリターンはほとんど上場株への投資パフォーマンスで決まってしまうことになるとも言えます。それよりも、100%ベンチャーのみのリスクリターンを享受できるものに投資したいというニーズもあるでしょう。その場合には公募投信ではなく、VCファンドそのものが上場していれば実現できることになります。

また、上場ファンドですと個人投資家は出資・解約ではなく、上場しているファンド法人の持分を市場で売買するという形になりますので、解約請求をする度にファンドから資金が流出するということがなくなります。REITと同じ感じですね。

但し、上場ファンドの場合、ファンドサイズを大きくしようとすると投資家に新たな出資持分を買ってもらうエクイティオファリングを定期的に行わないといけなくなります。公募投信のメリットは、投資家が日々勝手に出資してくれればファンドサイズはどんどん大きくなりうるわけですが、上場ファンドはそうはいかないところがデメリットと言えます。

日本でも公募投信から一部非上場株に投資するという動きだけでなく、VCファンドやPEファンド自体を上場させるとい動きもでてくれば、より多様な形で個人のリスクマネーが成長投資に振り向けられるようになると言えるのではないでしょうか。

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