昭和の子育てに学ぶ、“子連れ会議”の最強ソリューション

2023年12月10日
全体に公開

2024年11月25日、この1年に各界でもっとも活躍した女性に贈られる「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2024」が発表されました。実は私も、8名の受賞者のひとりとして選出いただきました。

授賞式のスピーチでは、私が介護ロボット開発に携わるきっかけとなった祖母のエピソードをお話しました。

私は、大学4年生のときに、開発していた排泄センサーをどうしても製品化にこぎつけたくて、会社を立ち上げ、現在に至ります。その原点には、祖母の病気がありました。

当時、中学生だった私にとって、病気になった祖母との暮らしは苦しいものでした。でも祖母はもともとは明るく、たくましい”肝っ玉かあちゃん”だった人です。

祖母の後ろ姿から学んだことがたくさんあり、私自身が働く母親となった今も、支えられています。今回はそのひとつをご紹介したいと思います。

ウーマン・オブ・ザ・イヤー2024表彰式でのスピーチの様子

仕事と子育は独立させず、“ながら”を目指す

「仕事と子育てを両立する」。私はこの表現に、働く母親の一人として、違和感を覚えています。そもそも、「仕事」や「子育て」はひとりの個人の人生の中で行われていることなので、二つを独立し両立させられるほど、キレイに分割できるものではないと思うからです。

朝は「親」として、子どもたちの食事や着替えなどの「育児」を行う。子どもたちを保育園に送り届けたら、今度は「ビジネスパーソン」として仕事に集中する。就業時間を終えたら、保育園に迎えに行き、「親」に戻って、子どもたちを世話するーー。

よくある「仕事と子育ての両立」のイメージはこんな感じでしょうか。だが、現実はもっと混沌とし、きっぱりとオン/オフを分けるのは難しい。完全に分けようと思うと、仕事と子育てどちらかを諦めなくてはいけなくなってしまうのです。

私は実家がラーメン屋だったこともあって、仕事と育児が混ざりあう環境で育ちました。両親はもちろん、親代わりだった祖母も、仕込みの時間になると、幼かった私と妹を連れて店に行き、仕込み作業に加わっていました。

仕込みをしながら、私たち姉妹の食事をつくったり、逆に自宅でつくったご飯を「まかない」として持っていく。忙しそうに働く両親や祖母を眺めながら、店で過ごすのが私たち姉妹にとっては”当たり前の日常”だったのです。

ピッチコンテストに息子を連れて行った時の写真。「子ども=未来」と共に、ピッチコンテストのコンセプト「Hello, Future!」を並べたお気に入りの写真(2017年春に撮影)。この息子も今は小学生

赤ちゃん連れでも会議に参加できる最強ソリューション

子どもが小さく、保育園にまだ入れなかった頃、私はベビーカーに彼らを乗せ、どこにでも連れて行きました。それはビジネス会議も例外ではありません。

「この日は子どもを預けることが難しく、連れて行かせていただけないでしょうか」

「まだ子供が小さく、授乳しないといけないので、連れて行かせていただけないでしょうか」

こんな風に思い切って伝えてみると、快く応じていただけることがほとんどでした。「それは困る」というリアクションに遭遇することは、ほぼなかったのです。

会議当日は、私が席を外しても大丈夫なよう、abaのメンバーに同席してもらっていました。もちろん、赤ちゃんですから、ふいに泣きだすこともあります。赤ん坊が泣くのはたいていはおむつを交換してほしいか、お腹が減っているか、眠たいかの3つです。

赤ちゃんが泣き始めたら、まずおむつをチェック。「おむつではない」と分かったら、次は授乳です。すかさず「授乳ケープ」(授乳する際に、周囲から見えないよう上半身を覆えるケープ)をバッグから取りだし、授乳しながら会議に参加します。

お腹がすいて泣いていたとしても、眠かったとしても、赤ちゃんはこれで泣き止みます。空腹もおさまるし、母親にぴったりくっつくことで安心感も得られます。うまくいけば、そのまま寝てくれます。

愛用していた授乳ケープを使用している様子。息子の授乳が終わり、一息ついてスマホでメールチェックをしている。息子が、「母ちゃんこっち見ろ!!」と見つめている気がする(2017年春に撮影)

「子連れ参加は無理」の“常識”を疑ってみる

赤ちゃんを連れて会議に出ようと思ったとき、授乳は最強のソリューションになりえる。この話をすると、働くママは笑い、働くパパたちからはうらやましがられます。でも、パパもミルクをうまく活用すれば、同じような対応ができるかもしれません。

授乳の場合、デメリットがあるとすれば、会議の参加者をドギマギさせてしまう点が挙げられますが、これも「慣れ」です。お互いに慣れれば、「制限内にアジェンダを消化し、皆で次のアクションに移るためのプロセスのひとつ」として、自然に受け入れられると実感しています。

中には「子どもがいること自体、気が散るのでマナー違反」「子どもを連れてくる時点で配慮がない」と思われる場面もあります。そこは会議をする相手とのすり合わせになります。

一方、子どもと一緒に会議に参加することを受け入れてもらえる場面も少なくありません。とりわけ最近は参加者の年齢や性別にかかわらず、「子どもと一緒に会議に参加? 別に構わないと思うよ」とフラットに受け止めてもらえる場面も増えている印象があります。

介護施設さんに娘を連れて行った時のもの。この頃会議が終わると皆さんに抱っこしていただき、記念写真を撮るのが恒例になっていた(2019年冬に撮影)

「子どもがいたら参加できない」はもしかしたら、思い込みに過ぎないかもしれません。「仕事をするなら、子どもは預けて全集中すべき」は一見、もっともらしいけれど、私たちを苦しくさせる要因になっているのではないでしょうか。

思い切って、思い込みを手放したとき、どんな選択肢があるのか。その選択肢を実践したらどうなるか。

私にとって、働くママとしてのロールモデルは祖母です。令和の時代にあっても、祖母のような昭和の女性から学べることはまだまだたくさんあるはずです。温故知新の考えを持って、より昔の女性たちの働き方から学び、実際に試してみることによって、その価値を検証していきたいとも思っています。

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