大型犬の寿命を延ばす薬
大型犬は小型犬よりも寿命が短いということが一般的に言われています。グレートデーンのような大型犬の平均寿命は7〜10年ですが、チワワのような小型犬は14〜16年生きます。したがって、大型犬を飼うと、飼い主との別れは早く訪れることになります。
通常、哺乳類はサイズが大きいほど、その寿命は長くなります。マウスは 2~3年の寿命ですが、ゾウは60年以上生きることもあります。このことから、大型犬の寿命が短いのは、何らかの「老化加速障害」の可能性があるという仮説があります。
サンフランシスコ・ベイエリアで2019年に設立されたLoyalは、この仮説のもとに、大型犬の寿命を延ばす薬を開発しています。この11月28日に、Loyalの「LOY-001」というプログラムで大型犬の寿命延長に対する有効性を裏付けるための調査を開始することに米国FDA獣医学センターが同意し、Loyalが報道発表しています。
このニュースについては、多くの報道が行われています。
https://www.nytimes.com/2023/11/28/science/longevity-drugs-dogs.html
https://www.wired.com/story/a-life-extension-drug-for-big-dogs-is-getting-closer-to-reality/
https://www.businessinsider.com/longevity-drug-for-dogs-moves-closer-to-fda-approval-loyal-2023-11
Loyalの仮説によると、大型犬では、体の大きさを追求してブリードしたため、細胞増殖と体の成長を促進するホルモンであるIGF-1のレベルが異常に上昇したといいます。高いレベルのIGF-1は、犬が若いうちには体が大きく成長するのに有効ですが、成犬になると高いIGF-1レベルは老化を促進し寿命を縮めるとしています。したがって、このIGF-1の効果を抑制すれば、寿命が長くなるのではないか、ということです。
IGF-1は、最もよく研究されてきている長寿パスウェイの1つです。線虫からマウスまでのモデル生物では、IGF-1が減少すると寿命が延長され、IGF-1が増加すると寿命が短縮されます。
Loyalの「LOY-001」は、獣医師によって 3~6か月ごとに投与されるように設計された注射です。 2024年か2025年に大規模な研究を計画しており、7歳以上の大型犬や超大型犬約1,000匹を登録する予定であるとのこと。また、Crinetics社との提携を通じて、同じ IGF-1過剰発現に対処する錠剤であるLOY-003も開発しています。
これまでのLoyalの初期の研究では、130頭のイヌに治験薬を投与し、大型犬のIGF-1レベルを中型犬に見られるレベルまで低下させることができたとしています。
Loyalの創設者でありCEOであるCeline Halioua氏は、2026年までに薬を市場に出すことを目指していると述べています。そのためには、注射剤が安全であり、その薬が確実に製造できることを、ヒト用医薬品と動物用医薬品の両方を規制するFDAに証明する必要があります。LOY-001の場合、病気ではない健康なイヌに投与して効果を観察するというところに特徴があります。
一方で、IGF-1は、犬のサイズと寿命に関連すると考えられる要因の1つにすぎないとの見方もあります。この9月には、がん関連死亡率が最大65%に達するゴールデンレトリバーでは、上皮成長因子受容体ファミリーの唯一のメンバーであるERBB4との有意な関連が指摘されています。
寿命を延ばすということが、生物学的にどういうことなのか、例えばアンチエイジングと同義なのか、病気に耐性となることなのか、あるいは行動の変化など深い要因があるのか、それは単純な問いかけでないと思われます。これまで、FDAが、動物、さらに言えばヒトの寿命を延ばすとする薬を承認したことはないということです。このようなアプローチが、ヒトの寿命を延ばす薬の開発につながっていくかもしれません。
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