献血血液をO型に変換する腸内細菌の糖鎖分解酵素

2024年5月3日
全体に公開

輸血で命に関わる事故を防ぐためには、ドナーの赤血球(RBC)とレシピエントの血液型を一致させる必要がありますが、献血血液からどんな血液型の人にも輸血できる血液を作る方法は、これまでも検討されてきました。

ABOシステムが、赤血球表面上の糖脂質および N-糖タンパク質の糖鎖構造により、A、B、および H抗原が定義されるのは教科書的な記述です。原理的には、A抗原やB抗原の糖鎖構造をO型(H抗原)に変換できれば、輸血用血液の種類を減らせるだけでなく、ABO型不適合輸血を防ぐこともできるはずです。

A型やB型の赤血球からABOユニバーサルグループO (ABO-universal group O) への酵素的変換(Enzyme Conversion to group O (ECO) blood) は、1982年にコーヒー豆α-ガラクトシダーゼを使用してB抗原をH抗原に変換することで初めて行われました。2019年になると、ヒト腸内微生物叢ライブラリーのマイニングにより、A抗原変換のためのα-ガラクトサミニダーゼシステムが同定されました。

しかしながら、実際のA抗原やB抗原は、このような「標準的」なものだけでなく、更なる糖付加によって複雑になっており、これらの処理だけでは完全に処理できず、輸血後の血液型不適合反応を引き起こす原因と考えられています。つまり、A型(グループA)といっても、更に糖が付加されているケースもあり、それもA抗原になっているようです。 例えば、Gal-A抗原(ガラクトース付加)、H type 3抗原(フコース付加)、A type 3抗原(Nアセチルガラクトサミン付加)です(下図)。B抗原も、Nアセチルガラクトサミンが付いてExtBと呼ばれる構造に変換されることがあります。このような「拡張型」の構造があった場合、前述の糖鎖除去だけではH抗原に変換することができません。

https://doi.org/10.1038/s41564-024-01663-4

そんななか、デンマークとスウェーデンのチームが、Akkermansia muciniphilaという腸内細菌が持つ酵素を調べ、標準的および拡張型のA抗原、B抗原を効率的にO型に変換できる酵素の組み合わせを見つけ、4月29日のNature Microbiology誌に報告しています。

Jensen, M.et al. (2024) Akkermansia muciniphila exoglycosidases target extended blood group antigens to generate ABO-universal blood. Nat Microbiol

Akkermansia muciniphilaはVerrucomicrobia門のグラム陰性の嫌気性細菌です。2004年にヒトの糞便から分離され、新菌属Akkermansiaとして提案されました。腸管細胞から分泌されるムチン(粘液糖タンパク質)を炭素・窒素源として利用するため、A. muciniphila (mucin-loving)と命名されています。

チームは、Akkermansia muciniphilaから23個のグリコシルヒドロラーゼを生化学的に評価し、標準的なA抗原、B抗原とそれらからの拡張型の糖付加を効率的に除去するエキソグリコシダーゼの組み合わせを同定しました。 赤血球上の標準的および拡張型ABO抗原を酵素的に除去すると、A抗原またはB抗原のみの変換と比較して、O型血漿との適合性が大幅に向上しました。つまり、一つの反応液中で、これらの酵素をブレンドすることで、どんな血液型の人にも輸血できる血液が作製できるということになります。

現時点では、これらのAkkermansia muciniphilaの酵素はB型の血液を変換するのに特に優れているようですが、この技術はA型に対してあまり有効ではないようです。それでも、このような腸内細菌叢から更なるヒト複合糖質の分解酵素が発見できる可能性について希望が持てるものになっています。

合成生物学は新たな産業革命の鍵となるか?」担当:山形方人

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