【合成生物学ナビ】プラスチック

2023年12月2日
全体に公開

プラスチックは日常生活や産業に欠かせないものですが、生態系や人間の健康への影響への懸念から、日常生活でももっとも身近に感じる廃棄の問題だと思います。このような背景から、合成生物学が適用できる対象として話題となることも多いです。しかし、何が本当の問題なのか、理解していないと、役立たない研究に大きな時間を費やしてしまうと思います。

11月29日のNature Microbiology誌に、韓国のKAISTのグループによる「Sustainable production and degradation of plastics using microbes(微生物によるプラスチックの持続可能な生産と分解)」という総説が発表されています。この総説を担当しているのは、Sang Yup Lee(이상엽)博士のグループです。Sang Yup Lee博士は、米国科学アカデミー会員、The Korean Society for Biotechnology and Bioengineering(KSBB)の会長であり、韓国を代表する科学研究機関の一つであるKAISTの運営にも関わってきた科学者の一人です。

バイオプラスチックの生産と生分解性プラスチックについて網羅的に説明されていますので読んでみました。

Choi, S.Y. et al. (2023) Sustainable production and degradation of plastics using microbes. Nat Microbiol 8, 2253–2276. https://doi.org/10.1038/s41564-023-01529-1

微生物バイオテクノロジーは、プラスチックの生産と廃棄物管理への持続可能なルートを提供します。 細菌や菌類は、作物、農業残渣、木材、有機廃棄物などの再生可能なバイオマスからプラスチックとその構成モノマーを生成します。 細菌も菌類もプラスチックを分解する可能性があります。

以下、最後のOutlookの部分から、何が課題と考えているのか、考えてみたいと思います。

バイオプラスチックの生産は進歩しているものの、高い生産コストや食糧資源をめぐる競争など、いくつかの課題が残っています。例えば、化石石油ベースのPEとPETの価格は1kgあたり約1.2~1.6米ドルであるのに対し、バイオベースのPE、PLA、PHAの価格はそれぞれ1.8~2.4米ドル、2~3米ドル、3~8米ドルです。このような問題に対処するため、生産性能、生産性、収率、製品特異性を向上させる微生物株とバイオプロセスの最適化に重点を置きながら、第二世代・第三世代バイオマスへの移行を含め、より費用対効果の高い持続可能な原料を利用する様々な戦略が追求されてきました。
生分解性に関しては、生分解性プラスチックが環境に有益であることを証明することが急務となっています。 大きな課題の1つは、現在の廃棄物管理システムと生分解性プラスチックとの互換性がないことにあります。 これは、リサイクルの流れが従来のプラスチックで汚染され、全体の効率が低下する可能性があることを意味します。
従来のプラスチックをバイオプラスチックに置き換えることで、CO2 排出量を CO2 換算で 2 億 4,100 ~ 3 億 1,600 万トン削減できる可能性があります。バイオプラスチックは、原料飼育による酸性化や富栄養化の進行など、環境に悪影響を与える可能性があることを認識することが重要です。 したがって、バイオプラスチックの利点を十分に実現し、最適なシナリオを作成するには、バイオマス抽出技術の改良が不可欠です。
https://doi.org/10.1038/s41564-023-01529-1

日本の大学や企業が出している様々な情報を見ていると、メリットの部分だけを強調するものが多く、何が課題であるのか、指摘しているところはほとんどありません。未来技術の課題に目を向け、そこを支援することが、合成生物学を含めた新しい研究のきっかけになるものと思われます。

合成生物学は新たな産業革命の鍵となるか?」担当:山形方人

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