ツイートはなぜ大炎上したのか?”合理的な評価”に隠れたバイアスとは

2023年7月31日
全体に公開

 今回は少し志向を変えて、みなさんにもぜひ考えていただけるようなテーマを取り上げたいと思います。

 実は、昨年12月、私がTwitter(X)に投稿した内容が大炎上したことがありました。 投稿は以下の内容でした。

2022年12月19日に筆者がTwitter(X)に投稿した内容。現在は削除済み

 このツイートは、世の中がこれを言ったらどんな反応をするのだろうか、と半分試してみたい気持ちもあって投稿した節もあったのですが、想像を遥かに超えて、実によく炎上しました(苦笑)

●昇進できなかったのは単純にあなたの能力の問題じゃないの?男女の問題に論点をすり替えている
●休みを2年以上取っていて、普通の人と同じ評価をしろ、というのが贅沢すぎる

●この評価を当たり前だ、と言っている人は子持ちの家庭で普通に育児をしながら働く人が評価されないのは当然だ、ということ?だから少子化になるのでは?

一部ツイートのコメントを引用

 私が所属していた企業の知名度が高かったこともあり、多くの意見がこのツイートに寄せられました。そして、その大半は、そんなの贅沢だ、男女関係ない、能力の問題だ、という意見でした。

 私がこのツイートで本当に世の中に提示したかったこと。それはもちろん、私が評価されなかったことへの憤りや、所属していた企業に対する不満ではありません。

 多くの企業では、女性管理職を増やすにあたって、このツイートで書いたようなことに直面し、その葛藤の渦中にいるはずです。なぜなら、まだまだ企業のマジョリティーは、まさにこのツイートが炎上したように「フルタイムで働いている人と時短や産休育休で休んでいる人を平等に評価するなんておかしい」という、価値観が根底にあるからです。そして、何よりそれを判断し評価する人たちもまた、このマジョリティーの価値観の中で昇進してきた人たちだからこそ、これまでの自分たちの価値観を否定できない。このねじれこそが、女性管理職を増やす上で、遅々として日本が進まない一番の原因だと、私は考えています。

みなさんならどう評価しますか?

 それでは、実際にみなさんなら、私のようなキャリアを歩んだ女性をどのように評価しますか?

 私は、新卒で入社した会社で、入社4年目の2010年の5月に1人目の産休に入りました。そこから保育園に入れなかったこともあり、1年3ヶ月の育休を経て復職。1年1ヵ月働いた後に、2人目の出産で2013年1月に産休。9ヶ月の育休を経て、2013年9月に復職しました。1人目と2人目の間の1年1ヵ月と、2人目復職後の約1年半は、6~7時間の時短勤務でした。フルタイムに戻ったのは、第一子の産休から約5年後の、2015年4月ごろだったのではないかと記憶しています。

 私のような女性は、決して企業の中でレアなキャリアではありません。たぶん多くの企業で、20代後半で出産をし、会社の育休産休制度を活用して復職している女性は、みなさん私のようなキャリアをたどっているはずです。

筆者のキャリアを参考に入社12年目の女性の事例を作成

 では、上記のようなキャリアを歩んできた女性が、例えば第一子の出産から8年経った入社12年目のとき、管理職相当のスキルが身に就いていたとしましょう。女性管理職比率を上げることを会社から求められる中で、彼女は一番の有力候補です。一方で、まだ入社6年目ではありますが、昼夜問わず働く独身男性も同等のスキルがあります。彼も、この女性と同じように新卒でこの会社に入社し、これまでの出世ルートに乗った理想的なキャリアを歩んでいます。2人のうちどちらかを昇進させるとしたら、あなたはどちらを選ぶのでしょうか?

”合理的な評価”の中に存在するバイアス

Adobe stockより

 これまでの判断基準を尊重するのであれば、当然のことながら、入社6年目の独身男性を選ぶでしょう。彼は通常の昇進ルートにしっかりと乗っているので、昇進させることに批判は出ないでしょう。しかし、女性管理職を増やすということを優先して、女性を選んだ場合はどうでしょうか?彼女はこれまでの昇進ルートとは大きく異なります。育休や時短の影響で、昇進させる年齢も通常のルートよりだいぶ遅れています。そうなると、本当にスキルがあるのか、子育てとの両立は大丈夫なのか、リーダーシップを発揮できるのか、下駄を履かせているのではないか、そうした意見が周囲から出るかもしれません。この時点で既に、このようなキャリアを持つ人を昇進させた前例がないため、昇進にあたり周囲の反対を受けやすい、という障壁にぶつかるわけです。

 また、この女性を選べば、評価されないことに不満を持った将来有望な男性社員が退職してしまうリスクもあります。一方で女性はどうでしょうか。仮に昇進できなくても、転職しないであろうことが想像できますよね。子育てをしながら働く女性は、転職にもハードルがあるため、仮にここで昇進させなくても、企業の中でこれまで通り不満もなく一生懸命仕事をしてくれるかもしれません。

 そうなると、ますます、彼女を選ばないことが企業としては、合理的な評価のように思えてくるのではないでしょうか?

 では、仮にこの優秀な若手が”男性”ではなく”女性”だったらどうでしょうか?しかも、彼女は結婚したばかりで、これから子どもも欲しいと言っています。今はバリバリ働ける彼女も、もしかしたら管理職になったタイミングで産休に入ると言うかもしれません。そうなると、この若手の女性より、既に子育てが一段落して昇進できる段階にある入社12年目の女性の方が、安定して管理職を任せられるように思えます。男性が昇進において、そのプライベートの事情が一切考慮されない一方で、女性が昇進となると、結婚しているのか、出産は考えているのか、子どもはいるのか、といったあらゆるプライベートの事情がその判断のバイアスになっている可能性は捨てきれません。

 しかし、これからの時代、この男性社員も例外とは言えません。これまで昼夜問わず働いてきた男性が、子どもが生まれたことをきっかけに、育休と時短を取りたい、と言い出したらどうでしょうか?「自分も子育てには積極的に関わりたいので、育休を3ヶ月取りたいです。もちろん妻も共働きで、将来自分と同じように管理職も目指したいと言っているので、彼女のキャリアのためにも、子どもが2歳になるまでは1年間、自分も時短勤務を検討しています」と。会社の制度としては、男性育休も、時短も取得可能です。もし彼がそんなことを考えていたら、この男性は管理職候補にならないのでしょうか?

「前例」からはイノベーションは生まれない

 この議論の中には様々な問題が隠れていますが、女性管理職を増やせない大きな要因の一つとして、「前例」にはない新たな選択肢を創り出すことができないというハードルがあるように感じます。これまで、管理職になった人が歩んできたキャリアが一つの前例となり、そうではないルートからの昇進ルートは前例がないがゆえに、新しい事例を作ることができない。それが結果的に、経営ボードにおける多様性の欠如を生み出し、イノベーションを起こせないボトルネックになっている、ということです。これは何も女性管理職比率の問題だけに限定した課題ではないのではないはずです。過去の成功事例への依存と新たな選択による失敗を恐れるがゆえに、新しい決断に踏み切れない。女性管理職の問題も、まさにその課題に直面しているように思えます。

Adobe stoackより

”新しい価値のヒント”はマイノリティが持っている

 そしてもう一つ重要なことは、前例がない人のスキルは、前例がないゆえに可視化されていない、ということです。例えば、先ほどの12年目の女性と6年目の男性を比べた時に、これまでの前例のスキル評価では同じスキルがあると見なされます。しかし一方で、12年間、この会社で働き方を変えながら勤務してきた女性には、6年目の男性では気づけないような視点や、スキルを身に着けている可能性もあるはずです。

 時短勤務中に、業務量の調整という名目で、今まで正社員がしてこなかったような雑務を担当していることもあります。しかし、その結果、生産性が低い事務作業があることに気づいたり、コスト削減や業務効率化を進める重要なヒントを得ていたかもしれません。また時短勤務で成果を出すために、業務フローを本人が工夫してきたこともあるはずです。そういった経験を活かせば、企業の業務効率化やDX推進における重要な役割を果たせる可能性もあります。

 しかし、こうした隠れたスキルは、これまでの評価では、表出することができず見過ごされていることがほとんどではないでしょうか。なぜなら、通常のルートを歩んできたマジョリティには、自分がマイノリティになる経験がない限り、そもそもその視点に気づく機会がないからです。自分たちのこれまでの価値観を見直す、ということ以前に気づくことができない。それは能力の問題ではなく、経験から生まれる視点の違いだからこそ、まさに多様性、ダイバーシティーが重要になる背景にもなります。通常の昇進のルートではない、マイノリティだからこそ、新しい評価軸や価値観を創り出すヒントを持っているのではないでしょうか?

 この議論に正解はないので、私自身、明確な答えがあるわけではありません。しかし、こうした今まで触れられてこなかったことに、一つずつ向き合い、新しい評価軸や価値観を生み出していくことでしか、変えていくことはできないようにも思えます。

 みなさんは、このテーマについてどう考えますか?ぜひご意見をコメントなどでもいただけると嬉しいです!

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