新規事業でもっとも重要なスキルを、いかに伝承するか

2022年4月13日
全体に公開

こんにちは!

前回の記事への、いいねやコメントありがとうございます!はげみになります!

フォローしていただける方限定にしてみたのですが、それでも50を超えるいいねをいただき、とてもうれしかったです!

このトピックスは、「組織と経営のデザイン」を取り扱います。「新規事業をつくり続ける組織のデザイン」がその中心テーマです。

第2回は、「代理経験による成功の再生産」のメカニズムを、「なぜ、東大合格者を出す高校はかたよるのか?」という質問に答えていくことを通して書きました。

新規事業を成功させるには、「自分はこの事業を成功させることができる」と信じ続けることができる「自己効力感」が必要で、それを高める1つとして、「自分と同じ様な人が、少し先の成功を成し遂げたことを身近で体験する」、という代理経験があります。

新規事業を乗り越えるための2つのポイント、

1. 新規事業創出のハードさを乗り越えるための、自己効力感
2. 新規事業創出の成功確度を上げるための、暗黙知の伝承

の1番目について前回書いたので、今回は2番目について書いていきます。ポイントはSECIモデルによる「共同化」です。

暗黙知と形式知

知識には、「形式知」と「暗黙知」の2種類があります。

形式知は、客観的で、明確に言語化され、他者と容易に共有可能なもの。書籍、マニュアル、アルゴリズムなどで表現され、多くの人が同じ様に理解できます。

暗黙知は、主観的で、体系的な言語化が難しく、他者と容易に共有できないもの。そもそも、特定の暗黙知を持っている本人自身がそのことに自覚的でなかったり、自覚的であっても、体系的に説明できないものを指します。例えば、刀鍛冶などの職人の専門的な知識・スキルがそれに該当するでしょう。

新規事業に必要な知識はどちらに該当するでしょうか?

もちろん、言語化され、共有されている知識もあります。色んな方が新規事業や起業についての本を書かれています。その中には、Eric LeaseのThe Lean Startupの様に、一定、型化、形式知化されているものもあります。

ただ、新規事業や起業はその複雑性から、形式知化できることはとても少ない。この分野の本も、客観的な記述と言うよりは主観を多く含んだものが多い。すなわち、新規事業を成功させる知識の多くは「暗黙知」であると思います。

シリアルアントレプレナー(連続で事業を立ち上げる起業家)の成功確度が高い理由は、この暗黙知の連続的な獲得にあるのではないでしょうか。

暗黙知と形式知の相互作用による、知識創造プロセスを描いたものがSECIモデルです。野中郁次郎さんと竹内弘高さんによって提示された世界的に有名なモデルで、彼らが執筆したThe Knowledge Creating Company(日本語の訳本は「知識創造企業」)で説明されています。

SECIモデルによると、知識創造のパターンは上の画像の4つに分類されます。

1. 共同化:暗黙知から、新たに暗黙知を得るプロセス
2. 表出化:暗黙知から、新たに形式知を得るプロセス
3. 連結化:形式知から、新たに形式知を得るプロセス
4. 内面化:形式知から、新たに暗黙知を得るプロセス

詳しい解説は、上述の本や野中さんが書かれた新書(「知識経営のすすめ」という本は読みやすいです)などを読んでいただければと思いますが、ここで注目したいのは「共同化」です。

暗黙知から、新たに暗黙知を得るには、身体、五感を駆使し、直接経験を共有する「共同化」が必要。

刀鍛冶の暗黙知のスキルを習得するには、高名な刀鍛冶に弟子入りし、その方の鍛冶作業を観察し、一緒にやってみることによって、徐々にそのスキルを受け継ぐ。それが、暗黙知から、新たに暗黙知を得る「共同化」です。

私の例。新規事業における日々の意思決定

私の主観ですが、新規事業で最も重要でかつ困難なことは「意思決定」です。

新規事業は困難の連続であり、予測不可能なことの連続です。シナリオ通りに進むことはほぼない。そして、短期間で成果を出して投資を正当化する必要があり、時間の猶予はない。この中で、日々、スピーディな意思決定を重ね、行動量の多さにつなげていかなくてはならない。

私自身が初めて新規事業に取り組んだ時、意思決定において、意識的にも、無意識的にも参考にしてきたのは、ユーザベースの創業者である梅田のNewsPicks立ち上げ時の意思決定です。

私がユーザベースに入ったのは2013年の頭、NewsPicksの立ち上げが本格化したのは2013年の夏頃からだったと記憶しています。梅田と私は隣の席であり、ほとんどユーザーがいない時からNewsPicksの記事にコメントしたり、コメントする有識者をともに探したり、SPEEDAと連携したコンテンツ企画をやったりしてきました。

NewsPicksの立ち上げにわずかながら関わり、そこで梅田さんの意思決定を体験し、観察してきたことで、連続的に新規事業を立ち上げている梅田さんの暗黙知が一部私に移転したのだと思います。「共同化」ですね。

「顧客の反応が想定より大きく悪い。開発してきたメンバーもへこんでいる。梅田さんだったらここでどうするだろう?」

「ただでさえ人が足りないのに、コアメンバーが辞めてしまった。梅田さんだったらここでどうするだろう?」

その後、私もいくつも新規事業を立ち上げてきたので、「今」の困難な状況には、「昔」の自分の経験からの引き出しがありますが、それがなかった時は、NewsPicks立ち上げ時における梅田さんの行動を振り返り、「梅田さんだったらどうするか」をひたすら考え、できるだけスピーディに意思決定し、行動量を増やしていた様に思います。

ユーザベース創業者 左から稲垣、梅田、新野(写真:INITIAL)

共同化=代理経験

前回の記事を読まれた方は気づかれたかと思いますが、このSECIモデルにおける「共同化」と社会認知論における「代理経験」はとてもよく似ています

実際、上に書いた「梅田さんだったらどうするか」という自問自答は、新規事業のハードな壁を乗り越えるための自己効力感を得る、代理経験を反芻するプロセスであるとも捉えられます。

実際、かなりつらいことがあっても、「NewsPicksの立ち上げの時に、梅田さんも同じようなことに直面していたな。であれば、何とかなるだろう」と思い出して乗り越えていたように思います。

NewsPicksの立ち上げに参加したことは、私にとって、NewsPicks立ち上げの代理経験でもあり、NewsPicks立ち上げの共同化でもある。

新規事業を乗り越えるための2つのポイント、

1. 新規事業創出のハードさを乗り越えるための、自己効力感
2. 新規事業創出の成功確度を上げるための、暗黙知の伝承

この2つを得るためには、新規事業の参加者、特にそのリーダーが、別の新規事業において「共同化=代理経験」を得ておけば良い。

「新規事業の成功を再生産」し、「新規事業をつくりつづける組織」をつくるためには、既存事業で結果を出した方を新規事業のリーダーに任命するのではなく、ある新規事業のメンバーが、次の新規事業のリーダーになる新規事業同士の循環をデザインすれば良い。

これが、抽象度は高いですが、「新規事業をつくりつづける組織のデザイン」の私の現在の解答の中核にある考えです。これは語弊も多い表現なので、今後もう少し詳しく書きますね。

次回は、もう少しこの内容を具体化して書くか、SECIモデルはとても応用範囲が広い考え方なので、その別の応用について書くか、どちらかを書こうかと考えています。

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