高血圧は無視できないリスク!今すぐ知っておくべきこと

2024年5月13日
全体に公開

そもそも「高血圧」とは何か?

まずは、そもそも「高血圧」とはというところから考えていきましょう。

高血圧治療ガイドライン によると、高血圧は、日本では収縮期血圧 140mmHg、拡張期血圧90mmHg以上と定義されています。逆に、120/80mmHg未満であれば血圧は正常であるとされています。収縮期血圧というのは、心臓が収縮している時の値で、低い方の拡張期血圧は、心臓の筋肉が緩み広がっている時の血圧を表します。よく「上の血圧」「下の血圧」と言われているのを耳にしますが、前者が収縮期血圧、後者が拡張期血圧です。これらの値はヨーロッパのいくつかの学会でも同様ですが、例えば米国では130/80mmHg以上と定義する(1)など、少し国によっても違いがあります。他にも実は様々な基準がありますが、数字がありすぎると混乱してしまいますので、ここでは冒頭で紹介した日本の基準だけまず頭に入れておきましょう。

著者作成

前回の健康診断の結果はいかがだったでしょうか?なお、この間の数字の場合には、「ボーダーラインにいる」というような捉え方で良いと思います。

正しい血圧の測り方とは?

では、血圧はどんなタイミングで測定すれば良いでしょうか。

おそらく多くの方が毎年の健康診断で血圧測定を受けていらっしゃることと思います。1年に1度は健康診断などで血圧を測定していただくことが推奨されますので、そこで正常血圧を確認できていれば、ひとまずそれで十分です。

一方、その測定で異常を指摘された方やすでに治療中の方は注意が必要で、自宅での血圧測定をお勧めします。

血圧は家庭用の自動血圧測定器で構いません。上腕用、手首用など様々なタイプがありますが、心臓のより近くにある上腕で測定するタイプのものを使うと、より正確に測定が可能です。

測定は、興奮している時や動き回っている時、例えば家事を終えてすぐのタイミングではいけません。人の血圧というのは、常に変動をし続けています。動き回っている間やその直後は、血圧は上がります。これは、全身で血液を必要としている時であり、然るべくして血圧を「上げている」時なので上がっていても正常です。

あるいは、頭痛がひどい時に血圧を測って、血圧が高いことを確認し、「血圧が高いから頭痛がひどい」とおっしゃる方もいますが、多くの場合は逆です。痛みがある時にも血圧は高くなります。頭痛の原因は別にあることがほとんどです。

一方、「高血圧かどうか」を評価する時の「血圧」というのは、安静時の血圧です。「ジョギングをしてきてすぐに血圧を測ったらとても高かったのだがどうすれば良いか」と相談を受けることもありますが、その場合には、自宅で安静にして再度測定し直してみてください。

適切なタイミングは、朝起きてしばらくの間や夜寝る前など、活動度が下がっているタイミングです。椅子などに腰掛け、1〜2分体の力を抜いてリラックスしてから測定をします。その上で、タイミングを変えて何度か測定し、140/90mmHgを平均的に超えてくるようであれば、高血圧である可能性が極めて高いと言えます。

Gettyimagesより

高血圧はなぜ起こるのか?

高血圧は多くの場合、「本態性高血圧」と呼ばれ、原因が明らかではありません。日々の生活習慣の積み重ねや遺伝的な背景を受けて発症します。「あれを食べていたからいけなかった」と特定の生活習慣を原因と考えて納得される方がいらっしゃいますが、それは多くの場合誤解です。

一方、特定の原因が見つかる場合もあり、これを「二次性高血圧」と呼んでいます。ただし、高血圧患者さん全体の1割程度と言われており、頻度は比較的低くなります。

身近な例として、生理痛や頭痛に使われるNSAIDsと呼ばれる痛み止めが原因となることがあります。これを常用されている方は注意が必要で、この薬で高血圧を発症する可能性があります。もう一つ日本人にとって身近な例は、漢方薬です。多くの漢方薬には「甘草」と呼ばれる成分が含まれますが、この「甘草」の入った漢方薬で高血圧を発症することもあります。

私自身、患者さんのお薬手帳に漢方薬を見つけ、漢方薬をやめていただいただけで血圧が回復したケースを何回か経験しています。

このように、まずは自分の足もとを見直してみることも大切です。薬の調整には、医師のアドバイスが必要なことも多くありますので、そのような心配があれば、ぜひかかりつけの医師にご相談ください。

Gettyimagesより

それ以外に比較的多い原因として、「睡眠時無呼吸症候群」と呼ばれる病気も挙げられます。これは、読んで字のごとくですが、睡眠中に呼吸が止まってしまい、睡眠の質が落ちることで日中の眠気に繋がってしまったり、無呼吸の影響で心臓に負担がかかったりする病気です。

夜中にいびきをかくことが多い、苦しくて夜中に目を覚ますことがある、家族から呼吸が止まっているのを指摘された、日中の眠気が強い、などが該当する場合には、この病気の可能性があります。

その他にもいくつもの高血圧の原因が挙げられますが、いずれの病気においても、病院での診察、血液検査などを行うことで原因を特定することが可能です。高血圧を指摘されたら、病院を受診していただき、診察を受けていただくことが大切です。

なお、高血圧の検査や治療は一般的な内科クリニックならどこでも概ね可能です。お近くの内科をお尋ねください。

血圧が高いと何がいけないのか?

それでは、一体なぜ血圧を気にし、治療をしなければいけないのでしょうか。高血圧の治療薬を始める際、「数字が大きいだけで、症状もないし、体調も何も困っていないのだから治療を受ける必要はないのではないか」というご質問を受けることもあります。これは、大きな誤解です。

実際、血圧の高い、低いで症状が出ることはほとんどありません。多くの場合、「血圧のせいで◯◯の症状が出た」とおっしゃっている方には、何か別の原因があります。それでは尚更、血圧を治療する意味が見えにくくなってしまうかもしれません。

実は、高血圧を放っておいても、しっかり治療をしても「今のあなた」にはあまり影響はありません。しかし、こちらをご覧ください。

Lewington S, Clarke R, Qizilbash N, et al. Age-specific relevance of usual blood pressure to vascular mortality: a meta-analysis of individual data for one million adults in 61 prospective studies. Lancet 2002; 360:1903.より

このグラフは、あなたが今、どんな年齢であっても、血圧が高ければ高いほど、心筋梗塞で命を落とすリスクが高くなるということを示しています。縦軸が心筋梗塞で死亡するリスク、横軸が血圧を示しています。横軸の血圧が高くなればなるほど、縦軸の死亡リスクが上昇していて、綺麗に比例しているのが見てとれますよね。もう一つ、脳梗塞との関係を示したグラフもお示しします。

Lewington S, Clarke R, Qizilbash N, et al. Age-specific relevance of usual blood pressure to vascular mortality: a meta-analysis of individual data for one million adults in 61 prospective studies. Lancet 2002; 360:1903.より

 脳梗塞のリスクも、やはり血圧が高ければ高いほど上昇するということが分かります。

このように、高血圧を確認し、治療するのは、「将来」脳梗塞や心筋梗塞になって命を奪われたり、寝たきりになってしまったり、血圧の治療以上にたくさんの治療を受けなければならないような生活を「未然に」予防するため、そんな大きな意味があります。

例えば、何かの資格試験勉強をしたり、仕事でコツコツ頑張ったりすることも、頑張って子育てすることも、もちろん楽しい側面もあるかもしれませんが、今の自分にとっては「辛いだけ」と感じることもあるかもしれません。それでも頑張れるのは、「未来への投資」という側面があるからだと思います。高血圧を評価し、治療することにも、同じように「健康面の未来への投資」という意味があります。大切な食器や楽器、スポーツ用品なども手入れをしながら丁寧に使うのと同様です。

だからこそ、「今がよければそれで良い」ではないのです。

予防法

これまで高血圧についてみてきましたが、心筋梗塞や脳梗塞といった重大な病気につながるこの高血圧、一体どうやって予防をしていけば良いでしょうか。

ここに幾つかの方法をご紹介したいと思います。

  1. 減塩(6g/日)
  2. 野菜・果物の摂取
  3. 体重の減量
  4. 有酸素運動
  5. 節酒
  6. 禁煙

実際、これらの方法を行うことで、最大4-5mmHg程度血圧を下げる効果があると報告されています(2)。また、これらを複数重ねることで血圧を下げることができるだけでなく、予防にもつながることが知られています。これらをやりすぎることで、血圧を下げすぎてしまうと心配される方もいらっしゃいますが、そんなことはありませんので、ぜひ一つでも二つでも、できそうなことからやってみてください。

一方、収縮期血圧が160mmHgもある方にとっては、こういった生活習慣改善だけではなかなか血圧治療は厳しいと考えられます。本格的に高血圧と診断された場合には、治療薬が必要になります。

また、”Dietary Approaches to Stop Hypertension”(高血圧を止めるための食事のアプローチ)の略で、DASHダイエットと呼ばれる食事法が高血圧に有効なことも知られています。これは、肉やお菓子、甘いもの、塩分のバランスを減らし、果物、野菜、豆のバランスを増やすという食事法です。この食事法は、血圧を最大10mmHgほども下げる効果があると報告されています(3)。

この他にも、「血圧を下げる」と銘打たれたサプリメントや飲み物、食べ物の販売もありますが、その大半は科学的根拠が不明確で、血圧を本当に下げてくれるかはわからないものです。何かサプリメントをとっていれば大丈夫と迷信するのではなく、いわゆる王道の健康的な生活を、一つずつ地道にやっていくことが高血圧の改善、予防につながるのです。

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参考文献

1         Whelton PK, Carey RM, Aronow WS, et al. 2017 Guideline for the Prevention, Detection, Evaluation, and Management of High Blood Pressure in Adults A Report of the American College of Cardiology / American Heart Association T. 2017 DOI:10.1161/HYP.0000000000000065/-/DC1.The.

2         Whelton PK, Appel LJ, Espeland MA, et al. Sodium reduction and weight loss in the treatment of hypertension in older persons: A randomized controlled trial of nonpharmacologic interventions in the elderly (TONE). J Am Med Assoc 1998. DOI:10.1001/jama.279.11.839.

3         Appel LJ, Moore TJ, Obarzanek E, et al. A clinical trial of the effects of dietary patterns on blood pressure. N Engl J Med 1997. DOI:10.1056/NEJM199704173361601.

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