加齢とともに起こる健康問題とその予防を考える

2024年4月22日
全体に公開

皆さんは未来の自分の健康のことを考えることはあるでしょうか。もしかすると、目の前の仕事や子育て、友人との予定でいっぱいで、あまり考える暇がない方もいらっしゃるかもしれません。あるいは時間があっても、頭の中は現在の人間関係や経済状況などでいっぱいでそれどころではないという方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、立ち止まって将来のことを考えてみる時間というのも悪くありません。私は健康のことしかアドバイスはできませんが、健康問題を通して、将来を振り返るきっかけになればと思い、今回は加齢と健康についてまとめてみたいと思います。

加齢が人の体にもたらす影響

歳をとると、だれの体にも、もれなく変化が訪れます。体のあらゆる部分、あらゆる臓器が少しずつ歳をとっていきます。それは多くの場合、変化に弱い身体となり、機能に衰えが出るということを意味します。

例えば、味覚一つとっても、少しずつ味覚の感性が衰えていくことが知られています。実際に、人工甘味料を使った研究では、甘さを感じとるのに、若者と高齢者を比べて高齢者では30%より高い濃度の甘味料が必要だったと報告しています(1)。あるいはトマトスープの味を感じとるのに、高齢者では平均約2倍の塩が必要だったと報告する研究もあります(2)。

また、歳とともに訪れる免疫機能の衰えは、パンデミックとともによく知られるようになった事実かも知れません。新型コロナウイルス感染症が流行し、高齢というだけで重症化、死亡のリスクが増すことはとても有名になりました。その事実を知れば、これについて多くを語る必要はないかも知れません。

このように、体の機能は衰えていく部分が多く、防げないこともたくさんあります。しかし一方で、その衰えを遅くできるもの、若い時の機能を維持できるものもあります。ここではそういった側面についていくつかご紹介できればと思います。

加齢と心臓・血管の健康

歳をとるということ自体が、血圧の上昇や心筋梗塞、狭心症のリスクになることが知られています。これは使っているうちに水道管が少しずつ錆びて通りが悪くなっていくのと同じです。それはもちろん変えられない事実ではあるものの、水道管のメンテナンスができるのと同じように、血管もメンテナンスが可能であると知られています。塩分の多い食事、肥満、喫煙など、生活習慣に関わる多くの問題が水道管の「サビ」を促進します。裏を返せば、減塩やダイエット、禁煙といった健康な生活習慣を送ることで血管を若く保つことができるのです。

また、血管の「サビ」に強く関連する病気として、高血圧や脂質異常症といった病気が挙げられます。これらの病気は、実際のところ軽視されがちです。確かに、こういった病気が症状を出すことはほとんどなく、例えばコレステロールが高いからといって体調を崩すということはまずありません。しかし、これらは10年、20年経ってから心筋梗塞の原因となり、症状を出すことになります。症状が出たときには遅いのです。

すなわち、こういった病気は健康負債となり、将来の自分の身にふりかかってくる問題です。これは借金やローンと似ていますが、借金と違うのは、お金ができた時にあとで返済するというのが難しく、なかなか後戻りできない点です。だからこそ、「体調」や「症状」として自覚しにくくても、毎年の健康診断を受け、血圧やコレステロール値、血糖値をチェックすることは大切です。そして、治療の必要性がないかどうかを相談し、必要があれば治療を継続することがとても重要になってきます。

たかが1年に1回の血液検査と思われるかも知れませんが、その「1年に1回」で済むのであれば、それで済むうちにきちっとチェックを続けるのが、若い体を維持する上でとても大切なこととなります。

Gettyimagesより

加齢とがん

がんの発生も歳をとればとるほど増えることがよく知られています。がんは心臓・血管疾患と対をなす、言わずと知れた日本人の2大死因の一つであり、防げるものがあるなら防ぎたいものです。

例えば、ある研究によると世界のがん死亡のうち、35%は予防できるものであったことが報告されています(3)。また、その中で原因として以下の9つに起因していたことが報告されました。喫煙、アルコール、野菜や果物の摂取不足、肥満、運動不足、コンドームを用いない性行為、大気汚染、固形燃料の使用、医療機関での汚染された注射針の使用。これは、発展途上国も含めた統計であり、必ずしも日本に当てはまらないものも含まれますが、運動不足や喫煙など生活習慣に関わるリスクがあることが見えてきます。

ここから分かるように、がんには生活習慣病という側面もあるのです。あまりそんなイメージはなかったかもしれませんが、野菜や果物を多くとり、運動習慣をつけ、体重を管理することは、心臓や血管の病気だけでなく、がんの予防にもつながっています。

また、がんは急速な治療の進歩により、治る病気になりつつあります。ただし、それは比較的早期に発見できた場合に限られることが多いのもまた事実です。しかし同時に、がんは比較的進行しないと症状が出にくいという難しさもあります。

このために、がん検診があります。がん検診は、症状がない早期のがんを発見し、治療につなげてくれるものです。

がん検診には、検査を受ければがんによる死亡の可能性を防げる可能性が高いと分かっているものと、検査をやるメリットが分かっていないものが含まれます。これらの中で前者を選択的に行うことで、「防げるものは防ぐ」というスタンスをとることができます。

これら「防げるもの」のうち、代表的なのが大腸がん、胃がん、子宮頸がん、乳がんの4つです。また、喫煙する方には、肺がん検診も有効です。

特に若いうちから行う必要があるのは、子宮頸がん検診です。これは日本では20歳から、米国では21歳から行うことが推奨されており、日本では2年に1回、米国では3年に1回継続することが勧められています(4,5)。

また、乳がん検診は、日本では40歳から、世界的にも40ないし50歳から2年に1回は受けることが勧められています。胃がん、大腸がんについては、少なくとも50歳から(日本では大腸がんは40歳から)、胃の内視鏡検査、大腸なら便の検査(または他国では大腸の内視鏡検査)を行うことが勧められています。

詳細は各地方自治体から届けられるお知らせを参照いただきたいと思いますが、年齢的に該当するものをしっかりと定期的に受けているか改めてご確認いただければと思います。

Gettyimagesより

加齢と骨の健康

女性ならもうひとつ気になるのは、骨粗しょう症かもしれません。骨の健康の維持に、女性ホルモンが大きな役割を果たすため、閉経後に女性ホルモンの量が減ると、骨粗しょう症が起こりやすくなるのです。このため、65歳以上の女性は骨粗しょう症の検査を受けることが勧められています。

骨の健康維持には、カルシウムとビタミンDの摂取、そして運動や禁煙が重要であることが分かっています。魚介類や乳製品、大豆製品など、カルシウムを多く含む食品をバランスよくとることで、骨の老化を防ぐことができます。

加齢と認知機能

最後に触れておきたいのが、認知症の話です。

そもそもまず「認知」というのは何でしょうか。これは、人が学習する、記憶する、言語を用いる、計画したことを遂行する、自分の置かれた状況を認識するという機能のことです。

「認知症」というのは、これらの要素のうち一つ以上が、生まれつきではなく、大人になってから障害されて衰退し、日常生活を独立して送ることが難しくなった状態のことを指します。

認知症は、2025年には65歳以上の5人に1人が発症するとも試算されています(6)。それほどありふれた病気である認知症ですが、実は原因は様々です。

そのうちの代表とも言えるのが、アルツハイマー病ですが、この病気は残念ながら今のところ確実に有効と言える予防法は知られていません(確実性は劣るものの有効な可能性が高い方法については拙書『最高の老後』をぜひご覧ください)。しかし、それに次いで多い原因である脳梗塞は予防することができます。

脳梗塞の予防は、基本的に心筋梗塞の予防と同じです。すなわち、健康な食生活、運動、血圧やコレステロール、血糖値の管理といったものです。

また、認知症を発症しない人でも、歳とともに記憶力や集中力は少しずつ減ってしまうことが知られています(7)。

しかし、歳をとることは悪いことばかりではありません。歳とともに、知識や知恵、経験を獲得していくことができます。失われた力は、年齢とともに新たに獲得した能力でカバーすることができ、実際に生活を送る上で何の支障も感じていないという方も数多くいらっしゃいます。

私は、高齢の患者さんの診療を専門とする医師ですが、血圧の薬一つ飲んでいるだけで、家族や友人、近隣の方などとの社会生活を幸せに送っていらっしゃる高齢者の方をたくさん診療しています。中には、90歳や100歳でクロスワードパズルやチェスなどを楽しまれる方もいます。

また、私自身、患者さんたちから多くのことを学ばせていただいています。歴史、政治、人生の楽しみ方。自分の経験を後世に伝え、後世を育てることは、歳を重ねた方にしかできないことだとつくづく感じています。孫やひ孫との出会い、新たな友人との出会い。長生きをすることでこそ経験できた、新しい発見もたくさんあるようです。

防げない老化や病気があることは認めなくてはいけませんが、防げる老化や病気があることもまた事実です。防げないことにまで頭を悩ませず、防げるものを確実に防ぎ、上手に自分の身体と付き合っていく。そうすることで、社会生活が後悔なく楽しめるのではないでしょうか。

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参考文献

1         Mojet J, Christ-Hazelhof E, Heidema J. Taste perception with age: Generic or specific losses in threshold sensitivity to the five basic tastes? Chem Senses 2001. DOI:10.1093/chemse/26.7.845.

2         Boyce JM, Shone GR. Effects of ageing on smell and taste. Postgrad. Med. J. 2006. DOI:10.1136/pgmj.2005.039453.

3         Danaei G, Vander Hoorn S, Lopez AD, Murray CJL, Ezzati M. Causes of cancer in the world: Comparative risk assessment of nine behavioural and environmental risk factors. Lancet 2005. DOI:10.1016/S0140-6736(05)67725-2.

4         厚生労働省. https://www.mhlw.go.jp/index.html (accessed Oct 4, 2020).

5         A and B Recommendations | United States Preventive Services Taskforce. https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation-topics/uspstf-and-b-recommendations (accessed Oct 4, 2020).

6         3 高齢者の健康・福祉|平成29年版高齢社会白書(概要版) - 内閣府. https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/html/gaiyou/s1_2_3.html (accessed Dec 28, 2019).

7         Yang AC, Huang CC, Yeh HL, et al. Complexity of spontaneous BOLD activity in default mode network is correlated with cognitive function in normal male elderly: A multiscale entropy analysis. Neurobiol Aging 2013. DOI:10.1016/j.neurobiolaging.2012.05.004.

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