あなたの日々の飲み物の選択が老化を左右しているかもしれない

2023年1月21日
全体に公開

皆さんは、どんな飲み物がお好きですか。コーヒー、緑茶、ソーダ、アルコール。それぞれの方にとって欠かせない飲み物というのもあるのではないでしょうか。

塵も積もれば山となる。1日に飲む100ml程度の飲み物が健康に影響を及ぼすとは考えにくいですが、それを毎日何年も続ければ、健康や老化のプロセスに影響を及ぼすことになるかもしれません。

そんな疑問を解決しようと行なわれたのが今回ご紹介する研究(1)です。

この研究では、飲み物を飲む習慣と「テロメアの長さ」の変化との関連性を評価しています。

Pexelsより

「テロメア」というのは、聞き慣れない方もいらっしゃるかもしれませんが、人の遺伝情報が詰まった染色体の末端にある構造を指します。このテロメアには、染色体を保護する役割があると考えられているのですが、この長さが加齢とともに短縮し、テロメアの短縮と細胞の余命が関連することが知られています。このことから、テロメアの短縮は生物学的な老化や余命を反映するものと考えられているのです。

何らかの習慣と老化や人の余命との因果関係を示すのは、そう簡単なことではありません。厳密には、余命をアウトカムとして評価する場合、人が亡くなるまでの何十年もの期間を追跡し続けなければならないからです。

そこで、このテロメアの長さのような「代用のアウトカム」、すなわち「間接的にはなるがもっと手軽に評価できる指標」が用いられるのです。代用のアウトカムを用いる最大のメリットは、研究の実施可能性が高まるという点です。一方デメリットは、「本当に知りたいこと」を直接証明することができなくなり、重要な結論を導けなくなるという点です。

言い換えれば、代用のアウトカムを用いた研究の結果を根拠に最もらしいことを主張する記事には注意をしなければなりません。「この食品を摂取し続けるとテロメアが伸びることが証明された」「これは余命を延ばすスーパーフードだ」という宣伝を見たら立ち止まる必要があるということです。

脱線はここまでにして、肝心の研究の概要に移りたいと思います。

この研究では、50代前後の1952人の被験者を集めています。この方たちに飲料(緑茶、コーヒー、ソフトドリンク)を飲む習慣について尋ねています。また同時に、採血を行い、血液中にある白血球のテロメアの長さを測定しています。そして、その6年後にも再び採血を行ない、白血球のテロメアの長さを再測定。最終的に6年前と比較して、テロメアの長さにどのような変化があったかを評価しています。

また、結果の解析にあたっては、年齢、BMI、喫煙、飲酒、運動習慣、糖尿病といった因子が「交絡因子」として調整をされています。(交絡因子については、以下の簡単な模式図をご参照ください。)さて、結果はどうだったのでしょうか。

著者作成

主要な結果を見てみると、1日1杯以上の緑茶を飲む習慣がある人は、緑茶を全く飲まない人と比較して、テロメアが長く、緑茶の摂取量とテロメアの短縮の間には逆相関が見られていました。この相関は、特に女性で比較的若い50代の層で強く見られていました。

一方、ソフトドリンクについては、緑茶とは逆に、女性に限定されるものの、ソフトドリンク摂取量とテロメアの短縮に順相関が見られていました。なお、コーヒーでは、こうした関連は見られませんでした。

これらの結果から、研究者たちは、特に女性で、緑茶を飲む習慣が生物学的な老化に保護的に働く可能性があり、ソフトドリンクを飲む習慣は老化を促進する可能性があると結論づけています。

Pexelsより

ただし、先にも注意点として述べたように、この研究はテロメアの短縮(しかも、白血球のテロメアの短縮)を見ているに過ぎず、実際のところ老化との関連があるのかを示してくれるものではありません。また、飲料の習慣はテロメア短縮を評価される6年前のアンケートで評価しただけであり、その6年の間に同様の習慣を継続した保証はありません。飲み物の好みがこの間に変わっているかもしれません。また、ここでは調整しきれていない交絡因子があり、示された関連性に大きな影響を及ぼしている可能性も否定できません。

このように、この研究から飲み物と老化に関する結論を導くことは難しいものの、たかが飲み物でもチリも積もれば山となり、もしかすると私たちの老化に影響を及ぼしているかもしれない。そんなメッセージを教えてくれる興味深い研究であったと思います。

参考文献

1         Sohn I, Shin C, Baik I. Associations of green tea, coffee, and soft drink consumption with longitudinal changes in leukocyte telomere length. Scientific Reports 2023 13:1 2023; 13: 1–7.

応援ありがとうございます!
いいねして著者を応援してみませんか



このトピックスについて
Ujike Yoshinoさん、他10650人がフォローしています