ムール貝にヒントを得た超強力接着剤
身の回りには、携帯電話、コンピューター、自動車、家具、靴、包装、そして壁など接着剤があふれています。現在の接着剤は安価で高性能ですが、環境への負荷も大きいとされます。例えば、廃棄される接着剤は、化学的に分解されず、機械的に粉砕され、海洋のマイクロプラスチック問題の一因となっています。
典型的なエポキシ接着剤は、ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどの多官能性エポキシ含有化合物と、トリエチレンテトラミンなどのポリアミンとの反応が基本になっています。
一方、天然では、ムール貝(ムラサキイガイ、mussel)が、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)を含むタンパク質で岩に強力に接着することが知られています。
DOPAは、ムール貝の接着に関わるタンパク質が合成された後の翻訳後修飾でできます(下図)。DOPA基により、このタンパク質は水素結合や金属キレート形成などの相互作用を介して表面に結合します。さらに、これらのペンダント型ジヒドロキシフェニル(つまりカテコール)基の酸化は、凝集性相互作用をもたらす架橋を作ります。
9月13日付けのNature誌で、Purdue Universityのグループが、この化学構造にヒントを得た持続可能な、つまり天然由来で天然で処理できる新しいタイプの強力な接着剤ができたことを報告しています [1]。
Westerman, C.R. et al. (2023) Sustainably sourced components to generate high-strength adhesives. Nature 621, 306–311 https://doi.org/10.1038/s41586-023-06335-7
その材料は、エポキシ化大豆オイル、リンゴ酸、タンニン酸の3つです(下図b)。エポキシ化大豆オイルは、大豆オイルと酸、過酸化水素との単純な反応で得ることができ、すでに大規模かつ低コストで入手可能であり、例えばポリ塩化ビニルの可塑化などに使用されているそうです。
できた接着剤は、接着させるには熱が必要で、5分間のヘアードライヤー使用から180℃のオーブン24時間の条件下で硬化させることができるそうです。
そして、現代最強の接着剤であるエポキシの性能を上回るとのことです。論文はオープンアクセスになっていますので、その性能の詳細は論文で確認できます。
すべての成分は生物由来で、低コストであり、すでに大量に入手可能であり、持続可能な接着剤として利用できるとしています。
本当にこの接着剤が世の中に出回ることになるのか、気になるところです。
[1] Westerman, C.R. et al. (2023) Sustainably sourced components to generate high-strength adhesives. Nature 621, 306–311 https://doi.org/10.1038/s41586-023-06335-7
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