話題の「抗老化サプリ」を飲んでみた

2022年1月6日
全体に公開

老人性いぼに効能?

「こういう場合はどうしましょうかね…。須田さんはどう思いますか?」

数カ月前、あるクリニックの開設の記者会見。他の記者たちを前に突然そう聞かれ、ちょっと困ってしまった。

(写真:Unsplash)

「最先端のエイジングケア」を謳うこのクリニックは、東京都内の一等地にオープンした。

会見した研究者が「正式な研究の成果ではなく、あくまで参考情報として」語ったところによると、「抗老化物質」として期待されるNMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)が高濃度で入ったクリームを老人性のいぼに毎日塗ったところ、約3カ月できれいに消えたのだという。

いぼが日を重ねるごとに少しずつ消えていく時系列の写真もスライドに映し出された。

「これは実は、私の写真です」。研究者は笑顔で明かした。

いぼ消失の話は会見内容のごく一部だったが、質疑応答になると1人の記者が「興味深い成果なので、記事でぜひ紹介したいがダメか」と尋ねた。

研究者は返答につまり、以前から知っている私の顔を見て、冒頭の質問をしてきたのだった。

記事にしたらまずい理由

会見の主催者でもない私が本来、口を出す幕ではない。

でももし、「NMNが肌の若返りに効果!」というような記事が載ってしまうとしたら明らかに問題だ。「正式な臨床研究の結果ではないですからね」とやんわり、釘を刺した。

尋ねた記者の気持ちもわからないではなかった。

説明したのは、これまで老化・寿命研究で優れた成果を出している研究者だ。「使用前・使用後」の写真にも説得力とインパクトがあった。

でもだからこそ、この情報を記事で紹介するのはまずいとも言える。多くの読者が信じてしまう可能性があるからだ。

新しい薬に効果や安全性があるかどうかは、通常、臨床試験をして調べる。最も信頼性が高いとされる「ランダム化比較試験」では、被験者を無作為に2つのグループに分け、一方のグループには候補薬を、もう一方のグループには偽薬(プラセボ)を投与する。

(写真:Unsplash)

医師も被験者もどちらのグループになるかわからない、という条件の下で投与することで初めて、バイアスの入らない客観的なデータが得られるのだ。そして、この試験で効果と安全性が実証されたほんの一握りの薬だけが、医療現場で実用化される。

前述のいぼ消失のデータは、ランダム化比較試験どころか、被験者がたった1人。老人性いぼに対するNMNの効能を評価する上では、ほとんど意味がないと言える。

健康で長生きしたい、いつまでも若々しくいたい、と誰もが願う。残念なことに、そうした人々の気持ちにつけ込んで、怪しげな不老長寿ビジネスが横行している現実がある。

NMNについては、マウスの実験で抗老化作用が確認されてはいるものの、ヒトでも同じ効果があるかはまだわかっていない。

にもかかわらず、すでに多くのクリニックやオンラインショップではNMNのカプセルが抗老化サプリとして販売されているし、リスクのある点滴療法まで盛んに行われている。

(昨年5月の特集「カウントダウン!不老長寿の時代」でその実態を詳しくレポートしたので、ご興味のある方はぜひご一読を)

(写真:Unsplash)

毎日欠かさず飲んでみたら…

ところで、私は普段、サプリメントの類はほとんど口にしないが、取材時に試供品として頂いた高品質のNMNサプリは、約3カ月間、毎日欠かさず飲んでみた。

体調にも体重にも、目立った変化はなかった。拍子抜けするほど、何の「効果」も感じられなかった。

飲み始めて約2カ月後、健康診断で血液検査も受けたが、昨年と比べ数値が明らかに改善した項目もなかった(実はこの血液検査が、飲んでみた最大の理由だった。実感できる効果がなくても、血液に明らかな変化があったら面白いな、と思ったのだ)。

──もちろん、私が試してみたこの結果も、NMNサプリの効能を評価する上で何の役にも立たないことは言うまでもない。

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