フォルクスワーゲンとリビアン提携にみる新旧メーカーの思惑

2024年7月5日
全体に公開

トピックスオーナーの前田謙一郎です。

先月末にドイツのフォルクスワーゲン(VW)が、アメリカの新興EVメーカー、リビアン・オートモーティブとの合弁設立に50億ドル(約8000億円)を投資するというニュースがあり、かなりのメディアで取り上げれらていました。この発表後にはリビアンの株価が約36%!も上昇したりと、双方にとって良い発表のようでした。

このパートナーシップは黒字化に苦しむリビアンを窮地から救ったというような記事も多くありました。実際はフォルクスワーゲンにとってもリビアンの持つテクノロジーが、苦戦するEV市場とソフトウェア開発への助け舟になるという、急激に変化する世界の自動車マーケットにおいて、従来メーカーと新興メーカーの立ち位置が非常によく分かる事例でしたので、取り上げたいと思いました。

双方にメリットのあるパートナーシップ

フォルクスワーゲンとリビアンは次世代のSDV(Software Defined Vehicle)プラットフォームを共同で開発するための合弁会社を設立する意向。フォルクスワーゲンはリビアンに10億ドルを投資、最終的には最大50億ドルの投資を計画しています。

ポップでユーザーインターフェースも素敵なリビアン 画像:Rivian Newsroom

簡単にいうと、このパートナーシップにより、フォルクスワーゲンはリビアンのエンジニアリングやテクノロジーにアクセスでき、リビアンは財政的支援を受けることができるというもの。

リビアンはカリフォルニアに本拠地を置き、EVピックアップトラックやSUVを専門とするメーカーです。そのテックアプローチとポップでアドベンチャーを感じるブランディングで西海岸を中心に人気のあるメーカーです。

自動車会社を立ち上げ、量産、黒字化するのは至難の技であり、最近もR2という小型SUVを発表し、よりマスに販売することで黒字化を目指しています。リビアンのブランド、モデル、状況については以前のトピックスでまとめているので、まだの人は読んでみてください。

特に注目すべきは、合弁会社が電気自動車の競争優位を決定付けるソフトウェアの開発に焦点を当ていて、フォルクスワーゲンはリビアンのE/Eアーキテクチャ技術と車両ソフトウェアにアクセスできるということ。

スケートボードプラットフォーム 画像:Rivian 

リビアンのE/E アーキテクチャは、さまざまな電子部品とソフトウェアを統合して電気自動車の機能を管理および制御する包括的なシステムです。具体的にはリビアンのスケートボード車両プラットフォーム、車の制御、インフォテイメント、自動運転を処理するECUを含んだ、セントラルコンピューティング、自動運転や運転支援システム、ユーザーインターフェース、バッテリマネジメントなどなど、実は内燃機関に強みを持つ従来の自動車メーカーがあまり得意ではない分野です。

もちろん、リビアンも生産規模拡大のため、2026年から市場に投入予定のR2を開発するための財政的な支援やフォルクスワーゲンの製造や量産ノウハウも享受できます。このように、今回のパートナーシップは新旧メーカーのそれぞれの思惑がうまく合致した動きであったわけです。

Rivian R2 画像:Rivian 

これからの自動車の鍵となるソフトウェア開発

最近ではSDV(Software Defined Vehicle)というような言葉が多く聞かれますが、これ自体が従来の自動車からの視点であり、テスラなどはすでに車を販売し始めた当初からSDVが当然な訳です(なのでテスラはSDVとう言葉は使いません)

それらはスマホライクなユーザーインターフェースや自動運転、バッテリマネジメントなどこれからの自動車のユニークセリングポイントです。中国のスマホメーカー、シャオミが発売した最新のSU7もポルシェタイカンのようなスタイルでありながらも、テスラモデル3を意識しソフトウェアやスマホや家電とのシームレスなデジタル体験にフォーカスしたモデルであり、新時代の車の在り方を予感させます。

ドイツの伝統的メーカーであるフォルクスワーゲンは、先代のCEOであったディエスさんの時代にEV時代が到来することに備え、EVシフトやバッテリーへの投資、そしてVW、アウディ、ポルシェなど、VWグルー プの複数のブランドで使用できるスケーラブルで統一されたソフトウェアを開発するCariad(キャリアド)という会社を設立しました。

Cariad のウェブサイト https://cariad.technology/

内部ソフトウェア能力を開発することにより、外部サプライヤーへの依存を減らすことを目標にしていましたが、開発の遅延が続いており、アウディやポルシェの重要モデルであるQ6 e-tronやMacanの発売が遅れた事なども引き起こしました。そのような多くの課題に直面し、ドイツ国内でもリストラを行い、新しいリーダーを雇うことが最近も取締役会で承認されたりしています。

目指している方向はとても正しいと思いますが、やはり、自動車をずっと作ってきた会社のプロセスやマインドセット、カルチャーはソフトウェアを作るそれとは全く違うわけで、その辺にも要因はあるでしょう。

フォルクスワーゲン主力EV ID.4 画像:https://www.vw.com/

新旧の融合による楽しい車に期待

いずれにせよ、このフォルクスワーゲンとリビアンの提携は私たち消費者にとっても良いものであろうと思います。乗り味もユーザーインターフェースも両方楽しい車はなかなかありません。リビアンのような最新のユーザーインターフェースを持つ、ユニークな電動SUVがあれば楽しいですし、フォルクスワーゲンの車もデジタル化やインターフェースをますますアップデートして欲しい。

ちなみに、リビアンの今のグローバルビジネス開発のトップであるキエル・グルナーさんは元ポルシェAG本社のCMOからポルシェ・アメリカのCEO。私がテスラからポルシェに移った時にお世話になった人です。当時はオリバー・ブルーメさんもフォルクスワーゲングループではなく、ポルシェのCEOでした。そのあたりのドイツコネクションも今回の提携に一役買ったことは間違いないと思いながら、意外と身近に感じた今回の提携でした。

また、次の記事でお会いしましょう!

☞メディア、講演、インタビュー記事

TOP画像:Rivian Newsroom 

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