EV危機か革新か!? テスラの急速充電やNACSで起きていること

2024年5月3日
全体に公開

こんにちは、トピックオーナーの前田謙一郎です。

最近のテスラについて、主要メディアのニュースに過去の経験から分かる事実や背景をコメントしてきましたが、あまりにも衝撃的なニュースが多すぎて驚きの毎日です。その中でも特に、スーパーチャージャー部門に纏わるニュースは、テスラの急速充電の状況や今後について大きな示唆に富んでおり、ぜひ紹介したいと思っています。

今年初めのテスラやイーロンの発言、2つの成長の間にいて、低価格モデルも2025年の発売などから、個人的には2024年はテスラにはあまり大きなニュースはないのではと、少し思っていましたが、とんでもない間違いでした笑

Getty Images

イーロンの先月からのロボタクシーの8月前倒し発言に始まり、Q1の決算発表がポジティブに作用し株価の回復、AIへの巨額の投資急速充電チームの再編など、普通の事業会社だと10年分の主要ニュースが1カ月で出てくる程、テスラはダイナミックな会社です。

スーパーチャージャー・NACS規格はどうなる!?

4月15日に報道された10%の人員削減レイオフは突然の大きなニュースでした。レイオフの背景は以下のトピックスにまとめています。

そのレイオフに伴い、公共政策担当やエンジニアリング幹部も退社するのですが、一旦落ち着いたかと思いました。しかしながら、なんと今週はこれまでテスラの成長を支えてきたスーパーチャージャー部門シニアディレクターのレベッカ・ティヌッチやプロダクト担当のダニエル・ホーの幹部退社が追加アナウンスされます。

スーパーチャージャー部門シニアディレクターのレベッカ・ティヌッチ 画像:Tesla.com

さらにスーパーチャージャー部門全体、約500人のグループを削減する決定を下したと報道されました。これには私も驚きました。チーム全体の削減というとかなりの決断です。(もちろん必要最低限の人員は残しているようですが)

報道ではテスラの利益が落ち、短期的に投資を止める必要があり、NACSに暗雲、他自動車メーカーも動揺と報道されていますが、実際には何が起こっているのか。このニュースからはイーロンやテスラの考え、急速充電の今後について興味深い考察ができます。

カリフォルニア州の充電拠点 画像:Getty Images 

スーパーチャージャー部門縮小の背景と今後

まずこの報道に伴い、イーロンは充電ネットワーク新規拡大はスローダウン、既存場所の拡張と100%の稼働率維持にフォーカスすると述べています。

x.com/@elonmusk

ちなみに、これまでスーパーチャージャーは物凄いスピードで拡大してきました。2021年のQ1に約24500基だった充電器数は2024年Q1時点で、5万7000基に倍増。拠点数で言うと2600から6200拠点です。すごいスピードでロールアウトを進めてきました。

画像:x.com/alojoh

通常、チャージング拠点を一つ作るにはポスト数、レイアウトなど一概に言えませんが、数千万円のコストが掛かります。これだけの投資を行っている自動車メーカーは他にはありません。

イーロンはテスラの車を市場に出した時から充電の重要性を述べてきました。信頼性の高い急速充電とそのネットワーク拡大はテスラの成長や競争力に必要不可欠であっただけでなく、その使い勝手の良さから昨年にはNACSが北米充電標準規格となります。

しかし、上記のようにネットワークが拡充し、他メーカーや充電サービス会社もNACSを採用した今、ユーザーが多く混み合うホットスポットでは拡充を続けますが、テスラ自体が無理にネットワークの新規カバレッジを増やす必要はないと判断した結果と思います。

さらには、今後はテスラだけが投資をする必要はありません。NACSを採用した充電サービスを提供するElectrify Americaなどのサードパーティーや、ましてや他の自動車メーカーも自社の販売店やその他でNACSの充電施設を展開することもできます。

ちなみに日本ではあまり報道されていませんが、昨年末に石油ガス大手のBPが、テスラの急速充電機器1億ドル分の購入発表し、米国では2030年までに10億ドルのEV充電インフラ投資を計画していたりもします。

画像:https://www.bp.com/

充電規格となった後は、スーパーチャージャーのロールアウトに関して違った戦略や手段を取ることができることをテスラがこれから見せてくれるような気がします。10年後にはマーケティングの教科書に出てくるような、デファクトスタンダード後に取るべき戦略など描けそうで、個人的にはワクワクしています。

NACSを使用する他ブランドのEV https://ir.tesla.com/#quarterly-disclosure

ロボタクシーと更なる充電革新の可能性!

今回の充電部門に関するニュースで興味深い発見は、先日イーロンが前倒しをする!とアナウンスしたロボタクシーにあります。ロボタクシーとは小型EVをベースにした完全自動運転車なのですが、このロボタクシーが世の中を走るようになると充電はどうなるのか?

8月に発表があるロボタクシー 画像:https://electrek.co

以前よりテスラでは無人の車の充電方法について議論がされており、充電ケーブルが自動で伸びてくる方法などがありましたが、現状はワイヤレス充電の可能性が高いと噂されています。

無人機がステーションに帰ってきて充電する際には車自身がプラグは挿せないので、ワイヤレスが最適です。そのように考えると充電ネットワーク拡充へのコストはワイヤレスのような自動運転に関わる分野にシフトするのが適しているように思います。

2024年はテスラがAI・ロボティクス会社へ変革する年

このスーパーチャージャーの件も少し俯瞰してみると、流行り今年に入ってからテスラで顕著なったAI・ロボティクスカンパニーへの変革の一旦であることがよく分かります。昨年末からFSDによる自動運転を強力にプッシュしていますが、同時にオプティマスなどにも投資を継続しています。

これまでテスラでは電気自動車の普及がプライオリティーであり、それを支えるには充電拡充が不可欠であった。しかしながら、NACSが充電規格になり、昨年にはモデルYが世界で一番売れた単独モデルになった今、テスラはAIやロボティクスに軸足を移しているのは自然な流れであるように思います。

テスラ以外でもNACSの拡充が進むことが可能になれば、スーパーチャージャーに投資をしていた費用とさらにライセンシングから得られる利益をAI分野に注ぎ込むことが可能になります。

来年末には販売になるかもしれないオプティマス 画像:x.com @Tesla_Optimus 

4月の中旬から始まった一連のニュース。従業員の10%削減に続き、幹部退社、スーパーチャージャー部門閉鎖など、センセーショナルに取り上げられてきました。しかしながら、それらを取り巻く事実や背景を深く読むとたくさんのことが分かります。

はやり今回のように数年に一度、組織を大再編し、スリム化し生産性を上げることは、テスラのようなイノベーションを短期間で起こし続ける会社には必要不可欠であり、変化を恐れないということはとても大切だと思います。

イーロンもツイートで5年毎には会社の次の成長フェーズへ向けて再組織をしなければならないとポストしていましたし、常に時代の先を読み、変化をし続ける。そのリーダーシップと先見の目にはいつも驚かされます。

x.com@elonmusk

今回の記事も、テスラに纏わるニュースの背景などの理解に少しでも役立てれば幸いです。次の記事でお会いしましょう!

TOP画像:Getty Images

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