日本のスタートアップの戦略が多様化(24年8月国内調達トップ5)

2024年9月3日
全体に公開

2024年8月の国内スタートアップの調達額トップ5をみると、各社の変遷に目を惹かれました。

例えば、米国法人を親会社として組織再編した企業、上場企業傘下から独立して、グローバルでの成長を目指す企業、創業6年目にして、スタートアップとして事業成長を目指す企業など。

そんな特徴的なスタートアップ5社を紹介していきましょう。

サムネイル画像:Dall-E 3での生成

☕️coffee break

1.  Shinobi Therapeutics(シノビ・セラピューティクス/*米国法人):シリーズAエクステンションラウンドで87億円超を調達

・iPS細胞由来の新たな免疫細胞療法を開発

・今回の資金調達先:日本医療研究開発機構(AMED/最大約87億円の助成金)、Yosemite、三菱UFJキャピタル

ここに注目👉日本のバイオテック・スタートアップの新たな成長モデルへ

2015年に京都大学iPS細胞研究所の金子新教授の技術をもとに設立されたサイアスが前身。2023年1月に米国法人を親会社とする組織再編、社名変更を行い、バイオ分野のプロ経営者であるDaniel Kemp(ダニエル・ケンプ)氏をCEOに起用して、開発プログラムを一段と加速させています。

開発しているのは、特定の臓器などに発生する固形がんの治療を目的とする他家iPS細胞(他人の体の細胞から作られたiPS細胞)由来の免疫細胞療法プラットフォームです。

細胞療法は多様な疾患の治療に有効で副作用が少ないことが魅力ですが、細胞培養のコストがますます高騰しているため、世界中で多くの患者がこの治療法を受けることがより一層難しくなっています。

安価に細胞培養を行える手法としては、他家細胞(患者以外の細胞)の活用がありますが、この方法では投与後に免疫拒絶反応が起きる可能性が高くなります。

Shinobi Therapeuticsは、他家細胞から作ったiPS細胞を活用するものの、iPS細胞を免疫機構からの拒絶反応を回避するよう遺伝子改変する技術を有しています。

そのiPS細胞を利用して、がん細胞を特定して攻撃するT細胞を大量に生産する「iPS-T細胞療法」の開発に取り組むことで、従来よりも安価に個別化した治療を実現することを目指しています。

今回は昨年12月からのシリーズAに続くもので、シリーズA累計調達額は1億1900万ドル(約174億円/8月6日時点)に。この資金をもとにパナソニックと共に、2025年4月(大阪・関西万博)までにT細胞の再生までのプロセスの処理を実行する試作機の完成を目指します。

2. THINKR(シンカー):シリーズAで約50億円を調達(融資が3億円)

・バーチャルエンターテインメント事業の展開

・今回の投資家:阪急阪神ホールディングス、JAFCO、HIRAC FUNDなど

ここに注目👉設立初の調達でいきなり50億円 独立経営へ

2016年にクリエイティブスタジオの「ANSWR」と「2.5D」が事業統合することで、現在のTHINKRが生まれました。2018年にはエイベックスが子会社を通じて出資(株式79%を保有)することで、THINKRはエイベックスの連結子会社となりました。

今回、資金調達と共にエイベックスグループが保有する全株式をTHINKRが自己株式取得することで独立経営体制に変更しました。

現在はクリエイティブ制作だけでなく、バーチャルシンガーの花譜(かふ)などのアーティストマネジメント、オリジナルIP開発など幅広く取り組んでおり、調達資金をもとに総合的なバーチャルエンターテインメント企業として国内外でさらなる成長を目指します。

ちなみにTHINKRの2024年3月期業績は、売上高33億円、経常損失2.8億円となっています。

3. ニーリー:シリーズBで45.7億円を調達

・モビリティSaaS「Park Direct(パークダイレクト)」を運営

・今回の投資家:JPインベストメント(リード投資家)、日本政策投資銀行、Keyrock Capital Managementなど

👉数多くの事業支援で見出した巨大なマーケット

ニーリーは2013年の創業から6年間は金融・エンタメ・不動産・教育など、あらゆる業界の企業の事業支援に取り組んできました。

その経験で培った事業立ち上げ・グロースノウハウをもとに、2019年にリリースしたのが現在の事業です。

一見、駐車場管理に特化したSaaSと聞くと、マーケットが小さいと思うかもしれませんが、国内だけで3兆円、EVなどMaaS(Mobility as a Service)領域を含めると6兆円の市場があるとされているんです。

今回の調達で累計調達額は5年で102億円となり(借入含む)、駐車場管理だけでなく、法人車両管理サービスの拡大、そしてEV関連領域での新規事業立ち上げにも取り組みます。

4. インターステラテクノロジズ:シリーズEで31億円を調達(融資含む)

・低価格の宇宙輸送サービス開発

・投資家:SBIグループ、NTTドコモ、西武信用金庫など

ここに注目👉小型人工衛星打上げロケットZEROの打ち上げにアクセル全開

民間単独では国内で初めて宇宙空間(高度100km)に到達した観測ロケット「MOMO」で得た知見を元に小型人工衛星打上げロケット「ZERO」の開発に取り組んでいます。

人工衛星用ロケットの打上げ価格は平均40〜200億円かかるものの、ZEROでは高度550km(低軌道)まで打上げられるロケットを8億円以下で開発することを目指しています。

加えて、人工衛星事業にも取り組んでおり、米SpaceXの「Starlink」と同じ衛星通信事業へも参入します。実現すると、ロケットから人工衛星まで垂直統合型サービスの提供が可能になります。

今回の資金調達発表後には、ロケットの心臓部であるターボポンプの熱走試験に成功するなど、2024年度以降のZERO初号機打ち上げに向け、大きな進捗もありました。

5. コミックスマート:シリーズAで28億円を調達

・IPプラットフォーム事業を展開

・投資家:WiL、DIMENSION、第一生命保険、ブーストキャピタル

ここに注目👉設立11年目にして上場企業元社長が本気の事業拡大へ

セプテーニ・ホールディングスの新規事業として2013年に設立された企業で、2022年から企業価値を最大化していくべく、VCを株主に迎えました。

セプテーニは2024年3月末で佐藤光紀氏が代表取締役から退任することに伴い、事業ポートフォリオの見直しも行い、当時株式89.4%を保有する連結子会社のコミックスマートも56.58%分の売却を行いました(持分法適用会社に)。

佐藤氏自らが編集長を務めるコミックスマートのマンガアプリ「GANMA!(ガンマ)」は、累計1800万ダウンロードを突破しており、自社スタジオでもオリジナルマンガを360作品以上制作してきました。

2021年にはデジタルアニメスタジオも設立しており、調達資金をもとにグローバルでマンガ・アニメ・ウェブトゥーンそれぞれでヒットIPの創出を目指します。

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