JAXAの「1兆円基金」がスタート まずは最大3000億円の支援

2024年7月8日
全体に公開

JAXA(宇宙航空研究開発機構)が宇宙分野における企業・大学の技術開発を支援する「宇宙戦略基金」の公募を開始しました。

この宇宙戦略基金は10年間で総額1兆円規模の支援を行います。第一弾では、22のテーマに対し最大3000億円の資金提供を予定しています。

宇宙スタートアップだけでなく、日本の宇宙産業の未来が大いにかかっている支援事業をおさえていきましょう。

サムネイル画像:Unsplash/Javier Miranda

☕️coffee break:なぜ1兆円基金が設立された?

イーロン・マスク氏率いるSpaceXは年間100回以上、ロケットをほぼ100%の成功確率で打ち上げ続けており、2024年はさらに野心的な144回、2.8日に1回のペースでロケットを打ち上げる計画を掲げています。これに伴い、米国の宇宙産業は急速な拡大に向かっています。

一方、日本では国産ロケットを安定的に打ち上げることができておらず、人工衛星の打ち上げなどは海外のロケットに頼らざるを得ない状況が続いています。

こうした状況を受け、日本政府は2023年に宇宙安全保障の分野の課題と政策を具体化した初の10年計画「宇宙安全保障構想」を決定しました。

この宇宙安全保障構想は3つの柱から成り立っています。

・第1のアプローチ:宇宙からの安全保障(情報収集や脅威への対応)

・第2のアプローチ:宇宙における安全保障(宇宙空間の安全かつ、安定的な利用)

・第3のアプローチ:宇宙産業の支援・育成

これに基づき、宇宙基本計画も見直され、JAXAの役割・機能強化が行われることになりました。

と同時に、これまで各省庁がばらばらに宇宙産業を支援していましたが、内閣府・文科省・経産省・総務省が資金拠出して、JAXA内に基金を創設。JAXAが「宇宙技術戦略」を参照しながら、支援していくことになったのです。

経産省:「国内外の宇宙産業の動向を踏まえた経済産業省の取組と今後について」より

これにより、日本の宇宙産業の市場規模を2020年約4兆円(宇宙ソリューション産業3.5兆円、宇宙機器産業3500億円)→2030年代早期に8兆円(宇宙ソリューション産業7.4兆円、宇宙機器産業6000億円)にまで拡大する狙いです。

🍪もっとくわしく:具体的な支援分野は?

宇宙戦略基金は2034年度までの10年間で総額1兆円の支援を予定しており、まずは宇宙輸送・衛星・探査の3分野、22テーマで最大3000億円の資金提供を行います。

すでに17テーマが公開されており、一部はすでに公募が開始されました。

7月5日から公募開始(5テーマ)」

・宇宙輸送機の革新的な軽量・高性能化及びコスト低減技術

・商業衛星コンステレーション構築加速化

・月面の水資源探査技術(センシング技術)の開発・実証

・月-地球間通信システム開発・実証(FS)

・再生型燃料電池システム

7月中旬から公募開始予定(4テーマ)」

・将来輸送に向けた地上系基盤技術

・宇宙輸送システムの統合航法装置の開発

・高分解能・高頻度な光学衛星観測システム

・高出力レーザの宇宙適用による革新的衛星ライダー技術

7月下旬から公募開始予定(4テーマ)」

・衛星量子暗号通信技術の開発・実証

・衛星コンステレーション構築に必要な通信技術(光ルータ)の実装支援

・低軌道自律飛行型モジュールシステム技術

・低軌道汎用実験システム技術

8月前半から公募開始予定(4テーマ)」

 ・大気突入・空力減速に係る低コスト要素技術

・月測位システム技術

・高精度衛星編隊飛行技術

・国際競争力と自立・自在性を有する物資補給システムに係る技術

公募開始の約1ヵ月前にテーマが公開され、公募開始から約1.5ヵ月までが提案期日とされています。

中でも注目すべき点は、これまでの政府基金は事業それぞれで補助率が決められていましたが、今回は最大で事業にかかる全額を補助される可能性があることです。

それほど日本の宇宙産業が国際市場で勝ち残ることは経済安全保障上、重要であると判断されているのです。

とはいえ、かねて触れたように基金の運用においては3年おきに見直されるため、十分な成果を生み出すことが求められています。

🍫ちなみに

JAXAは2021年4月の法改正に伴い、スタートアップへの直接出資、ベンチャーキャピタルへの間接出資も実行しています。

天地人(てんちじん):衛星データを活用し、気候・環境・土地分析のリスク予測サービスを展開。AXA職員と農業IoT分野の起業家が共同創業したため、「JAXA発ベンチャー」として認定されています。参考:JAXA発ベンチャーは現在12社

SPACE WALKER(スペース・ウォーカー):有翼式再使用型ロケットを開発する東京理科大学発スタートアップ。JAXAの研究開発成果を活用して軽量化や長寿命化に取り組むことから、出資に至りました。

Frontier Innovations(フロンティア・イノベーションズ):2024年に政府系ファンド、INCJ(産業革新機構)出身者により設立された独立系ベンチャーキャピタル。

いずれもJAXAの自己収入の範囲で出資されており、出資額はそれほど大きくはないものの、技術連携・人材派遣など唯一無二の支援を行うことが可能です。また、JAXAからの資金調達により、次回の投資ラウンド以降で国内外の投資家を惹きつける効果が期待されます。

今回の「宇宙戦略基金」はそうした支援を大規模化するため、日本の宇宙産業がさらなる成長を遂げることに期待がかかっています。

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