日本企業3社が大型投資。宇宙企業Sierra Spaceとは
米国の宇宙スタートアップ「Sierra Space(シエラ・スペース)」が、シリーズBラウンドで2億9000万ドル(約432億円)を調達しました。
同ラウンドでは、三菱UFJ銀行、兼松、東京海上日動火災保険の3社が共同リード投資家を務めており、大型投資をしたことが伺えます。
*通常、リード投資家はラウンドの取りまとめを行い、最大の資金を投じる
シエラ・スペースは創業3年目ながら、今回の調達で累計調達額は17億ドルに。これは宇宙業界におけるシリーズBまでの累計調達額でトップにあたります。
日本企業3社の投資理由と、これほどの大型調達ができる背景に注目します。
☕️coffee break
シエラ・スペースは「人類が宇宙で文明を築くことができるようにするとともに、地球上の生命に利益をもたらす宇宙プラットフォームを構築する」という壮大なビジョンのもと、2021年4月に設立されました。
同年11月に初の外部資金調達(シリーズAラウンド)で、評価額45億ドルで驚異の14億ドルを調達しました。
設立わずか7ヵ月でそれほどの資金調達ができたのは、1963年創業の米・民間航空宇宙会社、Sierra Nevada Corporation(シエラ・ネバダ・コーポレーション)から会社分割により、新設されたからです。
同社から事業承継して設立したことから、シリーズA調達時にはすでに社員数は1,100人以上、500以上のミッションを抱えていたんです。
一般的に宇宙分野では多額の資金が必要なため、ロケットだけ、衛星開発だけなど、特定の分野にフォーカスします。
しかし、シエラ・スペースは宇宙産業に対して、垂直統合型のアプローチをしていることが特徴的です。
- 輸送:自力で滑走路から離陸して、大気圏に突入する宇宙船「Dream Chaser」を開発
- 滞在:商業宇宙ステーション開発プロジェクト「Orbitar Reef」に参画
- 技術応用:宇宙で医薬品開発、材料開発、エネルギー開発など、革新的な研究開発を行うプロジェクト
- 民間宇宙飛行士の訓練プログラム:宇宙での文明開発を目的にしているため、研究者やアーティストなど業界外の専門家を対象
宇宙船「Dream Chaser」ではNASAの国際宇宙ステーションへの物資補給ミッションで契約を結んでいるなど、すでに総額34億ドルの契約を結んでいます。
これにより、これほどの大型資金調達に成功しているというわけです。
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今回のシリーズBでは、三菱UFJ銀行、兼松、東京海上日動火災保険が共同でリード投資するとともに全ての既存株主(BlackRock、AE Industrial Partners、General Atlantic、Coatue、Moore Strategic Ventures)も追加出資に応じました。
評価額も45億ドル→53億ドルに上昇しています。
日本企業3社が投資した背景には、2022年にJAXAから採択された「持続可能な地球低軌道における宇宙環境利用の実現に向けたシナリオ検討調査」にあります。
*地球低軌道=ISSが活動する高度200km~1,000kmの領域を指す
この調査は2030年頃に予定されている国際宇宙ステーション(ISS)退役後に民間企業が主体となり、宇宙ビジネスの構築を検討するプロジェクトです。
上述した3社とシエラ・スペースなどは、地球低軌道ステーションへの輸送→宇宙ステーションの利用事業→帰還(物資回収・有人帰還)まで、一貫したビジネスモデルの構築を模索しています
「兼松が主体となって行うシナリオ検討調査の各社役割」
この検討をさらに現実的な事業計画まで落とし込んでいくには、低軌道拠点や宇宙船を開発するシエラ・スペースの事業化を推進する必要があるというわけです。
さらに、シエラ・スペースの宇宙船「Dream Chaser」は大分空港をアジア拠点として、宇宙港として活用することで、日本全体で約3,500億円、大分県内で約350億円の経済波及効果が見込まれています。
三菱UFJ銀行、兼松、東京海上日動火災保険は出資するだけでなく、戦略的パートナーシップ契約も締結し、宇宙産業サプライチェーンのさらなる拡大と日本経済への貢献も狙います。
サムネイル画像:Sierra Space
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