コロナの反動でEdTechの資金調達が大幅減少

2023年8月18日
全体に公開

コロナ禍が追い風になると期待された分野の1つが、EdTech(エドテック)

オフライン中心の教育はオンライン・ハイブリッドに移行し、業界のあり方が大きく変わると期待され、投資家はEdTechスタートアップに相次いで投資をしていました。

しかし、パンデミックが終焉して一転。AIブーム到来も重なり、EdTechスタートアップには厳しい時期が訪れています。

☕️coffee break

2023年8月までのグローバルEdTechスタートアップ資金調達額は以下の通り。

・2020年

831社、総額147億ドル

・2021年

1053社、総額203億ドル

・2022年

813社、総額95億ドル

・2023年8月時点

292社、総額22億ドル

Crunchbase:Edtech Is No Longer A Funding Fave

2023年通期では、35億ドルほどになると見られています。これは、2016年の32億ドルをやや上回る水準です。

特筆すべきは、2021・2022年は1億ドル(145億円)以上の資金調達が60件以上も行われていたのに対し、2023年はこれまでのところ0件であること。

EdTech分野では、2021年に上場したCoursera、Duolingo以降、大型スタートアップがIPOしていません。

IPO前のレイターステージでは、他のセクターと同じように、収益性が低い場合は大幅に評価額を引き下げて資金調達をするか、人員削減をする必要があります。

コロナ禍で各社は先行投資をして、さらなる事業拡大に動いたものの、市場の変化で真の価値が求められる今、収益性の向上に苦戦している、といった状況でしょうか。

🍪もっとくわしく

もっとも、大型調達を実施したスタートアップもあります。トップ3社の顔ぶれを見ていきましょう。

GoStudent(ゴー・スチューデント): 融資含め、9500万ドル調達(約138億円)

👉オーストリア発のユニコーン企業。AIでパーソナライズしたコンテンツ・学習計画をもとにしたオンライン家庭教師事業を16カ国で展開しています。

BEGin(ビギン):9452万ドル調達(約137億円)

👉2歳〜10歳の子供向けに毎日15分で学べるコンテンツを提供。Sesame Workshopや、LEGO Venturesを株主に迎えることで、セサミやレゴもコンテンツとして提供しています。

Coursedog(コースドッグ):9000万ドル調達

👉コロンビア大学・ニューヨーク市立大学など、170以上の高等教育機関向けに授業スケジュール作成、カリキュラム、キャンパス内でのイベント管理、学生の成績・進路管理などをワンストップで提供。大学職員の業務を大幅に効率化するだけでなく、AIで学生の需要予測を実施することで、機会提供を最大化することもできます。

なお、世界最大の未上場EdTechスタートアップだったインドのBYJU's(バイジューズ)は、大きなトラブルに直面しています。

2022年10月の評価額は220億ドルでしたが、株主のブラックロックは今年5月にBYJU'sの企業価値を84億ドルと算出しました。

この裏では、外国為替法違反容疑や訴訟問題などが発生しています。

5月中旬には12億ドルのタームローンで調達した際の貸し手から、利息の4000万ドルが滞ったとして、訴訟を提起されました。

今年は黒字化させるために、2月に1000人以上(15%)を解雇したものの、このタームローンの利息支払いをめぐって、追加で5000〜6000万ドルを支払わなければならない可能性も出てきたことで、さらに1000人規模の削減も予定しています。

🍫ちなみに

2023年、日本のEdTechスタートアップで最も資金調達が大きい3社も見ておきます。

Schoo(スクー):21.5億円調達

👉これまで個人向けを中心にオンライン学習サービスを提供してきましたが、リスキリング(学び直し)機会を提供する需要が高まっていることもあり、法人での導入も急拡大中。法人の導入企業数は2020年から2倍増の3000社に(23年3月)。

ABCash Technologies(エービーキャッシュ・テクノロジーズ):12億円調達

👉個人にはマンツーマンで資産形成や家計管理トレーニングを、法人には福利厚生で金融教育プログラムを提供しています。2022年から高校での金融教育が開始されたことや、2024年から始まる新NISA制度を追い風に事業拡大しています。

コノセル:5.5億円調達

👉リクルートが展開する「スタディサプリ」の元事業責任者が創業。都立高校受験者向けにデジタル教材と学習管理システムを組み合わせた個別指導「コノ塾」を展開しています。

近年、EdTechではパーソナライズ教育が主要なトレンドとなっていました。生成AIの台頭により、このトレンドがさらに一段階進むのではないかと注目されています。

今年5月にはニューヨーク証券取引所に上場する米Chegg(チェグ)が、わずか1日で株価が48%下落する事例がありました。

Cheggのようにコンテンツや学習支援サービスを提供する企業は、生成AIで置き換えられていくのではないかと考えられているわけです。

急速に変化するEdTech市場はどうなっていくのか、勝ち抜くスタートアップはどこなのか、注目したいですね。

サムネイル画像:Unsplash/Andrew Neel

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