合成の誤謬とは?
合成の誤謬という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
例えば、こんな場面を想像してみてください。
例えば野球やスポーツの試合にいって、目の前の人がいきなり立ち上がったらどうでしょう?立ち上がった人は視界がよく見えるようになるので、個人としては最適な行動と言えますが、後ろに座っていた人たちも立ち上がらないといけなくなってしまいます。結果、全員が2~3時間立ちっぱなしになってしまう状態は、全員にとって損になってしまうのです。これは、合成の誤謬の典型例といえます。
合成の誤謬とは、「個人にとって最適な行動が、全体でみると最適とは限らない」という現象です。豪州経済学者のビル・ミッチェルは、 この合成の誤謬があるからこそ、マクロ経済学という学問が生まれたと論じます。1930年代に世界恐慌(the Great Depression)が起こる前には、マクロ経済学は、ミクロ経済学を合算(aggregate)したものと考えられました。つまり、経済全体が一つ企業や家計と同じと捉えられていたのです。
経済学において、合成の誤謬の典型事例は、(1)節約の罠と(2)賃金削減による失業問題の解決、です。
まずは、(1)節約の罠(paradox of thrift)。
多くの人が節約は良いことだと考えます。節約すると、休暇に旅行にいけたり、欲しいものが買えたりします。しかし、個人全員が節約を始めたらどうなるでしょう?消費支出が下がることになるので、企業は生産しなくなります。企業の売り上げが落ちれば、所得が下がり、失業率も上がってしまう。経済全体で見れば、消費支出が下がってしまい、経済全体は不況(recession)に陥ってしまうことになってしまいます。世界恐慌の際、ケインズが政府支出の重要性を訴えたのは、不況の際には民間セクターが貯蓄を増やそうとする傾向があることを踏まえ、その消費減少分を政府支出で補うべきだと考えたからです。
もう一つは、(2)失業問題。
マクロ経済学という学問が確立される前、企業が賃金を削減することで失業問題は解決されると考えられていました(実際に、世界恐慌の際には、イギリスが賃金削減により失業問題を解決しようとして失敗しています)。企業が労働者の賃金を下げれば、企業は経費を節約することができます。そうすれば生産のコストを削減することができ、企業の利益は上がり、より多くの人を雇うことができる(失業問題を解決することができる)と考えたのです。しかし、経済全体でみて、企業全員が労働者の賃金を削減すればどうなるでしょう?
賃金は、企業にとってコスト(経費)であると同時に、労働者にとっては所得です。企業が賃金を削減すれば、個人が受け取ることができる所得が減り、消費(需要)は下がり、企業の売り上げは減り、失業問題は悪化してしまいます。
これら二つの事例でわかる通り、「一個人や一企業にとって最適な行動が、経済全体でみると最適とは限らない」という合成の誤謬の問題が存在する限り、
経済全体で考えるマクロの視点と、一個人や一企業の視点であるミクロは全く違うものと考えるべきです。
国家の財政を、家計の財政と同じように考えるのも、この合成の誤謬の罠にはまってしまっていると言えるのではないでしょうか。
どんな問題を考える上でも、合成の誤謬があるこということをしっかりと認識した上で、ミクロ/マクロの視点をしっかり分けながら考えたいものです。
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