税金って何だろう?①

2024年5月8日
全体に公開

税金と聞くと、皆さんどんなイメージをお持ちでしょうか?

ニュースや新聞でよく聞くのは、例えば以下のようなものです。

わたしたちが納めた税金は、みんなの安全を守る警察・消防や、道路・水道の整備といった「みんなのために役立つ活動」や、年金(言葉の意味)・医療・福祉(言葉の意味)・教育など「社会での助け合いのための活動」に使われています。そのために必要なたくさんのお金をみんなで出し合って負担するのが「税金」です。つまり税金は、みんなで社会を支えるための「会費」といえるでしょう。

しかし、少し考えてみると、おかしいような気がしてきます。

なぜなら、円を発行しているのは日本政府だからです。

私たちは自ら円を作り出すことはできません(そんなことしたら偽造で捕まります。)私たちが受け取る円は、明らかに日本政府が作り出すものです。2024年7月3日からは新札になると話題ですが、その新札はどこからくるのでしょう?日本政府ではないでしょうか?これはドルを発行している米国政府など、自国通貨を発行している政府全てに共通する事柄です。

では、円を発行している日本政府が、私たちが持っている円を支払えという要求してくる理由は何でしょうか?発行主体にとって円は不要のはずです。税金の役割とは何でしょうか?

現代貨幣理論(Modern Monetary Theory)の産みの親の一人でもある、投資家のウォレンモズラーは、こんな風に説明します。モズラーの考え方に当時懐疑的であったステファニーケルトンが、モズラーの自宅で何時間も彼の考え方を聞く場面です。

モズラーはまず、米ドルは「まぎれもない公的独占だ」と説明した。政府がドルの唯一の供給源であるのに、国民からドルを提供してもらう必要があると考えるのはばかげている。ドルの発行者は当然、望むだけのドルをいつでも手に入れられる。「政府はドルなど欲しがってはいない。政府が欲しいのはもっと別のものだ。」とモズラーは説明した。
「それは何ですか」と私は尋ねた。
「自らに必要なものを手に入れることさ。税金の目的は資金を調達することじゃない。国民を働かせ、政府が必要とするものを生産するためにあるんだ」
「政府が必要とするもの?」
「軍隊、司法制度、公共の公園、病院、道路、橋。そういったものさ」
国民にそういう仕事をさせるために、政府は税金、手数料、罰金などさまざまな負担を課す。税金は通貨への需要を生み出すためにある。税金を払うには、それに先だって通貨を稼ぐために働く必要がある。
財政破綻の神話(MMT入門)(はやかわ文庫NF)

つまり、税金の目的は、通貨への需要を作り出すことを通じて、政府が必要とするものを生産するため(公的目的のため)に国民を働かせるため、ということになります。例えば、他国と戦うために軍隊が必要になった国を想像してみます。国はまず国民に納税義務を課します。そして、軍隊に参加してくれたものには通貨を渡すと宣言します。税金を払わないといけなくなった国民は、通貨をもらうために、軍隊の業務につきます。軍隊の業務につけないものも、通貨を得るために、自分たちが売れる商品やサービス、資産を売り出すことになります(結果、市場が生まれることになるでしょう)。課税されることにより、国民全員がその通貨が必要な状況が生まれます。つまり、税金があることにより、ただの紙切れが、お金に変身するのです。

パブリナ・チャーネバ(米バード大学准教授)は、歴史的にも、こうした税の使い方は存在したと論じます。

"Taxes are also a powerful coercive mechanism. In Africa, for example, newly imposed head taxes compelled the colonized African tribes and communities to use the currency of the colonial powers and became another method of colonization and resource extraction"
Money, Power and Monetary Regimes (Pavlina R. Tcherneva) Page10
https://www.levyinstitute.org/pubs/wp_861.pdf

「税金は強力な強制的なシステムである。例えば、アフリカでは、新しく課された税金が、植民地のアフリカ部族に対して、宗主国の通貨を使い、植民地化や資源を奪うための手段になった。」という記述です。イギリスのポンド、フランスのフラン、他の宗主国の通貨で課税を求められることにより、植民地下の部族は(自ら生産した)穀物や労働力を売ることで、通貨を得て、課税義務から逃れたのです。

この他にも、米国の南北戦争の事態には、戦争に必要な物資と軍隊を集めるために、連邦政府は"greenbacks"(最初のドル札)を発行した例もあります。

税金の仕組みを使うことで、ただの紙切れがお金になり、政府の目的のために民間の資源が使用される/動員される(mobilize)というアイディアは、かなり天才的であると同時に、歴史上でも事例を見いだすことができる人類の英知だと言えるのではないでしょうか。

来週月曜日(5/13)は、一番わかりやすいモズラーの名刺の話を取り上げます。

【参考】

財政赤字の神話: MMTと国民のための経済の誕生 https://www.amazon.co.jp/dp/4152099666?ref_=cm_sw_r_em_ud_dp_YYNJEEQ8J25GDN142MM9_3

応援ありがとうございます!
いいねして著者を応援してみませんか



このトピックスについて
樋口 真章さん、他420人がフォローしています