ファストリ中間決算、海外で稼ぐ力高まる

2024年4月15日
全体に公開

皆さんこんにちは、池田伸太郎です。この度、NewsPicksのトピックスオーナーに就任しました。「企業決算から読み解く経営と経済」と題し、有名企業などの決算を取り上げて、その内容を俯瞰した上で、経営的なトピックや投資家としての見方、決算の背景にある経済の動きなどを簡潔に書いていきます。

私は普段、noteのメンバーシップにて経済・金融・政治などの時事や企業決算、財務分析などの投資知識を解説する有料コミュニティを運営しており、この記事を書いている時点で650名以上の方にご参加いただいています。是非、noteもご覧頂けますと幸いです。

さて、挨拶だけで終わってしまうのも寂しいので、ひとつ目の記事として先週決算が発表されたファーストリテイリングを取り上げます。

==================

アパレルブランドの「ユニクロ」や「ジーユー」を運営するファーストリテイリングが4月11日(木)の取引時間後に24年8月期の中間決算を発表しました。売上高に相当する売上収益は1兆5989億円と前年同期比9%増、営業利益は2570億円と同16.7%増、親会社の所有者に帰属する四半期利益は1959億円と同27.7%増となり、今年1月に発表した第一四半期に続き大幅な増収増益です。

24年8月期通期業績予想は、後述する国内ユニクロの減収などが要因で売上収益を200億円下方修正し、3兆300億円としたものの、営業利益は4500億円で据え置き。受取利息や支払利息の見込みが増加要因となり、当期利益は従来予想3100億円から今回3200億円に100億円上方修正しています。1株あたりの年間配当も従来予想330円から350円に引き上げましたが、据え置きされた営業利益については市場の期待を若干下回る水準であることから、決算後の株価下落の要因とする見方もあります。

中間決算時点での売上について、前年同期からの増収分に相当する1316億円のうち、海外ユニクロ事業が1287億円とほとんどを占めています。地域別の成長率では、北米(25.4%)と欧州(24.5%)が突出しており、円安の寄与があったことを踏まえても好調な業績です。

国内ユニクロ事業は秋シーズンのはじめとなる9月や10月、そして冬シーズンのはじめとなる12月においてそれぞれ気温が例年よりも高かった影響などから前年同期比で100億円(2%)の減収と冴えません。減収になった要因として同社は情報発信の仕方にも課題があったとし、その反省からヒートテックインナーやフリースTシャツなどの商品訴求力を高め、11月や2月の売上回復に繋げました。

アパレル業には季節性がつきものですが、ファストリとしては気候に左右されにくい商品構成の比率を引き上げたり、消費者に商品を訴求するにあたってニュース性の高い商品の開発や効果的な情報発信の仕方を模索している様子です。

ファストリの稼ぐ力に注目すると、売上総利益率は2021年8月期以降、改善が続いており、今回の中間決算では52.9%と同社の直近実績と比較して高い水準になっています。主力のユニクロ事業における売上総利益率は、国内事業が3.6%ポイント、海外事業が1.1%ポイント改善。ジーユー事業も2.2%ポイント改善しており、幅広い事業で売上総利益率が改善しました。

特に国内ユニクロ事業において、23年8月期には追加生産に使用するスポット為替レートが急激に円安に推移しコスト高に繋がった反省から、今期は発注精度を改善し、追加生産を可能な限り抑える施策をとっています。それが売上総利益率を改善した要因のひとつです。もともと物流の効率化がファストリの強みのひとつですが、発注の高度なコントロール(同社は「売上動向に応じた発注のSTOP&GO」と表現)が合わさることで、より効率的な経営を目指していると言えます。それらが貢献し、売上高営業利益率は15.8%と前年同期の13.5%から大幅に改善しました。

一方、ライバル企業に目を向けてみると、「ZARA」などを運営する製造小売(SPA)世界首位のインディテックス(本社スペイン)は、2024年3月に発表した24年1月期の通期売上高が359.47億ユーロ(約5兆8700億円、前期比10.3%増)、営業利益68.09億ユーロ(約1兆1100億円、同27.1%増)と、その規模は業界で頭ひとつ抜けています。売上総利益率は57%台、売上高営業利益率は18.9%と既に高い水準だった前期の16.9%から改善しており、ファストリとしては規模と効率の両面で背中を追い続けている状況です。

ファストリは売上の過半を海外ユニクロ事業で稼いでおり、特にアジア圏、更に細かく見るとグレーターチャイナ(中国、香港、台湾)の存在感が大きいです。それが故にグレーターチャイナでの売上動向次第で株価が一喜一憂することもありますが、その他アジア(韓国・東南アジア・インド・豪州)や北米、欧州も成長しています。国内ユニクロ事業は成熟期となり売上の大きな成長は見込めませんので、同社が成長の柱としている北米、欧州、東南アジアでの更なる成長に期待が寄せられていると言えるでしょう。

欧州市場について、同社の守川卓グループ上席執行役員・ユニクロ欧州CEOは今回の決算説明会で「欧州の店舗は売上が大きいが、売れる商品は都市や国で全く違う。個店経営(注:地域に根ざした店舗運営のこと)はまだ全然出来ておらず、ポテンシャルは掘り下げきれていない」と現状の課題を挙げた上で、「今後出店する店舗はいまの売上に耐えられるくらいしっかりとした大きさの売り場を作っていく。これによって今以上の売上をとれる店が増えていくと思っている」と欧州での成長余地を語りました。反省点はあるものの、欧州で戦略的に進めている女性へのアプローチや若年層への訴求が売上増に繋がっており、経営に自信を深めている様子が見てとれます。

ファッションの本場である欧州は、それこそZARAなどのライバルがひしめく市場であり、ファストリが公表しているユニクロのシェアは0.5%未満と非常に小さいです。現在はフランスのパリ オペラ店やイタリアのコルドゥージオ広場店などの旗艦店にて認知度を含めたブランド力を高めている最中ですが、規模拡大において今後の店舗増は欠かせません。現在の店舗数でも個店経営がまだ上手く実施できていないとする中で、そのマネジメント手法の確立と店舗増の両立が今後の課題となるでしょう。なお、岡崎健グループ上席執行役員CFOは決算説明会にて、店舗数が900を超えてノウハウがある程度蓄積されているグレーターチャイナにおいても「反省すべき点がある」としており、現地のニーズにあわせた売れ筋商品の展開や店舗経営全般といった個店経営の難しさを物語っています。

また、資本効率の観点では、ここ数年で投下資本が増大する中でも利益率上昇に伴って投下資本利益率は緩やかに改善しており、これ自体は良い兆候です。ただ、コロナ禍の少し前には更に効率性が高い時期があり、市場の期待値は足もとの水準よりも高いところにあるという見方も出来ます。資本効率が資本コストを上回っているだけではなく、そのスプレッド(差)が拡大していくことこそ、経済的付加価値を持続的に生み出す優れた企業であることの証左です。今後は同社が掲げる売上高10兆円に向けた拡大施策と共に、企業価値の増大に向けた資本効率の中長期的な向上が期待されます。

<見出し画像:UnsplashのFourFourが撮影した写真>

応援ありがとうございます!
いいねして著者を応援してみませんか



このトピックスについて
樋口 真章さん、他365人がフォローしています