アンチパターンから学ぶ新規事業開発・毒舌風味vol.1 CPF (Customer Problem Fit) 編

2024年3月15日
全体に公開

 記念すべき?第1回のテーマは、新規事業開発のアーリーフェーズにおける最初の死屍累々ポイント、CPFについて。Customer Problem Fit ですよね。顧客の課題の発見と検証という、新規事業開発における大切だがそれゆえつまずきやすいポイントのひとつです。

その顧客、ホントに存在します? 「観察と学び」なき顧客定義という幻想

新規事業のビジネスアイデアやコンセプトの壁打ちやビジコンの審査、社内外の事業開発者からの相談に乗っていてよく出くわすシチュエーションのひとつに『その顧客はホントに存在するのか問題』 というのがあります。主要な症例は、3つ。

「顧客? それ誰? 食べれるの?状態」「都合のよすぎるペルソナと属性」「”顧客はこれに困っているべきだ” 妄想」です。順番に掘り下げてみましょう。

「顧客? それ誰? 食べれるの?状態」

いわゆる、顧客をわかっていない状態。誰に提供するための価値なのか、自分たちが提供する価値に対して対価を払ってくれるのは誰なのかすら分かっていないか考えていない状態を指します。考える余地なくこれはヤバい。いわゆる極端なプロダクトアウト状態の価値仮説から脱却できていなかったり思いつきレベルのアイデアを事業化しようとしているシチュエーションにおいて多発します。なまじ価値仮説が妙に具体的につくられていたりするとなおのことタチが悪い。「これって誰のための価値ですか?」とか「これに誰がカネを払ってくれるんですかね」という問いを投げかけると放送事故が起こるヤツです。頼む、せめてまずは正しくないかもしれないがカスタマーセグメントくらいは決めておこう…。あるいは、上記の問いを投げかけると日本国民すべて、とかいう回答が返ってくる社会課題系新規ビジネスも同じ症例です。いわゆるファーストターゲットやアーリーアダプターの発見が大切なCPFにおいて、こういう緩くてふわっとした設定はダメ。

「都合のよすぎるペルソナと属性」

そんな顧客は存在しない、というやつです。デザイン思考におけるペルソナの設定と組み合わさると無類の相性の良さでタチの悪い事象が発生します。あれこれと細かく要素分解されていたり、一見リアリティのある顧客像が設定されている。しかしほんとにこんなアンド条件の塊に寸分違わず適合するユーザってそもそも存在しうるんだっけ…「それだけ顧客像がクリアになっているんだったら早くそのお客さんにアプローチしましょうよ」と言うと途端に歯切れが悪くなったり探せども探せどもそのような属性をもった顧客候補はどこにも存在しない、という珍獣さがしのようなシチュエーションが発生していたらこの状態を疑ってください。

「”顧客はこれに困っているべきだ” 妄想」

そんなニーズは存在しない、もしくは特段大きなペインではない、という状態。顧客はこんなペインをもっているはずだ、という仮説が肥大化してしまいいつしか顧客は自分たちが考えているペインにもとづくニーズが存在しているに違いないという思い込みとして視野狭窄に陥ってしまい、実際は存在しないニーズに紐付く価値仮説ばかりを考えてしまう症例です。割と社会課題解決系のビジネスコンセプトにかなり起こりがちなパターンであることも声を大にして言っておきたい。ダメな事業開発者が、自分のふとした思いつきを後生大事にしすぎてしまうのと同じように、自分が課題だと考える事象に対して世の中のほかの人々も絶対に同様に悩み苦しんでいるに違いないという思い込みが生まれてしまい、これについて悩んでいるべきだというべき論に肥大化してしまう状態です。まぁ落ち着こうか。これらすべて、そもそもきちんと「観察と学び」をやっていないがために起こる事象です。「観察と学び」というのは、オランダで開発されいまや世界13ヶ国語に翻訳されグローバルでさまざまな成功事例を持ち日本においても徐々に利活用事例が拡がっているイノベーション創出メソッドであるFORTH INNOVATION METHODのプロセス名なのですが、要するにデザイン思考などにおいても重視される顧客や課題発見のための活動とプロセスのことと理解いただければひとまず齟齬はありません。

前提を捨てろ現実を知れ。そのために外へ出ろ

どうしてこのような状況が起こってしまうのでしょうか。そしてこの状態はとりわけ大企業の事業開発者が手掛ける新規事業開発において顕著です。なんとなく理由が頭をよぎりましたか? イタいところ突かれた気持ちになってきましたか?

そう、そもそも実際のフィールドワークやきちんとした調査を全然おこなわず適当なデスクトップリサーチだけで済ませていたり自分やプロジェクトチームの思い込みだけで都合よく描かれた顧客像と課題仮説にしがみついていたり仮説の磨き込みやピボットによる軌道修正が抜け落ちているんです。引きこもり。

引きこもっていたら引きこもっているなりに徹底したリサーチをやるのかというと、それもしないしできない。まずはせめてやりかたを知りましょう。そしてマインドセットもオープンマインドに変えてゆきましょう。初期のゆるい仮説に固執することをやめましょう。そのうえで有識者や仲間の知見を活用したブラッシュアップに取り組みましょう。

とはいえ、この曖昧な状態で放り出されても読者のみなさまも若干もやもやしますよね。具体的に、なにを・どうすれば良いのか。

【①    無手勝流や気合と根性まかせではない、きちんとしたリサーチ手法を知り、実践すること】

え? リサーチなんて当たり前のことだし若いメンバーの雑用みたいなもんでしょ、って?じゃぁそんなリサーチやっていて、実際にどれだけ有用な情報が集まりましたか? 良質なインサイトに触れられましたか?自分で時間かけて調べものしなきゃ身につかない? じゃぁあなたがかけたりかけさせたその時間は見合ってそう?いまってさまざまなエキスパートサービスがあってものすごく効率的、かつ体系的に知見を得られますよ。やめましょうよそういう無駄なストロングスタイル。真面目にリサーチやるととにかく時間がかかる? 大学の課題のレポートや研究資料でも作るんでしたっけ。事業開発やるんですよね。効率よくやりましょう。あるいはフィールドワークに出たくない言い訳にリサーチ使っちゃいけません。もし自分でやるにせよ、きちんとした「よきやりかた」を知るべきです。リサーチに限らず。そして実践しましょう。守破離の「守」すらまともにやらず、やらない・やれない言い訳をするのはみっともない。

【②    デザイン思考にもとづく丁寧なフィールドワーク】

顧客を知る、顧客を発見しその課題を理解するうえでフィールドワークは欠かせません。しかし、ただ闇雲にそこいらをうろうろしていていい訳でもありませんし、インタビューひとつとっても実はさまざまなノウハウやテクニックが存在します。新規事業を自分ごととして実践し続けるためにも、これについてもまずはやりかたを学んだうえでそれらを自分たちで実践してみることが必要です。当たり前でしょと笑うなかれ。その当たり前をできていないことを笑えますか。

【③    有識者との壁打ちによる、仮説の磨き込みと柔軟な軌道修正】

観察と学び、つまりはよきリサーチとフィールドワークの目的は、良質なインプットを多く得てインサイトを形成することにあります。自分ひとりの脳内に凝り固まるのではなく常に開かれた状態、オープンマインドな状態であることがイノベーターにとり重要なマインドセットです。ここまでのプロセスをしっかりと実践してこられていれば、何らかのCPFの仮説が手もとに存在しているはずです。活かすも殺すも、仮説検証次第。仮説の磨き込みとネクストアクションの明確化、そして必要に応じての適切なピボットの検討と実行をすすめるうえでは思考と試行が必要ですが自分自身の限界を事業開発の限界にしてはいけません。いわゆる「壁打ち」はとても重要です。頼れる有識者であるアクセラレーターとの壁打ちによるブラッシュアップは新規事業開発のスピードと精度を大幅に向上させます。活用しないテはない。

次回は「顧客課題に対する解決策の提案」について語ろうかな。

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