「少数意見を見逃さないリーダー」が必ず受ける2つのトレーニング

2024年3月4日
全体に公開

3月8日は「国際女性デー」で、さまざまな国・企業がイベントを行います。たとえば、バービー人形を販売するマテル社は「ロールモデル」シリーズを発売しています。2019年にはプロテニス選手の大坂なおみさんをモデルにしたバービー人形が発売されたことで、日本でも話題となりました。

国際女性デーの起源は諸説ありますが、1904年3月8日にアメリカの女性労働者が婦人参政権を求めて起こしたデモがきっかけだといわれています。こうした動きはヨーロッパやロシアなど世界中に広がり、1975年に国連は「女性の社会参加と地位向上を訴える日」とともに「女性の素晴らしい活躍と、勇気ある行動を称える日」として、毎年3月8日を国際デーに定めました。

私はグローバル企業で長く働いていたので、欧米で女性が活躍している姿は非常に身近でした。一方で、アジア地域のリーダーを務めていたときには、日本を含めいくつかの国では、女性の力を活かしきれていない現場も見てきました。

性別の問題だけでなく、人間はどうしても多数派の意見に同調し、自分と異なる相手に対して偏見を持つ傾向があります。

しかし、だからといって多数派が快適な環境だけを作っていては、新しい知見も、新しい労働力も得ることはできません。むしろ、知らない間に相手を傷つけやる気を失わせてしまうこともあります。

今回は、多数派の同調圧力や偏見をコントロールするためにグローバル企業が行っているトレーニングを解説します。

◇同調圧力は、気がつかないうちに起きている

同調圧力は、集団内で少数意見を持つ人に対し、多数派と同じような考えや行動をとるよう、暗黙のうちに強制する現象です。個人では異なる考えを持っていても、職場や大勢の会議の場など、多数派の影響を受けて態度や考えが変わってしまう(同調する)ことは、誰にでも起きることです。

フランスの心理学者セルジュ・モスコビッチが行った「ブルー・グリーン・パラダイム」という有名な実験があります。

この実験では、実験のために集められた参加者たちに6枚の青いスライドを見せて、何色かを判断してもらいます。明るさの違いはあるものの、普通に見れば、すべて「青」と判断する色ばかりです。しかし、ここにあえて「緑」と答える2人のサクラ役に加わってもらいます。

サクラは、特定のスライドに対して必ず「緑」と回答します。すると、サクラに影響を受けて、同じく「緑」と答える参加者が増えていきます。

サクラがいるグループの実験参加者に色覚検査を行ったところ、「緑」だと感じる範囲が拡大していました。単純にサクラの影響を受けるだけではなく、その人の感じ方までも変化してしまったのです。

このように、多数派の意見は想像以上に大きな影響力を与えるものです。とくに同質性が高く、いまだ男性が多数派を占める日本の職場では、男性優先の考え方、雰囲気に気づかない間に大きく影響を受けています。

◇同調圧力を打ち破る方法① 「マイノリティ・エクスペリエンス」

同調圧力に気がつけるようになるためには、「マイノリティ・エクスペリエンス」という特殊なトレーニングが必要です。

私自身、このトレーニングをかつて受けたことがあります。当時、私はアジア地域のリーダーとして、普段から多様な人々が働く環境を意識しているつもりでした。しかし予想外の結果が出たのです。

「マイノリティ・エクスペリエンス」では、最初に普段の仕事と同じような環境に合わせて10人ほどが会議室に集まり、あるテーマについて話し合います(男女比は7:3くらい)。私は、普段どおりに自分の意見を言い、他の参加者の意見も聞いて、特にストレスもなく話し合いました。

次に、今度は同じ10人ですが、女性が9人のなかに私1人が男性という環境で、同じように話し合いを行います。すると、私はなぜか気後れを感じてしまい、あまり意見を言えず、自分がこの集団に含まれていないような感覚になりました。

そして、一人の参加者から「緊張せずに、意見を言ってくださいね」と促されて初めて、自分が少数派として緊張状態にあったことに気づかされ、発言できるようになりました。

このように、多数派となっている人は、少数派の人が自然と感じている緊張感やストレスになかなか気がつきません。自分が少数派になる経験を通じてしか、その感覚は得られないものです。

同調圧力を克服するには、多数派のほうから歩み寄り、声をかけて配慮することが必要です。「マイノリティ・エクスペリエンス」は、国籍や世代など他の要素でも同じように気づきを得られ、ちょっとしたファシリテーターがいれば簡単に行えるので、ぜひ試していただきたいトレーニングです。

◇偏見を打ち破る方法②「アシュミレーション」

2021年2月、某政治家が「女性がいると会議が長引く」という発言をして、大きな議論となりました。

この発言からわかるのは、この政治家が女性に対して「偏見」を持ち続けている、ということ。人間の脳は、効率よく情報を処理するため、人物を「子ども」「女性」「日本人」といった「カテゴリー」に基づいて認識するようになっています。

カテゴリーに対して共通して持っている特徴を「ステレオタイプ」といい、相手を大まかに当てはめていきます。さらに、このステレオタイプに、自分の過去の経験や記憶、感情が伴ったときに、偏見が生じます。これは「二重過程理論」といって、人間の脳の特性が影響している認識の特徴なので、避けることはできません。

しかしこういった偏見は、ときに相手を傷つけ、また誤解を生むことも多くあります。

たとえば、上司が海外出張に行く部下を選ぶとき、「この仕事はAさんの担当だが、Aさんはまだお子さんが小さいから海外出張は難しいはずだ。ここはBさんに行ってもらおう」と判断したとしましょう。

上司としては、Aさんに良かれと思っての判断かもしれません。しかし、Aさんからすると「大切にしていた仕事だから、子育てを家族にカバーしてもらってでも自分が出張に行きたい」と思っているかもしれません。上司が海外出張をBさんに任せてしまったことで、Aさんは「上司から信頼されていない」と感じ、仕事への熱意が下がってしまう可能性もあるでしょう。

こういった偏見を抑制するために、よく用いられるのが「アシミュレーション」です。日本企業では馴染みがありませんが、グローバル企業では当たり前のように取り入れられています。

これは「定期的に【部下から上司に】フィードバックを行う」というアクティビティです。部下が普段感じていることや、上司に変えてほしいこと、または変えないでほしいことを率直に伝えます。ただ直接的に伝えるのは難しいので、第三者となるファシリテーターが間に入り、「誰からのフィードバックなのか」を伏せながら伝えていきます。「360度フィードバック」を、ファシリテーターを通じて直接行うようなイメージです。

私もアシュミレーションを頻繁に経験してきましたし、今もいろいろな企業でファシリテーションを行っています。最初は上司側も緊張するものですが、慣れてくると自分が気づかないうちに部下を傷つけている言動などに早めに気がつき、修正できます。そのため満足度が高く、ほとんどの人が繰り返し実施することを望みます。

私たちは組織のなかで活動している以上、常に同調圧力や偏見のなかで過ごしています。そして、それに気がついてすらいないことすら多くあります。

年に一度の「国際女性デー」を、普段の自分の言動や周囲の言動についてあらためて考えるきっかけにしてみてください!

Top画像@Linustock

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