大谷翔平選手やハリウッドセレブ起用からみる自動車メーカーのブランド戦略
トピックスオーナーの前田謙一郎です。
最近は車トピックが中心になっていましたので、今回はマーケティングやブランディングの観点から自動車メーカーのアンバサダーやKOLマーケティングについて書きたいと思います。
ご存じの通り、昨年末のドジャーズへの移籍から、現在のスプリングキャンプ中での車の運転や練習など、全ての挙動が話題になっている大谷翔平選手には、引き続き大変な人気があることがわかります。
そして彼をアンバサダーとして起用する企業にとっては、彼のニュースと一緒に商品やブランドが取り上げられ、恩恵を受ける、これは企業のアンバサダーやKOLマーケティングとしては最たる成功例ではないでしょうか。
一方、従来の広告に費用を掛けない企業代表のテスラにおいても、彼らの熱狂的なファンベースはオーガニックなバスを引き起こしており、最近では納車開始になったサイバートラックに多くのセレブやハリウッドスターが乗っていることがメディアに流れ話題になっています。これも一つのマーケティング手法でしょう。
アンバサダーマーケティングやKOLマーケティングとは
多くの自動車メーカーやその他企業にとって、そのブランドを体現するアンバサダーやKOL(キーオピニオンリーダー)は非常に強力な広告塔であり、ブランディングパートナーです。
アンバサダーやKOLマーケティングはインフルエンサーマーケティングと似ていますが、ただ影響力のある第三者の助けでリーチを稼ぐだけでなく、アンバサダーはその企業の商品やブランドを形作る大変重要な戦略の一つです。
全てが上手くいくと多大なブランドイメージや売り上げ貢献がある一方、企業側、KOL側、どちらかが転けるとダメージが双方にあるというとてもセンシティブな手法でもあります。(企業が大々的にアンバサダーを発表してすぐにスキャンダルが発生した過去の例も多数あり)
以下に数例を紹介しながら、各企業のアンバサダー戦略とどのようなブランドイメージを打ち出したいかを考えてみましょう。
ポルシェ x 大谷翔平選手
やはり日本人として気になる大谷選手の動向。最近ではドジャーズの練習に毎日違うポルシェで登場し、日替わりポルシェなどとメディアでも多く取り上げられています。ポルシェはすでに確固としたブランドイメージと世界最高のスポーツカー911の存在がありますが、日本において、それら車の話題以外でポルシェブランドがこれまでメディアに取り上げられることはあまりありませんでした。
私がポルシェ時代に手掛けた契約のため贔屓目な解説になりますが、そのパートナーシップのポイントとしては以下のようなストーリーがあります。
「大谷選手のクリーンで精悍、そしてパワフルだが控えめなイメージはポルシェのスポーツカーと非常にマッチしており、同時に彼の二刀流として誰も達成していない道を行く精神はポルシェのブランドを体現している」
これは多くの人が納得するメッセージではないでしょうか。もちろんポルシェにも彼を起用したいポイントは他にもあり、高齢化するユーザーや今後のEV化へ向けて、若々しく、クリーンなスポーツカーという方向を目指している事も読み取れます。
次の夢に向かって、新たな章の始まり。Driven by Dreams. A new chapter begins.#ポルシェ #タイカン #Taycan #大谷翔平 #shoheiohtani pic.twitter.com/eda4rFYNW8
— ポルシェジャパン (@PorscheJP) February 10, 2024
そう言った意味で戦略的にも知名度的にも大変良いパートナーシップ契約であったと思います。双方のストーリーや彼の業績も重要ですが、それらと同じく、ラグジュアリーブランドの広告に起用されるモデル以上のルックスはクリエイティブ担当者にとっても一緒に働きたいと思わせる、全てにおいて規格外のアスリートでした。
もちろん、ブランドの一方的な想いで契約を結べる訳はなく、他ブランドの競合もいますし、そこはブランド側の腕の見せ所です。個人的に彼との契約や撮影でロサンジェルス出張をしたり、日本・アメリカ・ドイツを跨ぎながらチームと一緒にプロジェクトが出来たのは良い思い出です。
テスラ x ハリウッドスター
そして、この伝統的なアンバサダーマーケティングとは全く逆のオーガニックにバズを作るという戦略で大成功を収めているのがテスラです。昨年末に納車が開始になったサイバートラックですが、実は多くの有名人がすぐに乗っているということが明るみになり、その人気の高さを表しています。
Lady Gaga sorprende en Whole Foods con su Tesla Cybertruck. pic.twitter.com/61mN3xhbeO
— Indie 505 (@Indie5051) February 16, 2024
最近ではレディー・ガガやファレル・ウィリアムスもこの車のユーザーであり、デリバリーイベント当日には最初のデリバリーカスタマーとしてReddit共同ファウンダーのアレクシス・オハニアン(起業家・セレナウィリアムスの夫)が車を受け取っていたことも話題になりました。先週はTVパーソナリティのキム・カーダシアンがサイバートラックに乗っているところを目撃されています。
テスラは一貫して従来の広告やインフルエンサーなどには費用をかけませんが、その企業やプロダクト自体が斬新でイノベーティブであることがブランドを形作り、無駄なマーケティング費用が掛らないという良い例でしょう。また、このようにセレブリティーが乗っていることがすぐにメディアで取り上げられる事もテスラならではです。
イーロン自身は昔から広告にかける費用があれば、それはプロダクトの開発に回すべきだと述べており、その一貫した姿勢がわかります。また、D2Cやオンライン販売、そして莫大なマーケティングコストを掛けないことは、テスラの決算発表資料からもわかる通り、彼らの利益率の高さの源泉となっています。(従来の自動車メーカーとは大きな差)
セレブリティーだけでなく、テスラにはテック系、ファイナンス系ユーチューバー、テスラオーナーコミュニティーも含め、ブランドやイーロンのビジョンに貢献したいサポーターが数多くおり、彼らがユーザー・ジェネレーテッド・コンテンツ(UGC)を作り、ブランド側がそれを使うというこれまでにないマーケティング手法です。
2024年に入り、テスラが日本での広告を開始したり、実はサイバートラックのデリバリーが有名人優先になってきているのでは?と噂されたりもしていますが、テスラもマスマーケットへの訴求に力を入れ始めてきたという事でしょう。
マセラッティ x デビット・ベッカム
もう一つの例を挙げたいと思います。マセラッティとベッカムのパートナーシップは2021年にアナウンスされましたが、個人的にラグジュアリー観点からはとてもよいブランドパートナーシップではないかと思います。
ベッカム自身はイギリス出身でイタリアのマセラッティとはバックグランドは異なりますが、イタリアの伝統的ラグジュアリーブランドが目指す方向性とそのターゲットユーザー層を考えるとベッカムの選択肢はその両方を体現しています。
実際にマセラッティ本国のCMOは「ベッカム氏は、世界的なスポーツアイコン、慈善家、実業家、そしてスタイルのトレンドセッターであり、彼の特徴が、新時代のラグジュアリーブランドとして進化するマセラティのパートナーとして最適だった」と述べています。
例えば、以下の「Everyday Exceptional」のムービーについてはマーケ・クリエイティブの作る側からみてもベッカムの佇まい、ラグジュアリーさ、車やサーキットなどが非常にうまく混ざったクリエイティブだと思います。
個人的にもマセラッティは自動車のテクノロジーのトップというよりも、そのヨーロッパの伝統とラグジュアリー、そしてファッション性がブランドの強みだと思うので、デビット・ベッカムのビジュアルは良く合うと思います。
アンバサダーやパートナーには共通するストーリーが大切
以上のように、成功するブランドパートナーやアンバサダーマーケティングを見るとそのブランドがどのような世界観や方向性に進んでいるのか理解する事ができます。ブランド側もリーチを正しく広げることなど、様々な相乗効果を産み出します。
同時にこのようなブランディングにとって企業精神や製品特徴とそのパートナーの共通するストーリーは非常に重要です。伝統的な企業にあまりにも前衛的な人選は合いませんし、とにかく有名人だから企業の広告塔として使いました的なキャンペーンはユーザー目線からみても表面的だと分かってしまいます。
今回はグローバルブランドやラグジュアリーブランドを中心に纏めてみました。世界の自動車メーカーはそれぞれに個性があってとても面白い。そのような角度から企業や車を眺めてみると新しい発見があるのではないでしょうか。
また次回の記事でお会いしましょう。
Top画像:Getty Images
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トピックスオーナー:前田謙一郎
マーケティングコンサルタント&自動車業界アドバイザリー。テスラ・ポルシェなどの外資系自動車メーカーで執行役員等を経験後、2023年Undertones Consultingを設立。
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