アップルの電気自動車Apple Carの開発が終了した理由

2024年2月28日
全体に公開

トピックスオーナーの前田謙一郎です。

昨晩、ブルームバーグで衝撃的なニュースが流れ、アップルが10年越しに手掛けてきたそのEV開発プロジェクト「タイタン」を中止し、アップルカーの開発を終了するということが明るみになりました。

先月末には同じくAppleが完全運転を目指していた技術レベルを下げること、また発売時期も予測から2年遅れる2028年になることが報道されたばかりでしたので、今回の開発終了のニュースは驚きと同時に理解もできます。

画像:insideevsのレンダリング https://insideevs.com/news/705790/apple-car-project-2028/

関わっていた社員は2000人!そして多くは今後成長が期待されるAI分野へとシフトをしていくことになります。開発終了という判断は賢明だったという意見がアメリカでも多く、私も妥当であると考えます。

終了理由はEVマージン、自動運転、AIから明瞭に推測ができます。そしてアップルの野望を砕く強力なトリガーになったのが、昨今のテスラやBYDの躍進です。

2023年に世界で一番売れたModel Y 画像:Tesla Inc.

ちなみに、テスラとアップルは互いにEVの人材の引き抜きを行い、2014年より相当なライバル関係でありました。2015年には「イーロンがテスラで使えない社員がアップルに転職する」と揶揄したり、私が在籍していた2018年には46名ものテスラ社員がアップルに引き抜かれた(一部は元のアップルに出戻った)こともよく覚えています。

今回、イーロンはこのニュースに対して以下のように反応しています。過去にはモデル3の生産で苦しんでいた時、一度はアップルにテスラを売却しようと試みましたがティム・クックが打合せ拒否したこともありましたね。

誰もが夢見たアップルカー

個人的にもアップルが作るEVにはとても期待していました。アップル製品と同じようなスリークなデザイン、音楽、写真、その他様々なアプリやエンタテイメントなどAppleのエコシステムとのシームレスな統合、そして自動運転。これまでにない車を皆さんも想像していたのではないかと思います。かつてはスティーブ・ジョブズもアップルによる車を作りたいと思っていたようです。

拡張したApple Car Play 画像:https://www.wired.com/story/apple-carplay-dashboard-touchscreen-distracted-driving/

これまで予想されていたのは自動運転機能はハンドルがないレベル5を目指し、2026年くらいに発売、価格は100,000USD (日本円にすると約1500万)、アップル関連メディアが作ったイメージ図でもワクワクしていました。

Vanarama社の予想レンダリング 画像:https://www.smh.com.au/business/companies/apple-is-walking-away-from-its-electric-car-dream-20240228-p5f8c5.html

この夢を打ち砕いた現実は以下の3つに纏められます。

1. 低いEVビジネスのマージンと車というプロダクト

まずはEVのマージンや製造についてです。アップルは2023年Q4の決算資料から読み取っても引き続き高いマージンをキープしている会社です。商品を販売すると約40%程度がグロスマージンとなり、サブスク関連のサービスについては約70%もマージンがあります。

https://www.apple.com/newsroom/pdfs/fy2024-q1/FY24_Q1_Consolidated_Financial_Statements.pdf

一方、EVメーカーで最もグロスマージンが高いテスラでも17%程度。ファブレスEVメーカーのNIOは8%程度、そして出荷台数を伸ばしているリビアンも一台売るごとに未だ損失を出しており、ルーシッドはもっと悲惨な状況です。

現在、世の中でまともに利益の出るEVを製造・販売できている企業はテスラとBYDです。リビアンやルーシッドだけでなく従来メーカーのGMやフォードも同じようにEVを売るごとに損失を出し、経済状況も加わりEV工場の建設や投資を後倒しにしています。現在の高収益ビジネスモデルから、この厳しいEVビジネスに乗り出すのは賢明ではないと思われます。

テスラは強力にEVの製造原価低減を進める 画像:Tesla Inc.

さらに、以前トピックスで説明したようにテスラはギガ・プレスアンボックスド・プロセスでEVの製造原価を大きく下げ、2万5000ドルのマスモデル「Redwood」を開発中。バッテリーメーカーでもあるBYDはその強みを活かしEVコストの大部分を占めるバッテリー原価の低減や中国での安価なレイバーコストを背景に価格競争力が高い

テスラやBYDはEV製造という新しいカテゴリーにおいて、その技術革新で従来の車メーカーも追いつけない状況を作っています。そこに、これまでにEVを作ったことがないアップルが参入し競争力のあるEVを作ることは至難の業と言えます。

車を売るにはリテールフォーマットも拡大する必要が。画像:https://www.apple.com/jp/newsroom/

そして、車を売るということは試乗も提供し、ストアに車の展示もしなければいけません。アフターサービスもこれまでのApple製品とは異なるサイズのワークショップを設けなければならず、彼らのリテールフォーマットを一新する必要があり、アップルカーが相当強い商品力を持たなければ、世界中でそこまで投資するメリットは大きくないはずです。

噂されていた100,000USドル(日本円で1500万円!)という価格も、いわゆるラグジュアリーブランド車では可能ですが、マスマーケットに製品を提供するアップルには合わない価格設定でしょう。

ラグジュアリーEVのLucidも収益化に苦戦中 画像:https://lucidmotors.com/media-room/

2. 自動運転技術もテスラや他テック企業が先行

FSD12によりテスラの自動運転技術は進化 画像:x.com@WholeMarsBlog

二つ目はアップルカーが目指していたハンドルがなくレベル5もしくはレベル4の自動運転についてです。自動運転の大きなニュースでは先日、テスラFSD12のロールアウトが開始され、サンフランシスコの街中では音声で行き先を告げると車がハンドル操作なしで出発、自動運転を行い目的地に着くと車を寄せて駐車できる段階になりました。細かくは以下の記事でまとめています。

自動運転には車両の制御の判断の元になる何億マイルもの走行、画像データの収集と蓄積そしてそれを解析・学習するAIそしてスパコンが不可欠です。それをすでにやり遂げているのがテスラであり、続いてウェイモやクルーズ(今は不調ですが)のような自動運転テック企業です。

テスラはコンパクトEV「Redwood」を生産した次はこのプラットフォームを利用してハンドルがない完全自動運転の「ロボタクシー」を開発しようとしています。

プロジェクト・タイタンでアップルも自動運転の開発や試作を行なっていたと思いますが、実際に自動運転のベータ版を市場に出し、ユーザーからのフィードバックや走行データを得ながら機能を改善してきたFSD機能の進化に追いつくことはアップルといえど簡単ではないでしょう。

自動運転サービスを展開するウェイモ 画像:https://waymo.com/media-resources/

3. 生成AIの急速な発展

最近は生成AIの進化や新しいサービスについて、追いつくのも大変なほど日々色々なニュースが流れます。Geminiが出てきたら次はOpen AIのSora、イーロンのxAIが作るGrok AIなどもあり、週毎に色々な会社からサービスが出てきているような状況です。

A stylish woman walks down a Tokyo street 画像:https://openai.com/sora

その日進月歩に比べ、アップルのAI関連の話題は少し寂しい気がします。アップルのAIとしてすぐに思いつくのはSiriがありますが、それがAppleエコシステム内でのタスク実行やユーザーの利便性を重視しているのに対し、ChatGPTなどは人間のようにテキストを理解し生成する大規模言語モデルであり、より複雑なタスクを実行しています。

マージンが低いEVビジネスや製造に参入、先行者がいる自動運転分野でキャッチアップするよりも、より現在のApple製品やエコシステム内で重要になってくるAIにリソースを割くのは当然の判断と言えるでしょう。

以下の記事も本日ちょうど出てきましたので納得です。

イノベーティブであり続けるため開発終了は妥当だった

誰もが夢見たアップルカーの登場ですが、アップル自身もイノベーティブな会社であるために普通にハンドルがついた自動運転レベル2+のような凡庸な車を2028年に出すべきではないと判断したのだと考えます。(アップルが目指していたハンドルのない自動運転車はテスラのロボタクシーにより2028年より前に開発される可能性が高い)

テスラ ロボタクシーコンセプト 画像:https://electrek.co/

アメリカのテック系インフルエンサーなども同じような意見でしたが、このアップルカーの開発終了はテスラやBYDがその他の競合メーカーを置き去りにし、少なくともEV市場では独走中である、そして今後も生成AIが加速してくことの裏返しであると考えられます。

EV開発は終了してもアップルは引き続き応援したい

最近では賛否両論のVision Proのような商品も発売されましたが、今後もイノベーションと優れたデザインで私たち消費者をワクワクさせて欲しいと思っています!引き続きApple Car Playもありますし、将来的に自動車分野でイノベーションを起こしてくれると期待しています。

今回はアップルカープロジェクト中止の理由について考察しました。また次回記事でお会いしましょう。

TOP画像:Getty Images 

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トピックスオーナー:前田謙一郎
マーケティングコンサルタント&自動車業界アドバイザリー。テスラ・ポルシェなどの外資系自動車メーカーで執行役員等を経験後、2023年Undertones Consultingを設立。

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