今、ハイブランドが男性芸能人を起用し出した3つの理由
こんにちは、ファッションスタイリストの神崎裕介です。あっという間に2月に突入。今月も頑張ってまいりましょう!よろしくお願いします。
先週ファッションの界隈を含めて話題になったのは、やはりSnow Manの目黒蓮さんがフェンディのジャパンメンズアンバサダーに就任したというニュースでしょうか。
ドラマ「silent」での難聴の男性役、切ない演技が大きな話題となった目黒さん。その後も一層の活躍を続けられており、納得の選出と言えます。
(サムネイル画像はhttps://www.fendi.com/jp-ja/cm/inside-fendi/news/jp-mens-ambassadorより引用)
実はここ最近、日本の男性芸能人がトップブランドのアンバサダーに起用される例が急増しているのです。ざっと挙げてみても、、
まさにここ3年ほどの出来事で、ブランド初の男性アンバサダーというケースも少なくありません。ちなみに志尊さんはグローバルアンバサダーなので世界的なポジションになります。
なぜそういった動きが活発化しているのか、ファッション的な視点だけでなくビジネス的な視点や世界的な潮流から考えてみたいと思います。
1・「ファンダムエコノミー」の影響力
これも最近注目されてきた言葉ですが、ファンダムとは、英語で愛好家の「fan」と領地や勢力範囲などを示す「dom」を掛け合わせた言葉。つまり何かのファンによる経済圏といった意味合いで使われています。
BTSの影響力によって顕在化したとも言われていますが、このファンダムエコノミーが無視できない力を持っているのです。
これまで、例えば女性が主な購買層のコスメブランドでは女性を起用するのが常識でしたが、女性人気の高い男性芸能人であればファンダムエコノミーが期待できます。上記のディオールのように男性と女性、同時に立てても問題ないわけです。
この手法、以前は主にニッチなアイテムやブランドで使われていました。そのニッチ界隈で人気のある人を起用して確実に売り上げる。
昔から応援する人や作品に投資することは行われてきましたが、今は拡散も容易だし数字も見える。自分が応援しているもので売上の記録を作りたいとか逆に恥ずかしい思いはさせられない、という意識が働きやすくなっていることが、ファンダムエコノミーを一般化させたと言ってよいのではないかと思います。
よほどのことがなければ、この人を起用したから買わない!は起こらない。通常の売上に加えてボーナス的な購買が見込めるこの手法は、しばらく積極的に導入されるでしょう。
2・”ジェンダーレス”の本格的な定着
多様性社会が進む中で、ジェンダーレスという言葉はもはや一般化してきた印象があります。講師としてZ世代を教えていますが、彼らを見ていても「男性だから」「女性だから」という感覚は大きくないように感じる。
ファッションにおいても、男性がウィメンズを着たりその逆も当たり前になってきています。僕が学生の頃は「男が女物着るなんて」という感じでしたから隔世の感がありますね。
個人的には昔から女性的なデザインのものも良いと思えば着ていたのですが。ロングのダッフルコートにミッキーのような靴を履いて、ゴルチエのドクターズバッグを持ち歩いてたり。ちょっと目立っていたかも。
また男性でメイクやスキンケアに力を入れている人も年々増え、20代でのメイク実施率が19%という調査もあるほどです。
これまでメイク市場は女性のものであり、イメージだけでなく実売もそうでした。ところが最近は身だしなみや美に対する意識を高く持つ若い男性も増え、それに触発されてか中高年男性向けのケアコスメも増えてきています。
男性の女性化的な論じ方もあるようですが、そうではないと思う。性差に関わらず良いと思ったことは良いと言える、行動に移せる土壌が育ったということでしょう。その人の選択だからいいんじゃないの、いいと思うと当たり前に認める感覚。
また企業やブランド側としては、男性を起用することでそういったマインドを推進しているという広報の一環にもなっています。現代の消費者のニーズはそこにあるし、共感を集めることにも繋がるから。
バレンシアガという人気ハイブランドがありますが、アイテムにわざわざ「ユニセックス」というタグを付け始めています。
ブランド側としても、どちらでも着られる買えるデザインですとアピールすることによって販売チャンスが2倍になる。サスティナブルが大きな課題となっている中で型数を増やさず、無駄なく販売できる可能性が増えるのも大きい。
まだまだ保守的だったり勇気の出ない男性も多いでしょうから、男性を起用することで空気を作ったり「いいんですよ」と後押しする効果も期待できます。
ジェンダーレスという言葉は主に生き方やマインド、ダイバーシティ社会の文脈で語られることが多かったのですが、ここに来て経済的な視点からも注目されてきたと言えます。
3・ジェンダーレス戦略で先行していた中国
これは国が、政府がという大きい話ではなく商業ベースの話ですが。実はおとなり中国では、少し前からブランドのジェンダーレス戦略が盛んになっていたんです。
例えば、ドラマ「陳情令」などで日本にもファンが多いワンイーボー(王一博)さんは2019年からシュウウエムラ、2021年からはシャネルのイメージキャラクターを務めています。
特筆すべきはその着こなしセンスの高さ。完全にウィメンズアイテムを着こなしているのです。
いわゆる”シャネルジャケット”を完璧に着こなしている。もはやメンズかウィメンズかなんて関係ないよね、と言われても説得力がありますよね。
もうひとり、人気俳優のシャオジャン(肖戦)さんもGUCCIのグローバルアンバサダーやTODSのアンバサダー、コスメブランドNARSのグローバルアンバサダーを務めています。
グッチの新しいブランドアンバサダー、シャオ・ジャン #XiaoZhan は、#GucciTailoring をはじめとしたウェアやアクセサリーをまとい、遊び心あふれる写真シリーズにも登場。 #XiaoZhan #AlessandroMichele #GucciHorsebit1955 pic.twitter.com/cBRj2MhktK
— GUCCI JAPAN (@gucci_jp) October 25, 2021
2023/07/26
— Xiao Zhan Japan Fanclub (@xiaozhanjapan) July 26, 2023
肖戦がグローバルブランドアンバサダーを務める「NARS」微博更新
画像2枚公開💖#肖戦 #シャオ・ジャン #XiaoZhanxNARS pic.twitter.com/bdzoua6cgY
おふたりとも単純にビジュアルが際立っていて着こなしのレベルが高い。日本でも中々見ることのできないクオリティです。ジェンダーレスという枠にぴったりの印象でもありますが、中国は14億人を抱える一大商圏であり、それを半分に分けず全てを対象に販売できた方が良いと考えるのは自然なことですよね。
翻って日本は少子高齢化が避けられない中、性別を問わず商機を作ることで活路を見出せる可能性がある。これもまた自然な発想ではないかと思います。そしてこの流れが日本にも来たということは、これまで述べてきた戦略の中国での成績が良かったからに他なりません。
余談ですが、シャネルはずっとメンズラインを作らずに来ていますが、この感じだと男性が普通にウィメンズを着るようになりメンズを作らないままで行けそうです。そんな勢いがあります。
さいごに・ビジネスとしての考え方
これまで、特に日本では年齢や性別で区別してポジショニングやブランディングをすることが普通でした。
でもこれからはそういった区分ではなく、属性別でブランドやサービスを考えていくべきでしょう。
年齢や性別はピンポイントで刺されば効果があるものの、必ずそこから外れてしまったりそもそも除外してしまってる層が出てくる。一方属性でくくれば「テイストが好きな人」が勝手に集まってくるので年齢も性別も関係ありません。
つまり、選択をユーザーに委ねるということ。
すべてこちら側でビシッと定義するのではなく、ユーザーが思うに任せる余地を作る。幾つであろうと、男性であろうと女性であろうと「いいな」と思えば利用購買できる設計にしておく。
属性が同じであれば、そういった違いも超えて共感し合えます。アーティストのコンサートには様々な層が来場して楽しんでいますよね。それと同じこと。メインに訴えたい層はあるだろうけど、聴く方は自由に楽しんでファンになっていいし、いつまでもファンでいていいわけです。
あとは、ビジネス的な面が突出するのではなく、本当に良いものだから区別せずに届けたいという部分が見えるかどうかでしょう。今後エイジレス、ジェンダーレスなものは当たり前のように増えていくはずですから。
さいごにジェンダーレスについて言うと、男性でも女性でもいわゆる性別らしいテイストが苦手、好みでないという層も相当数いるはず。そういった人が自由に、自分らしいスタイルを選べるようになることもトピックのひとつではないかと思っています。
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神崎裕介
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