マーケティングに求められる、複雑さと矛盾を乗り越えて考える力

2024年1月2日
全体に公開

マーケティングは、売上・利益をつくり、組織の成長"のみ"を考えれば良いわけではなくなってきています。

2023年はサステナビリティ情報の開示義務化も進みました。

令和5(2023)年1月31日、企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正により、有価証券報告書等において、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄を新設し、サステナビリティ情報の開示が求められることとなりました。

ブランドの活動が、

1. 地球への良い影響
2. 社会への良い影響
3. 生活への良い影響

この3つのバランスを保つことが重要になってきています。

ESGはSDGsといった言葉の理解を深めることは、
Want to(できると良い)
ではなく、
Must(必須であり前提)
となってきていると感じています。

では、どのように「ブランドの成長」と「地球や社会の持続性」のバランスをとっていけると良いのでしょうか?

2023年に出会った考え方で、これからのブランドのあり方、戦略をつくるプロセスを考える上で大切になってくると感じた視点をまとめておきたいと思います。

1. ドーナツ経済モデル

ケイト・ラワースの著書とフレームワークは2023年に出会った一番の衝撃でした。

わたしたちに必要なのは、成長してもしなくても、繁栄をもたらす経済だ。そのような発想の転換ができれば、成長への盲信が消える。さらには、金銭面でも、政治面でも、社会面でも成長依存を呈している今の経済を、どうやって成長してもしなくても動じないものに変えられるかを探れるようになる。
ケイト・ラワース ドーナツ経済

「成長だけを目指すのではなく、繁栄をもたらす経済」という新しいモデル提示がされています。

ケイト・ラワースはドーナツ経済モデルというの可能性を提示しました。

ドーナツ経済モデルの図解

繁栄をもたらす経済をドーナツに喩えて視覚的に表現をし、ドーナツの生地のところに全員が入るように政治や経済を進めていくことを目標とする考えです。

企業ではないですが、オランダ・アムステルダムでは、都市の戦略づくりにドーナツモデルが採用されています。

「人にとって」と「地球にとって」どちらも最適化された戦略づくりは、これから一層求められてきます。

1. 地球の持続性
2. 人の生活・社会の繁栄

この2つの相反する領域のバランスを保っていく感覚と知識が、戦略を考える人には求められてくることになると思っています。

動画でドーナツ経済の考え方をインプットするのには、ケイト・ラワースのTEDがオススメです。

2. ヘドニスティックサステナビリティ

サステナビリティを我慢して取り組むのではなく、楽しく取り組めるものへ(写真は筆者が2023年6月に訪れたコペンハーゲン)

2つ目のキーワードは「ヘドニスティックサステナビリティ」です。

ヘドニスティックサステナビリティは「快楽主義的な持続可能性」と訳されており、デンマークの建築家であるビャルケ・インゲルスがつくった造語です。

簡単に言うとヘドニスティックサステナビリティは、人々の生活の楽しさと、環境へのやさしさなどの「持続可能性」を融合しよう、というアイデアだ。ヘドニスティック(快楽主義的)とサステナビリティ(持続可能性)という2つの言葉は、これまでは「うまく組み合わせられない」と、多くの人々から捉えられてきた。地球や社会の持続可能性を追求するには、楽しさではなく、何らかの「我慢」「あきらめ」が必要だと思われることが多いからだ。
IDEAS FOR GOODより引用

デンマーク・コペンハーゲンを訪れた際にヘドニスティックサステナビリティを象徴する取り組みである「コペンヒル」を見学させてもらいました。

廃棄物処理場を、市民・観光客が楽しめるものに変えてエネルギー問題をより身近なものにしようという取り組みです。

生活者が地球環境を守るために我慢するのではなく、楽しく参加できるデザインを設計することは、これからのブランド体験設計に求められてくると考えています。

ビャルケ・インゲルスのTEDやNetflixドキュメンタリーは、これからの時代に求められるクリエイティビティとは何かを考えるヒントが詰まっていると感じています。

社会課題と向き合う時こそ遊び心が大切だと考えています。

複雑さと矛盾を乗り越えて考える力

ここまで、「ドーナツ経済モデル」「ヘドニスティックサステナビリティ」2つのキーワードについて紹介してきました。

・経済性と社会性のバランス
・地球環境と人の生活のバランス
など、ブランドに求められる要素は複雑化してきています。

orからandの発想へ

地球環境を優先してブランドの成長を止めようという考え方では無理があります。

サステナビリティorブランドの成長といったorの発想ではなく、

サステナビリティ and ブランドの成長

のand発想への切り替えが求められる時代になっていると感じています。

複雑さや社会の矛盾する構造と向き合い、
「どうすれば矛盾した複数の要素を両立できるか?(時には矛盾を乗り越えるか)」
を考えることが、マーケティングの仕事をする際に重要だと考えています。

複雑な問題と向き合う態度としての「パラドックス思考」

2023年に読んだパラドックス思考は、複雑化した社会環境の中でどのように考えるかのヒントが詰まった本でした。

パラドックス思考とは、要素Aと要素Bの相反する要素の矛盾を乗り越えて、創造的な解決策を導き出す考え方です。

こちらは、このトピックスでも書いたパラドックス思考に関する記事です。

2024年も複雑な問題解決を楽しみながら、未来に少しでも良い影響を与えられるブランドづくりに貢献していきたいと考えています。

また、売上・利益をつくれればOKという発想ではなく、マーケティングの「外」に出て視野を広げていきたいと思っています。

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