考える人

2023年9月20日
全体に公開

思考力とはどういう力か

知識偏重教育に警鐘が鳴らされ、思考力を育む教育が重要視されるようになってから久しいです。「思考力」と某通販サイトで検索すると、「思考力トレーニング」「思考力を高めるには」「思考力ワークブック」などなどたくさんの書籍や教材が散見されます。

「思考力」というと、難解なパズルとか、トリッキーな文章題とかを思い浮かべませんか?何となく、私たち日本人にとって思考力とは、「パッと見で取り組むと間違えそうな難しい問題が解ける力」という理解が強いように思います。

文科省の「新しい学習指導要領等が目指す姿」にはこう書かれています。

問題発見・解決に必要な情報を収集・蓄積するとともに、既存の知識に加え、必要となる新たな知識・技能を獲得し、知識・技能を適切に組み合わせて、それらを活用しながら問題を解決していくために必要となる思考。
(2)育成すべき資質・能力について 1.育成すべき資質・能力についての基本的な考え方 2)「知っていること・できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)」より

そしてこの力を「例えば(中略)国語や外国語において様々な資料から必要な情報を整理して自分の考えをまとめる過程、・・(中略)などを通じて育まれていく」と各教科で養うとされています。

つまり、算数や国語の勉強をすることで、自然と思考力が養われると言うわけです。

この辺りのアプローチ感が、難しい文章問題が解ける=思考力が高い と言う感覚の始まりかもしれないですね。

細かく狙ってつける思考力

国際バカロレアが価値を置く人間性は、IBの学習像「IB Learner Profile」と呼ばれ、3歳から18歳までの全プログラムで目指すべき姿として扱われています。
探究する人、信念をもつ人、コミュニケーションできる人、思いやりのある人、知識のある人、振り返りができる人、挑戦する人、バランスのとれた人、心を開く人、考える人。
授業においても、クラス活動においても、生活指導においても、何かにつけてこの学習者像に触れます。

その中の考える人は、「私たちは、複雑な問題を分析し、責任ある行動をとるために、批判的かつ創造的に考えるスキルを活用します。率先して理性的で倫理的な判断を下します。」
とされています。

IBでは、初等教育の段階から単元ごとに身につけるスキルを意識させながら学習を進めます。社会性・コミュニケーション・リサーチ・自己管理・思考。これらのスキルをApproaches to Learning /ATLと呼び、さらに1つ1つのスキルは細分化され、例えば思考スキルであれば、批判的思考スキル・創造的思考スキルなど複数のスキルに分かれます。
教師は単元を計画する際に、どのATLのどの細分化スキル習得をターゲットにするのかを明確にし、生徒もそれを承知して学習を進めます。

つまり、「この学びを通して何が身につくのか」を知った上で授業を受けるわけです。
「この単元では思考スキルの中でも特に創造的思考スキルにスポットを当てている。ならば、プロジェクトではこれまでになかったアイディアややり方で取り組もう」というアプローチで子供達は学習を進めます。プロジェクトの出来上がりというより、どうプロジェクトに向かったのか、それによって何をどのように学んだのか、が肝心です。
こうして「学び方を学ぶ」ことが、IB教育の信念というわけです。

よって、教科で身につける思考力というよりも、思考力を通して教科知識を得ていくということになります。ですので、教科固定の思考力ではなく、複数の教科を同時並行的に捉えること(これを教科横断的と言います)になります。

思考力育成イメージ図:筆者作成

結局、行動

先日、本校の子供達にこんなお題を出して考えてもらいました。

有名なロダン「考える人」の像。この人が実際に考える人になるために足りないものはなんでしょう?
もちろん像ですから、「動けない」ということで、「考える人はその考えを行動にうつさなければいけない」というような話なんですが・・・

子供達が出した意見は、
・行動にうつせていない
・わからないことを調べていない
・問いを見つけていない
・考えを深めるために対話する相手がいない
・下を向いていて前向きになっていない
・自分の考えを表現していない
・問題を解決しようとしていない
・次の考えに進んでいない

世の中の多くの問いの答えは、1つではありません。そのことをどれだけちゃんとわかっているか。そこが思考力の原点であり、また力の育成が行き着く先でもあるのです。

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